9

「あら、おかえり、ラズワード。ハル様が首をなが〜くして待っていたわよ」

「……」

「ラズワード〜? きいてる? ラズワード!」

「……あっ、姉さん……ただいま」

「……? ラズワード? 大丈夫?」



 レッドフォード邸に帰宅したラズワードは、アザレアの出迎えもぼんやりとして聞き逃してしまった。アザレアはあまりのラズワードの様子に不審がって、じっと顔を覗きこむ。

 ラズワードはそんなアザレアにへらっと疲れたような笑顔を返すと、ふらふらと自分の部屋に向かっていった。アザレアと話している余裕などなかったのである。

 リリィと決闘をしたとき――ラズワードの心の中で、ひとつの決意が生まれた。誰のために生きるのか、誰を愛するのか。その決意は――ラズワードの全てを破壊する。それを、告白することが……ラズワードは怖かったのだ。



「ちょっとー、ラズワード! ハル様のお部屋に行ってあげてね〜? 話があるって言ってたよ〜?」

「えっ……は、話……?」



 部屋に行って布団をかぶって眠ってしまおう――そう思っていたラズワードに、アザレアの言葉が鉄槌となって襲い掛かる。

 ――このタイミングで、話?

 まだ、すべてに別れを告げる覚悟ができていないラズワードは、ハルの部屋で待ち構えている出来事を想像して眩暈を覚えた。
_240/269
しおりを挟む
PREV LIST NEXT
番外編:表紙 : TOP :
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -