宣言


「……ん?」



 日付が変わる頃だ。スマートフォンのヴァイブレーションの音に気付いて、波折は目を覚ます。丁度眠りに堕ちそうなときだったが、なんとか手を伸ばしてスマートフォンを手にとった。



「あ……」



 電話の着信だ。発信元は「ご主人様」。無視をするわけにもいかず、自分の体を抱く鑓水の腕をそっとどかして、ベッドを抜け出す。



「……はい」

『もしもし、波折? 寝てた?』

「いえ……」

『あ、もしかして鑓水くんとエッチしてた?』

「今日はしてないです」

『ほうほう、今日は、ね。これから毎日鑓水くんが泊まりにくるんだって?』

「はい」



 いったい何の用だろう。なんとなく不安に思いながら、波折は「ご主人様」の言葉を聞いていた。「ご主人様」は機嫌が良いようで、電話の向こうで笑っている。



『鑓水くんさ、気になって調べたんだけど……結構良物件だね〜』

「……え?」

『面白そうだからちょっと虐めてみようかな、なんてさ』

「あ、あの……いじめるって、」

『それだけ! じゃあね、波折』

「は? えっ、ちょっと」



 ブツン、と音がして電話は切れてしまう。「ご主人様」の企みに波折は呆然としながら、スピーカーから漏れてくる終話音を聞いていた。なんとなく鑓水の眠るベッドに戻るのが憂鬱に感じる。だから、しばらくその場に座り込み、膝を抱えてうずくまっていた。
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