窃笑

 波折たち2年の教室は、校舎の三階に位置する。学校について階段を登ろうとしたところで、職員室のほうからやってきた人物が声をかけてきた。


「お、会長と副会長!」

「……淺羽先生」


 現れたのは、淺羽だった。二人で登校してきた様子の波折と鑓水をみて、にやにやと笑っている。


「……最近、仲いいね〜。前そうでもなかったよね」

「そうですか?」

「こりゃ付き合っているって噂も本当だったりして」

「なんでその噂を淺羽先生が知っているんですか!」

「ん〜? 内緒」


 教員が俗な噂を知っているものだと、鑓水は驚いて大声をあげてしまう。からかう淺羽と鑓水が話している横で、波折はじっと黙っていた。波折が元気がなさそうにしているのに気付いたのか、淺羽が優しい声で波折に話しかける。


「どうした、波折」

「……あの、淺羽先生」

「ん?」


 波折は一瞬ちらりと鑓水をみて、もう一度淺羽に視線を戻す。そして、俯いて、唇を噛む。何かを言いたげな。迷いを感じるようなその表情に、鑓水は首をかしげた。結局波折は言いたかったことを諦めたように、哀しそうに目を伏せてしまったが。


「……それ、ただの噂ですから」

「えっ、おい、波折」


 それだけ言い捨てて、波折は鑓水の腕を掴むと階段をのぼっていってしまった。淺羽はそんな二人の後ろ姿をじっと眺めている。


「……ふうん」


 小さく笑った淺羽は、踵を返し……また、職員室へ戻っていった。

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