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朝を迎えたばかりの海岸は、少し肌寒い。

見下ろした先の海は、光を受けてキラキラと輝いている。



抱きしめたその人は、思っていたよりも細かった。



漣に反射する光の中に消えてしまわぬように。

微かに吹いてくる風にさらわれてしまわぬように。

腕に力を込める。



そうすると、貴方はおかしそうに笑って言う。



「どうしたの? そんなに震えて」



唇から溢れる笑い声さえも、そのまま空へふわりと溶けてしまいそうだ。



どうして貴方はそんなにも、馬鹿なんだろう。

自分の内にいくつもいくつも化物を飼って、それをずっと閉じ込めてきたから、貴方の身体はもうボロボロだ。

こんなになってしまうまで、貴方はどうして素直に死を求められなかったんだ。

もっと早くに生が貴方を蝕む前に、誰かに助けを求めれば……こんなに壊れてしまうことはなかったのに。



「……貴方が……消えてしまいそうだから」



俺の手に重ねられた貴方の手は、確かに体温を持っていた。

それでも、怖い。

腕の中の華奢な貴方の体と、その内側から感じる恐ろしく大きな魔力の波動のアンバランスさ。

思い出の中の誰もが恐れた悪人と、今静かに微笑みを浮かべる貴方の姿の乖離。

本来交じることのない極を、無理矢理に押し込めた貴方という存在は、いつか砕け散ってしまうだろう。



……もうすでに亀裂の入った貴方が、粉々になってこの海へ沈んでいくのが、怖かった。



「……馬鹿だな。……消えるわけないだろ」



笑うと、貴方の体は微かに揺れた。

その首元に顔を埋めると、仄かに貴方の匂いがした。

その匂いが今貴方が生きている証拠なのだと思うと、なぜかズキリと胸が傷んだ。



生きている。



貴方は、……生きている。



何かを言いたくて唇を動かしたが、言葉が出てこない。

自分が何を言いたいのか、わからない。

それでも、胸が苦しくて、心臓が痛くて……貴方に伝えたい想いは、確かにあるはずなのに。





貴方を……







貴方を、
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