「いやあ……、急に会いたいなんてラブコールもらったから期待して来たけどさァ、喪服? 何、神藤クン、喪服でラブホいくつもり?」
鑓水は現れるなり、苦笑いでそんなことを言い放った。
梨瑚の葬儀が終わった後、神藤は鑓水に電話をした。「今から会えないか」と。べつに「ラブホテルに行こう」だなんて一言も言っていないのだが、意図としてはそれで間違っていない。
「いちいち家に戻るの面倒ですし……それに、部屋でそういうことするの、あんまり好きじゃないんですよ。隣人が気になるので……」
「なんだ、今日は随分と熱烈なお誘いだな。珍しい」
「……」
神藤はわずかに顔をしかめてそっぽを向く。そして、くい、と鑓水の腕を掴むと、ずかずかと歩き始めた。鑓水が「おいおい、早急すぎ〜」と笑うと、神藤が小さく呟く。
「うるさい、黙って慰めてください」
神藤の言葉に、鑓水が驚いたような顔をした。鑓水は一応、神藤が誰の葬儀に行ったのかを知っている。神藤の昔なじみの女性で、この間の事件で魔女から守り切れなかった相手。ナイーヴになるのはわからないでもないが、神藤はこのようなことで、こうした行動をとるような性分ではない。
神藤は、彼女が死んで、その悲しみに耐えられなくなったわけではない。彼女を守り切れなくて、後悔を一人で抱えきれなくなったわけでもない。
前を向いて、自分の道を突き進むのが苦しくなったのだ。神藤は、復讐という炎を燃やし続けられるような人間ではない。もともとは、普通の少年だったのだから。
神藤に引きずられるようにして歩く鑓水は、彼の背中を見ながらため息をつく。昔よりはたくましい背中になったけれども、一人で色々と背負いすぎなのだ、彼は。