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白柳さんは、そこまで俺に本気ではないだろう。あの時はキスをしてくれたり、俺に優しい言葉をかけてくれたりしたけれど、また会わなくなればきっとあっさり俺を忘れてしまう。その程度だ。俺なんて、誰かの特別になることなんてできない。
白柳さんから連絡がくることなんてないだろうと思っていたが、念には念を押して着信拒否をしておいた。っていうか、ブレッザマリーナ以外の番号からの連絡は一切でないことにした。……ついでに、ブレッザマリーナへも出勤しなくなった。今週の金曜日に予約が入っているという「東京の人」で、俺は最後の仕事にしようかと思う。あとは引っ越して、また同じような店で働くだろう。
とにかく、白柳さんとの連絡手段を一切絶った。万が一、彼の面影を見てしまえば、心が揺らぐからだ。また――ほしくなってしまうからだ。
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