不思議な動画

「お、きたきた神藤君」


 放課後、沙良は生徒会室に向かった。初となる、生徒会の集まりだ。わくわくしながら部屋の扉をあければ、すでにそこに一人来ていた。一年で初めてだから、ということで沙良は早めに来ていたのだが、彼は更に先をいっていたようだ。


「覚えてる? 俺、鑓水。おまえと一緒に副会長の」

「はい、覚えてます! よろしくお願いします!」


 彼の名前は鑓水慧太(やりみず けいた)。二人いる副会長のうちの一人だ。見た目は金髪に少しだらしない服装、と不良のそれに近いが、話してみれば落ち着きがある。そもそも副会長という時点で成績はかなり優秀な方だということなので、人は見かけによらない。


「……鑓水先輩、何見ているんですか?」

「……みる?」


 鑓水はイヤホンをしながらスマートフォンで何かをみていた。沙良がたずねてみれば、鑓水はにやにやとしながら手招きをする。なんだろうと思って画面を覗いた沙良は変な声をあげそうになってしまった。


「ちょ、え、鑓水先輩、それ……エロ動」

「え、なに。そんな反応する? うぶなのね、神藤君」

「いや、だって……なんかそれ」


 鑓水がみていたのは、まさかのアダルト動画。沙良はアダルト動画をみたくらいでびっくりするほどうぶな性格はしていないが、彼がみているそれは、かなりマニアックなものだった。素人の投稿動画のようで、顔にモザイクがかかっている。そして、首に首輪がついていて、玩具をつかって自慰をしている……そんな内容だった。なにより驚いたのは、それが男だということ。



「このサイトやばいよ〜。『奴隷調教日記』。めっちゃエロい」

「……え、それ、あれですよね。……ゲイ動画。鑓水先輩ってそういう……」

「いや俺はノーマルだから! でもさあ、友達に教えてもらってみたら、このサイトのエロいのエロいの。正直抜けるわ。……そんな引かないでさ、みてよ!」

「……えー」


 へらへらと笑いながら、鑓水は沙良に迫る。沙良はひきつった笑顔を浮かべながら、渋々、その画面を覗いた。


***


『あ、あ……ああ……ごしゅじんさま、』


 少年が脚を大きく開いて、秘部をカメラに見せつけている。その穴には、ずっぷりとささったディルド。少年は夢中でぬぷぬぷとそれを抜き差しして、淫らな声をひたすらにあげている。



『みて、ぇ……ごしゅじんさま……おれの、まんこ……ちんぽはいってる……』

『××はえっちだね。こんなに太いちんぽを自分で挿れちゃって。ちんぽ大好きなんだ』

『ちんぽ大好きぃ……ふ、あぁ……あん……』

『ほら、乳首もちゃんと弄って。俺がいつもやってあげているみたいに、こりこりするんだよ』

『あっ……ちくび……あぁ、きもちい……ちくび、きもちいいです、ごしゅじんさま……』


 撮影者の男が少年の名前を呼ぶ時、そこにもモザイクがかかる。少年は男に言われた通りに乳首に指を這わせて、そこを弄くりだした。指先で根本からつまんで、引っ張り上げ、こりこりと刺激する。漫画だったらハートマークがいっぱいついていそうな、そんな蕩けきった声をだして、自分の身体をいじめることに耽っていた。


『ごしゅじんさまぁ……ごしゅじんさま、……イッちゃう……イッちゃうよお……あぁ……』


***


「……す、すごいですね……この動画……」

「だろ? なんかここまでアンアン言っているの見ると突っ込まれてみてえとか思っちまうわ」

「これ、本物なんですかね。男ってこんなAV女優みたいに喘ぐもんなのかな」


 その動画は、衝撃的。はじめはドン引きしていた沙良も、思わず見入ってしまった。まさに「堕ちた」という表現が似合うくらいに撮影者のいいなりになっている、動画のなかの少年から目が離せなかった。


「これモザイクかかってるからいいよな。実際に男の感じている顔みても萎えるっつーか」

「それは言えてますね」

「あ、でも絶世の美少年だったらアリかも!」


「――なにやってる」


 ガラ、と音をたてて扉が開かれる。現れた人物をみて、鑓水はぎょっと顔を引き攣らせた。


「わー……生徒会長様ー……」

「波折先輩!」


 入ってきたのは、波折だった。鑓水は生徒会室で後輩にアダルト動画をみせていたことをヤバイと思ったのか一瞬スマートフォンを隠そうとしたが、ふと思い立ったように波折を手招きする。不思議そうな顔をして寄ってきた波折の肩を抱くと、鑓水はにやにやとしながら波折にこっそりと尋ねた。



「……波折ってさ、こういうの見るの?」

「は?」


 鑓水は先程の動画をもう一度再生してみせる。その様子を、沙良は苦笑いして見ていた。憧れの生徒会長がそういうものを見ているところを見たくない、というか。でも、どんな反応をするのかは気になった。くだらないと一蹴するのか、それとも面白がって見続けるのか。自分よりも親しい人物と、波折がどんな会話をするのか、沙良は興味があった。



「これ……」


 しかし、波折の反応は予想外のものだった。目を見開いて、顔を青ざめさせて……黙りこんでしまったのだ。


「……波折?」

「……あ、いや。……俺、こういうの少し苦手だから」

「あれ、マジ? なんかゴメン!」


 波折はぱっと鑓水から離れると、自分の席につく。明らかに様子が変な波折が心配になって、沙良は彼のもとへ寄っていった。


「……波折先輩? 大丈夫ですか?」

「……いや、ほんと大丈夫。ちょっとびっくりしただけ」


 ゴメーン!と言いながら鑓水は波折にぺこぺこと謝り始めた。波折はしばらく、鬱陶しそうに彼をあしらっていたが、次第に落ち着きを取り戻していく。生徒会室でああいうのを見るな、と怒ることができるようになったころ、他のメンバーも教室へ入ってきた。
 
 今日の活動は、これからの計画を見直す、といったもの。はじめての生徒会の活動に沙良は胸を高鳴らせながらも、やはり様子のおかしい波折のことが、気がかりで仕方なかった。
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