▼ trente et un
「……ん」
鼓膜を電子音が打つ。ぽやぽやと夢見心地でまぶたをあけると、温かいものに身体が包まれていた。ふんわりと鼻孔をくすぐるのは大好きなにおい。智駿さんのにおい。そして、智駿さんのにおいにほんのりと混ざる、お布団の柔軟剤の香り。
「おはよう、梓乃くん」
「……ちはやさん」
顔をあげると、智駿さんが微笑んで俺を見つめていた。
カーテンから零れる朝日にきらきらと照らされた智駿さん。まぶしくて、温かくて、なぜだか涙が出そうになる。
……智駿さんと一緒に、朝を迎えられた。嬉しくて、たまらない。
「おはようございます、智駿さん」
「うん、おはよう。梓乃くん」
智駿さんがちゅっと俺のおでこにキスをしてくる。くすぐったくて、心地よい。
「梓乃くん、身体……大丈夫?」
「……。ちょっと、だるいかも……」
「ごめんね。僕、昨日……余裕がなくて」
「ううん……いいんです。智駿さんとあんなふうにエッチできて、……すごく、嬉しかった」
智駿さんが俺をぎゅうって抱きしめて、頭をぽんぽんと撫でてくれる。ああ……また、ねむくなってくる。
「まだ、少し時間があるんだ。もう少し……こうしていよう」
「はい……智駿さん……」
……幸せ。
こんなに幸せに包まれたのが初めてで、たまらない気分になる。
智駿さんの背中に腕を回す。全身の肌が智駿さんのぴたっとくっついて、温かい。
このまま、このまま……時が止まってしまえばいいのに。そんなことを思えるほどに、まばゆい朝だった。
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