13


 ラズワードが別荘に来てから、一ヶ月と半。ラズワードはずっとレッドフォード邸に帰っていないので、流石に屋敷の者たちもハルとラズワードの関係を訝しんでいる。しかし、今の状態のラズワードをレッドフォード邸に返すわけにはいかない。


「ハルさま……」


 ソファに座るラズワードに、ハルが温かい飲み物を渡してやる。

 ゆったりとした服装を身にまとい、どことなく気怠げにしているラズワード。ハルからカップを受け取ると、嬉しそうに微笑んでこくりと一口飲み込む。


「ハルさま、ありがとうございます……こんなに優しくしてくれて。でも、俺も少しは働けますよ、そろそろレッドフォード邸に……」

「いや、大丈夫だ……その、」

「……お腹の子どもですか? そうですね……たしかに、力仕事をすると身体に負担がかかりますが、ちょっとしたお手伝いくらいなら……」

「いい、……安静にしていてほしいんだ」

「……わかりました。元気な赤ちゃんを産むのが仕事だと思って、ハル様に甘えさせていただきますね」


 お腹を撫でて笑うラズワードは、妊婦そのもの。もちろん――妊娠などしていない。

 別荘に来てから、一ヶ月の間、ずっとラズワードの肉体と精神に負荷をかけ続けてきた。絶対に彼を逃がすまいと、彼の心を踏みにじって、激しく抱き続けた。その結果がこれだ。ラズワードの心も体も壊れてしまった。今のラズワードはあまりにも不安定で、ハルが傍にいないと泣いてしまいこともある。ハルの知っているラズワードとは別人になってしまった。

 今のラズワードが異常だなんて、わかっている。それでも……今なら、ラズワードは自分のことだけを見ていてくれる。自分に依存してくれる。

 このまま……ラズワードはこのままでいいんじゃないか。

 ふと、ハルは思う。世間の目から逃げることさえできれば、何も問題ないじゃないか。ラズワードと二人きりで、どこか、誰も知らない場所へ行ってしまおう。どうせ――自分には、ラズワード以外のものはいらないのだから。捨てるものすらもないのだから。


「……なあ、ラズ」

「はい、ハルさま」

「……どこか、新しい場所に住むならどこがいい?」

「……? ハルさまと一緒にいられるなら、どこでもいいです。どこかへ引越すんですか?」

「ああ……もっと、二人でいる時間が長くできるように……二人だけで、ずっといられるように、どこかへ行こう、ラズワード……」

「……!」


 ラズワードが嬉しそうに微笑む。

 ああ、これでいいじゃないか。ラズワードも嬉しそうだ。

 ハルはラズワードの肩を抱くと、そっとラズワードに口づけた。ラズワードはうっとりと目を閉じて、ハルにもたれかかるようにしてキスに応える。

 ラズワードが身籠もったと思い込むようになってから、セックスはしていない。そのせいか、ラズワードはキスをするとものすごく嬉しそうにする。普段のキスよりも激しく、深いキスを求めてくるようになった。


「ん……、ん、……はる、……さま……ん……」


 ハルがラズワードの舌をねぶるようにすると、ラズワードはひくひくと震えながらもぐっと舌を伸ばした。とろ、と零れそうになった唾液をハルが舌ですくいあげて、じゅる、と音を立てて再び舌を吸う。ラズワードは腰をゆらゆらと揺らしながらハルに身体を擦りつけ、わずかな刺激を感じるたびに甘い声をあげた。

「はるさま、……好き、好き……はるさま……」

「ラズ……ずっと、俺のものだ、……永遠に、……」

「はい、はるさま……あ、……ぁ、……すき……」


 ラズワードの腰の動きが速くなってゆく。布と布が擦れる音が激しくなっていき、キスも徐々に徐々にと激しくなっていった。舌を絡め合い、ハルがラズワードの後頭部と尻肉をぐっと掴んで引き寄せる。そうすると、ラズワードはぎゅっとハルの服を握りしめて、「んっ」と鼻を抜けるような声をあげた。そして、びくびくっと震えてながら、昇りつめてしまう。


「あっ、……あ……」

「ラズ……」


 唇を放すと、ラズワードはずるずるとしなだれかかるようにしてハルに抱きつく。ハルの身体に頬ずりをしながら、「ハルさま、もっと愛してください……」と蕩けるような声で囁いた。

 ハルはラズワードの頭に顔を埋めるようにして、ラズワードをぎゅうっと抱きしめる。こうしていると、ほんの少し先の未来も見えないのに、幸せなような気がした。

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