甘い恋をカラメリゼ | ナノ
 sept

「梓乃ちゃん……油断はだめなんだよ……男はみんな狼なんだからね……」



 彰人は結城と揉めた(?)後からずっと俺にくっついていた。飲み会が終わってからもずっとべったりとしていて、端から見たら完全に酔っ払いだと思う。



「油断って……俺は智駿さんが好きだけれど、男が男を襲ったりとか日常的にないから」

「それが油断なんだって……梓乃ちゃんは自分がどれだけ可愛いのかわかってない……」

「自分で自分を可愛いとか思ってる男キモいから」



 ESLのメンバーたちは二次会があるみたいだけれど、俺達は参加しないで帰ることにした。誘われはしたけれど、なんとなく今日は二次会をする気分じゃなかった。

 飲み屋から駅までは、歩いて10分かからないくらい。すっかりヒッツキムシになっている彰人に肩を貸しながら、だらだらと駅に向かっていく。金曜日ということもあって飲みの帰りの大学生やサラリーマンが周りにはたくさんいて、時刻は9時を回っているけれど駅周辺は賑やかだった。



「彰人ー……駅ついたよー……」

「んー……梓乃ちゃん……ホテルいこ」

「……彰人ー……電車乗んないと」



 あれ、これはもしかしたら酔っぱらいみたいなんじゃなくて酔っぱらいなんじゃないだろうか。そういえば飲み会の最中、彰人は隣で結構飲んでいた気がする。その場ではそんなに酔っているようにはみえなかったけれど、後からくるタイプなのかもしれない。

……別に、介抱するのは構わないから寄ってくれてもいいけれど。ただ、こうしてべったりくっつかれるのは……「今は」困る。



「あ、あのね、彰人。ちょっと俺、今迎えに来てもらっていて」

「……むかえ?」

「っていうか、そこにいるんだけど……」

「んー? 親?」

「いや、……智駿さん……」

「……はっ」



 その名前に、彰人は一気に酔いが覚めたとでもいうように跳ね起きる。俺たちから少し離れたところにいるのは、そう、智駿さん。飲み会のあとに智駿さんの家にいこうと思っていた俺が、迎えを頼んでいたのだ。



「えっ、あっ、……は、はじめまして智駿さん」

「はじめまして」



 彰人は初めて会う智駿さんに動揺しているようだった。そしてついさっきまで俺にべったりしていたのをまずいと思っていたのか、あわあわとして頭を下げはじめる。



「ご、ごめんなさい、俺ちょっと酔っているもので」

「いやいや、そんな」



 智駿さんはくすくすと笑うと俺たちのところに近づいて来た。あんまりよくないところを見られたかなあ、と思っていた俺も内心彰人のように焦っていたけれど、智駿さんの表情は穏やかだ。

 彰人はそんな智駿を見つめて、ほー、と声をあげている。たぶん、俺の話とだいぶギャップがあるからかもしれない。俺が智駿さんの話をするときと言えばたいていエッチな話とかになってしまうから、彰人のなかの智駿さん像はたぶんとんだ肉食獣になっていたと思う。だから、智駿さんの温厚そうな見た目にびっくりしているんだと思う。



「あ、あの……俺、帰りますね! あとはごゆっくり!」

「あっ……送っていこうか?」

「いえ! 大丈夫です!」



 ぱっと俺たちに背を向けて彰人は改札に向かって走っていってしまった。改札に入る間際に振り向いて親指を立ててウインクしてくるという謎の行動付きだ。



「今の、もしかして彰人くん? 時々梓乃くんの話にでてくる」

「あ、はい。軽いやつでしょ」

「うんうん、梓乃くんの友達なのに梓乃くんとはだいぶ雰囲気違うんだねえ」



 そういえば男友達を智駿さんにみられたのは初めてだった。智駿さんは感心したように笑っている。

 そんなわけでとくに問題ごともなく、俺は智駿さんと一緒に帰ることにした。なんだか今日は色々と疲れたな、とこれから智駿さんとのんびりするのが楽しみで仕方なかった。



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