すきま風

 どうしよう、ぐるぐると悩みながら沙良は階段を昇る。

 昼休み、生徒たちがようやくご飯を食べれると騒ぎ出す時間。鬱々としながら沙良は屋上へ向かっていた。原因は、今朝自分がやらかした失態。激情にまかせて波折に変態じみたことをしてしまったから、彼の前にどんな顔をしていけばいいのかわからない。ドクンドクンと高鳴る心臓を抑えて、沙良は屋上の扉を開ける。


「……、」


 今日も快晴だ。扉をあければそこには青空が広がった。そして――いつものように、フェンスに寄りかかっている人。


「……波折先輩」

「……沙良」


 波折はいつもと変わらない様子で、そこにいた。沙良に気付くとまたいつもと同じ、すまし顔を沙良に向ける。


「あの……朝はすみませんでした」

「……別に」


 恐る恐る、波折の隣に座ってみれば彼は特に反応を示さなかった。いつものポーカーフェイスだ。


「……」


 ――正面からぶつかっていけばいいってもんじゃない、か。

 波折は沙良がはじめからはっきりとした関心をみせたせいで沙良のことを拒絶している。沙良は鑓水が始めのうちは波折と距離をうまくとっていたことを思い出し、やはり鑓水のほうが上手だな、と落ち込んだ(鑓水がいつ波折を好きになって、実際のところどう波折と距離をつめたのかは知らないが)。

 好きになってもらうにも、この拒絶の壁を取り払わなければいけない。まずそこが難しい。前から拒絶されてもめげないで頑張っていたが、鑓水が一歩先に進んでいることを知ってしまうとゆっくり、なんて考えられる余裕はなかった。

 ……でも。


「波折先輩、」

「なに」


 ちらりと横目で沙良を見た波折の髪の毛が、さらさらと風に靡く。……目を奪われるくらいに綺麗だ。焦って、無理に関係を迫るなんてことはやっぱりしたくないし……。


「……」


 自分に抑えを効かせてはいる。しかし、沙良は先ほどからぴくぴくと小さく震えている波折に、焦燥を覚えていた。原因はわかる、服の中に仕込んでいる「アレ」だ。涼しげな顔をしているくせに、実は感じているらしい。

 だめだ――そう思うのにどんどん心が焦ってゆく。彼に無理やり迫ったりしちゃ、だめ。でも、ちょっと手を伸ばせば自分に可愛い顔をみせてくれそうな波折がいる。


「……」


 沙良は軽く、波折の手を握った。ぴくん、と波折が震えて「放せ」と目で訴えられる。でも、放さない。心の焦りはどんどん加速していって、ある記憶を掘り起こす。――セックスの上手さも大事、という鑓水の言葉だ。ろくに経験のない沙良には耳が痛い言葉だったが……今、触れればを波折を感じさせることができる。朝から焦らされて焦らされて快楽が溢れ出ている今の彼だったら。


「あっ……」


 沙良はとうとう、波折の身体に触れた。カーディガンの上から、つうっと上半身を撫でてやる。


「さ、さら……やめろ」

「……朝の、どうでしたか」

「あっ……さら、だめっ」


 胸の上に手のひらをおいて、くるくる撫でる。波折がかあっと顔を赤らめながら身をよじった。ふるふると首をふって、沙良を拒絶する。


「俺のこと、考えてくれていましたか」

「あっ、あうっ……やっ……」


 そのままカーディガンの上から波折の乳首を徐々に刺激していく。乳首を根元からつまみ上げ、ぐいぐいと引っ張る。波折はたまらない、といった表情を浮かべて少しずつ身体をのけぞらせていった。フェンスに寄りかかり、カシャ、と音を立てる。しばらく乳首を引っ張ってやれば、波折は目を開いて、濡れた瞳で沙良を見上げる。どき、と沙良がしてしまったときだ。


「はなして、さら……さらとは、こういうことできない」

「……俺、とは」

「さらとはできない、……!」


 「俺とは」。そんな波折の言葉に沙良が過敏に反応する。やはり理性が残っている波折は沙良を拒絶する。わかっていた、今までもずっとそうだったから。しかし、今の沙良にその言葉はいやに響いてしまった。鑓水に負けそう、そんな焦りが心に存在するなか、そんな言葉を聞かされて……沙良の限界が訪れてしまう。


「あっ……」


 沙良は波折の服を一気にめくり上げた。顕になった素肌に冷たい風が触れて波折が目を瞠る。


「……鑓水先輩のことが好きだからですか、」

「けっ……慧太は関係なくて、」

「じゃあどうして……! 鑓水先輩のことは受け入れて俺を受け入れないのはなんで……!」

「だから……慧太はこうなる予定じゃなかったっていうか、」

「それでも……結果として波折先輩は鑓水先輩のことは受け入れたんでしょう……俺ばっかり、拒絶しないでよ……」


 波折の胸には、絆創膏が貼ったまま。乳首を刺激したからだろうか、絆創膏の下で乳首が勃って、絆創膏が盛り上がっている。沙良は絆創膏の上から乳首をぎゅっとつまむと、そのままぐりぐりと引っ張りあげた。


「ひゃあうっ……! やぁっ……」

「俺はたしかに……鑓水先輩より背は低いし、あんなにかっこよくないし、頭だってキレないし……大人じゃない。……けど、俺だって波折先輩のこと好きなのに」

「あぁっ……やっ、……だめっ、さらは俺のこと好きになっちゃ、だめ……!」

「うるさい! 俺は波折先輩のこと、好きです! 好きなんです……! 好きです……」


 ぺり、と絆創膏を剥がしてやると、波折がびくっと震える。絆創膏の下の乳首は、紅く染まりぷっくりと膨れていた。沙良は片方の乳首にぱくりと食らいつくと、ちゅうっと吸い上げる。そうすると波折はため息のような甘い声を漏らしながら、のけぞっていった。


「ふ、ぁあっ……やあっ……さらっ……だめぇ……」


 舌先で、乳首の先をごりごりと擦ってやる。吸う。甘咬みする。そしてくにくにともう片方の乳首を揉んでやる。乳首への集中的な責めに波折はふるふると髪を揺らしながら悶え、嬌声をあげていた。


「あぁっ……さら……やめてぇ……」

「俺への拒絶やめてくれるなら止めます」

「だめ、だめ……さらは、おれのことすきになっちゃ、だめ……あっ、あぁあっ……すわないでっ……やぁっ……ふぁっ、あぁあんっ……あー……あっ……あー……」


 ピクンピクンと震えて、波折は達してしまった。それでも沙良が乳首をイジメ続ければ、波折の身体がいやらしく何度も跳ねた。波折がこの気持ちを認めてくれるまでやめてやらない、そう思って沙良は波折を責め立てる。


「ちくび、とけちゃう……やだ……やだぁ……あぁっ……イッてるから、もうイッてるからぁ……やめて、さらぁ……ふぁあっ……」

「付き合って、って言ってるんじゃないんです、俺の気持ちを受け止めてくれるだけでいいんです、波折先輩」

「いや、いやぁ……おねがい、ゆるして……だめ、だめなの、さら……あぁっ……」

「……俺のこと、嫌いですか」

「ちがっ……さら、やぁ……さら、さら……だめ、……おれのこと、だめ……んっ……やー……あっ」

「……っ」


 波折は頑なに沙良の想いを拒む。沙良が痺れを切らして強く乳首を責めてやっても、波折は絶対に沙良のことを受け入れようとしない。

 どうしてここまで。自分と鑓水のなにが違う。

 あまりの悔しさに、沙良は泣きそうになった。付き合って欲しいと言っているわけじゃないのに。想いすらも受け取ってもらえないなんて、こんなに哀しいことがあるだろうか。


「……っ、なんで」

「――ッ」


 沙良が身体を起こし、波折を見下ろす。波折はぐったりとしながらぼんやりとそんな沙良の顔を見上げ……息を呑む。

 沙良は、泣いていた。沙良の涙の雫がぽたぽたと自分の頬に落ちてきて、波折は戸惑ったようにまばたきを繰り返す。青空から降り注ぐ太陽の光に照らされて、その涙はきらきらと光っている。


「ただ、波折先輩のことが好きなのに……俺は、ただ……」

「さ、ら……」


 沙良は波折の服を軽く直してやると、立ち上がる。そして呆然とする波折に一言、「酷いことしてすみませんでした」とだけ言って……その場から立ち去ってしまう。波折は慌てて沙良を追いかけようとしたが、腰が砕けてしまって立てない。手を伸ばして、ただ沙良の背中が消えてゆくのを見つめることしかできなかった。


「沙良……」


 波折はその場にぺたりと手を突いて、うつむく。これでいい、そのはずなのにぽっかりと胸に穴が空いてしまったような気がした。


「……沙良、ごめんね、……俺が、俺が……、……だから、」


 涙が落ちる。声にならない声をあげて、波折はひとり、泣いていた。


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