生徒会室に二人きり
沙良が今日からみんなと同じ時間に帰ることができるらしい。それというのも、沙良の父親が今日からしばらく早く帰ることができるようになったからで、沙良が遅く帰っても夕紀が一人になることがないからだ。
それを聞いてから、波折はずっとそわそわしていた。活動が終わる少し前に、こっそり鑓水に自分の家の鍵を渡して言う。
「ごめん、今日一緒に帰れない」
鑓水はなんとなく波折の考えていることがわかったのか、鍵を受け取るとぽんぽんとその頭を軽く叩く。
「帰ってはくるのか?」
「帰ってはくると思うよ。待ってて」
「はーい。波折が帰ってくるの待ってるわ」
活動が終わると、鑓水は波折よりも先に帰っていった。他のメンバーも身支度を終えて次々と帰っていく。生徒会室には、沙良と波折が取り残された。……まるで、少し昔の光景のようだ。生徒会室に、身支度のあまり早くない沙良と最後まで教室に残る波折が二人で残る、というこの光景。
どうやって話を切り出そう。それだけを考えて波折はひたすらに悩んで、考えて、苦しんでいた。早くしなければ沙良は生徒会室からでていってしまう。沙良のほうから会話を切り出してくれる希望などゼロに等しいのだから、自分がどうにかしなければいけない。でも……
「あっ……」
悩んでいるうちに、沙良は身支度を終えてしまった。自分の席から離れて出口に向かっていってしまう。
「まっ、……て、」
波折は焦った。チャンスは今しかない、と。慌てて沙良のほうへ駆けて行って、彼の手を掴む。扉に手をかけていた沙良が怪訝な顔をして振り返ったところで、波折はう、と言葉に詰まった。
「……なんですか」
「あっ……いや、」
怖い、と思った。沙良にこうした眼差しを向けられることなど、今までなかったのだから。
沙良が波折の行動を不快に思うのなんて、当たり前なのだ。今まで必死に想いを伝えてきたのにそれを拒絶して、それなのにいざ彼が離れていけば未練たらたらの態度を波折がとる。沙良からすれば馬鹿にされているとしか思えないだろう。自分の恋心を侮辱されているにも等しいのだ。
波折も、恋心というものをはっきりと理解していないにしても、自分の行動が沙良にとってそう感じるものであるということくらいはわかる。身勝手なことをしている、ちゃんとわかっている。それでも離れて欲しくない。
……でも言葉がでてこない。
「……放してください。帰れないので」
「……まって、」
「じゃあ早く用件を言ってください」
「……っ、」
沙良からの拒絶。明確なそれに、心がどんどん傷ついてゆく。これと同じことを、自分は彼に何度もしていた。それなのに彼は何度も自分に想いを伝えてきては優しくしてくれていた。沙良への拒絶にはちゃんとした理由があった、それでも酷いことをしていたということには変わりない。
沙良のいらだちが伝わってきて、波折は更に言葉を失ってゆく。はやく、はやくしないと沙良に本当に嫌われてしまう。それは嫌だ、絶対に嫌だ。
「……ごめんなさい、……ごめんなさい……」
もう、何がなんだかわからなくなってしまう。焦りに焦ってでてきた言葉は何に対して謝っているのかもわからない、そんな言葉で。とにかく嫌わないで、そんな想いから波折はぼろぼろと泣いて、謝って……そして沙良に抱きついた。
「……何に、謝られているのかわからないんですけど」
沙良は波折を突き飛ばそうとした腕を、ぐっと抑える。正直なところ、腹がたって仕方なかった。必死に想いを伝えて、献身して、でも波折には恋心を抱くことすらも許されなくて。
だから、そんなに彼にとって自分の恋心が鬱陶しいのならなんとかして彼のことを諦められるようにと距離をとったのに。無視をしたわけでもない、普通に接してきた。ただ必要以上に接触しなかった、いつも彼が拒絶してくる行動をとらなかった、それなのに。そうした途端に波折は自分から近づいてきた。
――俺のことを振り回して楽しいかよ。こっちがどれほどあんたのこと好きだったのかわかってんのか。今更何がしたいんだよ。
「……すみません、放してもらえますか」
「……まって……さら、……まって、」
「だから、言いたいことあるなら早く言ってください」
「……ッ、……さい」
「え?」
「……離れないでください……俺から、離れないで……お願いします、側にいてください……!」
震えながら、波折が言う。「ごめんなさい」と「お願いします」を何度も何度も言って、沙良に縋り付きながら懇願する。しゃくりの回数が増えてくると、何を言っているのかよく聞き取れなくなってしまった。
怒り心頭に発していたが、さすがに沙良もそこまで言われてはうろたえてしまった。そんなに俺の側にいたいの? 今まであんなに拒絶していたくせに? 一体どうすればいいのかわからない。
「さみしい、……さみしい、から……本当は、沙良と一緒にいるの、楽しかった……友達になろうって言われて嬉しかった……だから、突き放されると、さみしい……」
「……だって俺は波折先輩のこと好きになっちゃだめなんでしょ」
「……ッ」
波折が顔をあげる。涙で濡れた瞳がきらきらと光っていて、ぐしゃぐしゃに泣きはらした顔だというのに綺麗だった。波折は言葉に詰まっている。ほら、やっぱりだめなんじゃん、と沙良は内心ため息をついた。波折にはいらだちを覚えているが、別に突き放したいわけじゃない。でも一緒にいるとどうしても好きな気持ちを抑えられないから、一緒にはいたくない。波折に「側にいて」と言われても頷くことはできない。
だから、波折の側にいるのには、条件がある。
「……キスしてもいいなら、波折先輩から離れないよ」
「……え」
「これから、俺が好きって言っても拒絶しないなら、一緒にいる」
「……っ」
波折への恋心を、彼が許してくれること。それが、一番の条件で譲れないものだ。
沙良がそれを告げれば、波折の顔がぱあっと赤らむ。まるで花が咲いたように。沙良の「一緒にいる」という言葉がとてつもなく嬉しい、それが波折からバシバシと伝わってきて、沙良は眩暈がした。波折の行動に苛々はしているものの、波折のことが好きなことには変わりない。そんなに自分を求められたら、ドキリとしてしまうもの。
「……でも、沙良……」
「……なんですか」
「……俺を好きになったら……絶対に傷つくよ」
「何回も聞いてる」
「……沙良」
沙良を見つめる波折の瞳が、ゆれる。そして、徐々に熱を帯びてゆく。
「……波折先輩。俺さ、」
沙良はは、と吐き出すように波折の名を呼んで、その腕を掴んだ。そして扉の鍵をかけると、波折をひっぱっていき、ソファに押し倒す。驚いた顔をしている波折の上に乗り上げて……沙良はブレザーを脱ぎ捨てた。
「……さ、ら」
沙良が自らのネクタイを解いてゆく。指先は結び目にかかり、するするとネクタイは沙良の首を滑って落ちてゆく。
「――ずっと、我慢していました」
ギシ、とソファが軋む。沙良が波折の頬を撫で、髪を撫で、そして唇を撫でると波折はふる、と瞼を震わせた。波折の唇から吐息がこぼれる。熱いそれはまるで誘っているようだった。
「あっ……」
くちづける。
今までずっとずっと胸の奥にしまっていた想いを全てのせて、沙良は波折にキスをした。
「沙良……」
「はい……」
「そばに居てくれる?」
「います」
「離れない?」
「離れません」
「……沙良」
ぽろぽろと波折の瞳から涙がこぼれる。嬉しくて、嬉しくて、たまらない。そんな風に波折は沙良に抱きついた。再び唇を奪えば、泣きながら波折はそれに応えてくれる。「んっ、んっ、」と甘い声をたくさんあげて、沙良とのキスに夢中になった。
「……波折先輩、覚えてる?」
「ん……?」
「このソファで、はじめて、波折先輩と悪いことしたときのこと」
「……うん。沙良……」
波折が沙良の手をとって、自分の服の中に差し入れる。するするとカーディガンとシャツがあがっていき、そして手は胸に。すでにツンと勃った乳首に沙良の劣情は煽られる。
「……今日は、最後までしよう」
生徒会室に、じっとりと熱い空気が流れる。お互いの情欲が炎をあげる。沙良は波折の服を全て脱がせ、全身を愛撫した。もう遠慮する必要はないのだと思うと、がっついてしまう。身体の隅々を丁寧に丁寧に舐めあげて、波折の全てを愛した。すべすべで弾力のある肌は触れているだけでも気持ちよくて、触っていると時を忘れそうになってしまう。
「あっ……あぁっ……ん……」
「波折先輩……俺、ずっと波折先輩とこうしたいって思ってたんですよ」
「さら、……あぁっ……」
「先輩……可愛い……先輩、好き……」
身体の全てを、愛されている。そんな感覚に波折は蕩けてしまっていた。心も、身体も。気持ちよすぎて、ぼんやりとしてくる。まだ触られてもいない後孔がひくひくとしてしまって、身体は完全に欲情していた。沙良の想いを一身に浴びて触られることが、本当に心地よかった。
「ぁふ……んん……あっ……そこ……イイ……」
「ここ?」
「あぁんっ……あぁ、イイ、イイ……」
「腰揺れてる……先輩……先輩の気持ちいいところ、もっと知りたいです」
「さら……あっ……」
波折の反応を見ながら、沙良はたくさんその身体を愛した。彼がイイといったところを集中的に責めてゆく。鑓水に追い付きたい――その焦りをぐっと抑えて、少しずつ波折の身体を知っていこうと思った。
後孔に、指を挿れてキスをする。波折のペニスからだらだらとこぼれる先走りをつかって孔をほぐしてやれば、ぐちゅぐちゅといやらしい音が響いた。波折の頭を撫でながら、唇を覆うようにして波折の咥内を舌でかき回す。上も下も沙良に突っ込まれているという感覚に、波折はへろへろになりながら喘いでいた。
「あぁ……んっ……ふぁ、ん……きもち、いい……ああぁ……」
「先輩……可愛い……」
「んっ……あっ、……そこ、……そこ、すごい……あっ……」
「ここ、先輩のいいところ? こう? 気持ちいい? 先輩……」
「あぁあっ……! んっ……! もっと、……もっと、さら……そこ、もっといじって……!」
「こうですか? あ、すごい指締め付けてきた……ここ、好きなんですね、先輩……」
「あっ……は、ぁあっ……ん……! んっ……気持ちいいっ……さら、そこ、気持ちいい……! あぁあっ……!」
指を増やし、どんどん孔を柔らかくしていく。まるで生き物のようにうねるそこはいやらしくて、でもそんないやらしい波折が可愛くて。自分の愛撫で感じてくれていることに感激しながら、沙良は波折の孔を可愛がることに夢中になった。
「先輩……いれていい?」
「うん……」
十分に柔らかくなったそこが、ぽっかりと穴をあけてはくはくと息をするように疼いている。くらりと眩暈がした。みるのは初めてではなかったが、これから自分のペニスを挿れるところだと思うと、感動してしまった。波折のそこは綺麗で、本当に同じ男なのかなあ、なんて思ってしまうくらい。つるつるとしていて、内側の赤い部分が見えている。
余裕がなくなってガチガチにかたくなった自分のものを、沙良はそこに押し当てた。先っぽが穴の入り口に密着すると、吸い込まれそうになる。欲しい、欲しい、そう言っているみたいで、お尻の穴すらも可愛い波折が愛おしく思えた。
「あっ……ふ、ぁああ……」
ず、とペニスが中にはいっていく。はいった瞬間に波折のなかがきゅうっと締まったものだから沙良は驚いて一瞬腰をとめてしまった。しかし、なんとかゆっくり、ゆっくりなかに挿れて奥にたどり着くと、波折のきゅんきゅんと動いている肉壁全体でペニスが包まれてたまらなく気持ちいい。ペニスが熱に包まれると、いよいよ一つになれたという感じがして、沙良は感動のあまり身体の力が抜けて、波折にどさりと覆いかぶさってしまう。
「……波折先輩。嬉しすぎて俺おかしくなりそう」
「俺も……沙良とひとつになれて嬉しい……これからも沙良と一緒にいられて、すごく嬉しい……!」
「波折先輩……大好きです」
「さら……ぎゅってして」
「はい……」
沙良は波折を掻き抱いて、キスをする。波折も嬉しそうに沙良を抱きしめ返し、涙を流した。
ここ数日、沙良に他人行儀な態度をとられたり彼女らしき人物が近くにいたりして、本当に辛かった。沙良のなかに自分はもういないのだと思うと寂しくて仕方なかった。だから、こうして再び沙良に必要とされて、たまらなく嬉しかった。
沙良に触れられるだけで感じてしまう。沙良にもっともっと愛して欲しい。求めて欲しい。遠慮がちな沙良の触れ方でもここまで感じてしまうくらいに、波折は沙良に好きと言われることが嬉しかった。
「あっ……あ、ふ……」
ゆっくり、沙良が腰を動かし始める。その瞬間とてつもない快楽の波が襲いかかってきて、波折は腰をびくんとひくつかせた。ぐ、ぐ、と先ほど波折が「イイ」といったところを沙良は突き上げてやる。そうすれば波折は腰をかくかくと揺らしながらよがり狂った。おかしくなっちゃう、そんな波折の姿が可愛すぎて、沙良の抽挿の速度はどんどんあがってゆく。
「あっ、ひゃあっ、あぁんっ……さらっ……あぁあっ……だめ、あっ……そこ、イッちゃう、ぁあっ……」
「波折先輩……可愛すぎ……!」
「あっ、あっ、あっ、さらっ……すごいっ……あぁんっ……あーっ……、そこ、っ……あぁっ……」
波折は抱かれるときこんなに可愛かったのか。沙良はきゅんきゅんとしながら波折を突いて突いて突きまくった。波折は感じれば感じるほどに可愛くなっていって、そのいやらしい声に艶が増してゆく。それが沙良を煽り、さらに激しく。そして波折はもっと感じて……どんどん二人の熱はあがってゆく。
「あぁっ……イクっ……! イッちゃう……! さらっ……あぁっ……!」
「俺も、……波折先輩……!」
「なかっ……なかにだして……! さらの、なかにちょうだい……あぁっ……あっあっ……イクッ……あぁーっ……」
「波折先輩……!」
波折の腰を掴み、沙良は勢い良く波折を突き上げた。ガツガツガツガツと波折のふとももの肉が震えるほどに激しく突いて、奥の奥をえぐるように突きまくって、そして……
「あぁっ……!」
なかに、思い切り出した。絶頂で意識が飛ぶかと思った。沙良がぱたりと波折の上に倒れ込めば、波折がはあはあと激しく息をきらしながらも甘えるようにすりすりと頬をすりつけてくる。沙良はいれたまま、波折に触れるだけの口付けを繰り返し、微笑んだ。
「波折先輩……愛しています……好き、大好き……」
「沙良……もっと、言って……」
「好きです……波折先輩。大好き。もう離しません」
「嬉しい……沙良……」
波折は泣きながら笑っていた。その幸せそうな表情に、沙良の胸が締め付けられる。そんなに彼にとって自分は必要なものだったのかと思うと、たまらなく嬉しくなった。そして、傷つけてしまったことを申し訳なく思った。
やっと、想いを伝えることが許された。それが、沙良にとってものすごく嬉しいことだった。