予約はとれず
「沙良、あんまり無理しなくていいからね」
「えー、大丈夫ですよ」
学園祭も近くなってきたということで、生徒会活動も忙しくなる。夜遅くまで残って作業するといことも少なくない。沙良の自宅で夕紀が一人で待っているということを知っている波折は、沙良を気遣っていた。とりあえず夕食の時間までに帰ればいいかな、と思っていた沙良は、もう少し残ることにしたのだが。
「高校の文化祭ってすごいんですね。前夜祭まであるんだ」
「――その前夜祭、おもろい噂あるぜ!」
沙良と波折が話していると、間に鑓水が割って入ってくる。きょとんとした沙良に、鑓水がにやにやとしながら囁きかけた。
「前夜祭でな、花火があがるんだ。その花火を好きな人と一緒にみると両思いになれるんだってさ」
「――波折先輩! 一緒に見ましょう!」
花火の話を聞いた瞬間、沙良は鑓水を押しのけて波折の手を掴みそう叫んだ。波折は突然誘われたからか驚いて固まってしまっている。弾き飛ばされた鑓水は沙良を押し返してまた自分も波折の肩を掴んだ。
「いや、俺と見ようぜ」
「先輩! 俺と!」
そんな三人の様子を遠巻きに眺めていた会計の可織と
月守は「修羅場……」と呆れ顔だ。当事者である波折もそんな二人と同じような表情を浮かべていた。沙良と鑓水の手を払うと、ため息をつきながら言う。
「……花火あげてるときは、俺達は裏で仕事しているだろ」
「あっ」
波折は「仕事しろ」とつぶやくと、沙良と鑓水から離れていって会計の二人のもとへいってしまった。取り残された二人は目を合わせて苦笑いしたのだった。