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 目眩がする。ガンガンと頭が痛い。



『これ以上の金額はいませんか?』



 マイクを通して響く不愉快な叫び、それに連動するように盛り上がる金持ちたち。落札者は手を叩いて喜んでいる。
 
 どうにもオークションというものは好きになれない。急き立てるような熱い空気、耳を劈く司会者の声、観客の叫び。気持ち悪い、そんなことを思ってハルは顔をしかめた。
 


「どうしたハル? お気に入りは見つからなかったか?」

「……まあ、そんなところ」

「なんだよ、おまえ結構厳しいのな。俺はあの4番とか結構いいと思うんだけど」

「……違いがわからない。いいよ、もう兄さんが選んで」

「そりゃーダメだろ! おまえのモノになるんだぞ、おまえがちゃんと選ばないと。後々苦労するのはおまえになるんだぞ」
 


 兄にそう言われてハルは渋々ステージを見やる。ステージに並ぶ商品たち。仕方なくちゃんと観察してみようと目を凝らせば、うえ、と不快感が腹からこみ上げてくる。



「見た目でもなんでも選ぶ要素はあるだろ? ほら、あれとか可愛いじゃん。あれと毎晩ヤれるとか下半身もたねぇなあ」



 兄がステージを指差す。その先には「4」のタグを首からぶら下げた、裸で手足に鎖のついた女。その女の瞳には光はなかった。
 
 そう、ここは奴隷を競り落とすオークション。とある施設にて奴隷として商品に仕立て上げた人間を金持ちたちが競り落とすのだ。ステージに並ぶは見目麗しい若い奴隷たち。施設に入れられるのは、容姿が美しいとされる被差別種族の者たちであった。
 
 今日、ここにハルが来たのも奴隷を買うためであった。しかし、それはハルの意思ではない。ある事情のために奴隷が必要になってしまったためここに来たのだが、その事情さえなければ、ハルは奴隷など自分の傍におきたいなどとは思わない。なんとなく不気味だと思うのだ。同じヒトの形を成しているのに、中身はまるで違う。意思というあるはずのものが存在しない人間が。



「……ちょっと外にでてくる」

「あ? まだ途中だぞ? おまえホントに奴隷探す気ある?」

「あるよ……。今回は俺の欲しいと思う奴隷がいなかったんだ。今度、ちゃんと選ぶから」



 ハルは痛む頭を抑え、立ち上がる。兄がジロリと睨んでくるが、気づかないフリをした。
 
 この会場の空気が嫌いだ。あの人形たちを狂気に満ちた目で品定めして、紙くずでその命を買おうとする奴らの熱気。ひどく息苦しい。
 
 酸欠にも似た目眩を感じながら、ハルは会場の出口を目指した。


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