愛に沈めてあげる
「んー……」
三限目の古典の時間。丁度眠気のやってくる時間に子守唄のような話し方をする先生のこの授業。まわりは皆突っ伏しておやすみをしている。先生がちょっと可哀想だと思いつつも、沙良も話を聞いていなかった。
机の下で、スマートフォンをいじる。みているのは、例の「奴隷調教日記」。過激なサムネイルが表示されたりしないように、画像表示設定をオフにしてこっそりとみていた。確認しているのは、更新履歴だ。ここのところずっと更新履歴のところは動いていない。つまり、波折と「ご主人様」が会ってセックスをしていないということだ。
これはいいぞ、と沙良は思う。鑓水がずっと波折の家に滞在しているから、というのが主な理由であるからそれに対しては少し不満だが、「ご主人様」なんかに波折が抱かれるよりもずっといい。「ご主人様」は……絶対に、波折によって良くない男だ。波折を不幸にする。
(っていうか「ご主人様」って誰だよ……)
正体不明の「ご主人様」。何を目的としてこんなことをやっているのだろう。
鑓水は「ご主人様」から波折を無理やり引き離すのは無理だから、自分が波折にとっての休息所となることで波折を救おうとしている。でも、それでは波折を根本的には救えないだろうというのが、沙良の考え。波折に「ご主人様」から離れたいという意思を持ってもらわねば本当の意味で波折を救えるということにはならないのだから。
……だから、今朝みたいにああして愛を注ぎまくってあげるのは悪くない、と思った。「ご主人様」のことなんて考えられないくらいに、波折のキャパシティがオーバーするくらいに二人で愛を注ぎまくってやる。どろっどろにしてやる。
(波折先輩……幸せにしてあげたいな……)
今朝のことを思い出すと下腹部が熱くなってきてしまうが、ここでテントを張るわけにもいかない。沙良はスマートフォンをしまい、先に進んでしまっていた板書をノートに写し始めた。