余韻

「――ひろ。冬廣」

「……、あ、はい」


 ハッとして顔をあげれば、教師が苦笑いしている。隣の席の女子が教科書を指さして「ここ読むんだよ」と教えてくれたから、波折は慌ててそこを読み上げた。波折が申し訳無さそうな表情を作ってみせれば、教師は「冬廣がぼーっとしているなんて珍しいな」なんて言って、怒ることはなかった。

 朝、鑓水とセックスをしてから頭の中がぼんやりとして、何にも集中できない。それもこれも、あの鑓水の甘ったるい態度のせい。ストレスのはけ口でしかないといった態度を今までとってきたくせに、ここのところ優しくて。あんなふうに、優しい熱を与えられるとおかしくなってしまいそうになる。

 ……お願いだから、俺に好意をむけないでくれ。

 好かれたくはないという想いと、彼を放っておけないという想い。相反する想いが心のなかでせめぎ合って、授業が身に入らなかった。


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