ある日、レッドフォードのもとに神族から魔物退治の依頼が舞い込んできた。レッドフォード家のハンターであるハルに神族から依頼がくるということは、暗にラズワードへ依頼が来たということだ。それなりに危険の伴う仕事である。
場所は、ジュビアの村という場所。ほぼ一年中雨が振っているという変わった村で、あまり人は住んでいない。太陽が昇らない村だからだろうか、人々の精神状態は良いものでなく、村全体の空気が淀んでいる。
近頃、そのジュビアの村に魔物の巣が出来てしまったらしい。村から逃げるという気力もない人々が、次々に犠牲になっているのだとか。
「ランクは……レベル5。体長は3メートルほど。数は未確認。地面の中に巣を作っていると思われる――か」
その日は、ラズワードは一人で魔物退治に来ていた。さっと情報に目を通した限り、ラズワードほどの力を持っていれば労せず任務を達成できるだろうと測ったからである。むしろ同行者がいれば足手まといになりかねないため、こうして一人で来るのが一番よかったのだが。
事前に目を通した情報によると、今回の任務は絶対に「女性不可」らしい。なんでも、性別が雌の生物を見つけるとなりふり構わず生殖行為をしようとしてくる魔物だから――だとか。言われてみればこの村に来てから女性と会っていない――そう思ったラズワードは、この村の女性たちがどうなったのかを想像して身の毛がよだつのを覚えた。
村人たちから情報を集めて、ラズワードは魔物の巣があるらしいというところまでやってきた。雨でどろどろになった地面に穴が空いていて、どうやらそれが巣であるらしいことがわかる。
「……どうすればいいんだ」
しかし、巣がわかったところで、だ。魔物を退治できなければ意味がない。穴の中にいられては攻撃することもできないのだ。まさかこの巣の中に入っていくことなどできないし、どうしたものかとラズワードは頭を悩ませる。
魔力を流し込むか、それとも毒物を投入してみるか。何か刺激をすれば、魔物がでてくるかもしれない。
ラズワードは穴の前にしゃがみこんで、じっと耳をこらしてみた。特に声は聞こえないが……不気味な気配だけは感じるのでこれが巣で間違いないだろう。とりあえず、魔力を少し流し込んでみよう――そう思った時だ。
「えっ――」
ぐん、と急に体が持ち上がった。驚いて振り向けば、地面から巨大な触手のようなものがでてきていて、それがラズワードの腰に巻き付いている。
「まじか」
てっきり魔物は穴からでてくるものだとばかり思っていたが――迂闊だったようだ。触手は穴もないところから次々と飛び出してきてラズワードの体に巻き付いていく。やがて、体が出てきて――その姿が露わになった。
「……全長3メートルとか嘘だろ……」
「3メートル」なのは、触手一本の長さ。核となる部分まで地上に現した魔物の体は、10メートル近くはある巨大なものであった。
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