甘い恋をカラメリゼ | ナノ
 trois


 大学の授業は、なんとなくねむい。特に午前の授業はねむい。

 大講義室で、ぼけーっと授業が始まるのをまっていた。大講義室にはたくさんの生徒がいて、みんな思い思いに過ごしている。友人と雑談している人、寝ている人、何かの作業をやっている人、勉強している人……。俺はというと、友人と雑談している人にあてはまる。


「ね〜梓乃ちゃん。これ食べる?」

「ん? ありが……」


 俺の横に座っていた彰人が、チョコレートの箱を差し出してきた。よくみると……チョコレートのパッケージに栗が描かれている。


「栗味ッ……!」

「あれ? 栗嫌いだった?」

「あ、いやそうじゃなくて……ありがとう。一個もらうね」


 ああ……俺までなんだか秋の味覚に反応してしまう。

 べつに、智駿さんが秋の味覚が苦手だからといって、俺まで秋の味覚を食べないでいる必要はないんだけど……。

 なんだか悶々としていると、後ろからきゃっきゃとした声が聞こえてくる。


「おはよー。元気?」

「あ、おはよ。元気だよ」


 やってきたのは、瑠璃と彩優。二人は俺たちの前に立って、持っていた紙袋をガサガサとあさりだす。そして、きれいにラッピングされた何かを俺たちに渡してきた。


「昨日ね、二人でスイートポテトを作ったんだ。はい、あげる」

「スイートポテト!」

「? あれ、梓乃、そんなにスイートポテト好きだった?」

「え? あ、うんめっちゃ好き。ありがと」


 おお……スイートポテト。立て続けに秋の味覚。

 俺がたじろいでいると、今度は彩優がスマートフォンの画面を見せてきた。


「ねえねえ、これ一緒にいかない? スイーツパレード! イチジクフェア! このケーキとかめっちゃ可愛くない?」

「イチジク!」

「……ど、どうしたの、梓乃。さっきから……」


 こんどはイチジク。なんでこういうときに限ってこんなに秋の味覚が俺のもとにやってくるのか。

 いや、まあいんだけど。栗もサツマイモもイチジクも俺は好き。その気持ちにはあらがえない。

 ごめんなさい智駿さん……! 味覚まではいくら恋人でもあわせられません!



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