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「……?」



 部屋の灯りを消し、ベッドにはいろうとしたノワールは、ふと違和感に気づく。布団が大きく盛り上がっている。その大きさから布団の中にいる者が誰なのか気付いたノワールは苦笑しながら布団をめくりあげた。



「……なにしてるの」

「……ベッドを温めてやった」

「それは、ありがとう」



 なかにいたのは、グリフォン。丸まってベッドに横になっている姿は、獅子のくせに猫のようだ、とノワールは吹き出してしまった。ただ、グリフォンは普段そんなことをしたりしない。夜はノワールのなかに閉じこもって外には出てこない。なぜ彼がわざわざ外に出てきたのかわからず、ノワールはベッドにはいらず立ち尽くしていた。



「何をしている。早く布団にはいるがいい。この私が同衾してやるのだぞ」

「……なんか変だよ、グリフォン。怖い」

「怖いだと!? 無礼者!」

「うわ、暴れないで。毛がベッドに」

「この高貴な私にむかってその言い草……ノワール、貴様!」

「ご、ごめん」



 グリフォンの意図がわからずノワールは訝しげな顔をしながらもベッドにはいる。ふー、と毛を逆立てているグリフォンに寄り添うようにして横になると、布団を被った。少し大きめのベッドのお陰で、グリフォンと一緒に入ってもぎりぎり布団は全身にかかる。



「……本当に、ただ一緒に寝てくれるだけ?」

「そうだが」

「……なにか説教でもしてくるのかと」

「べつに、しない」

「……そう」



 恐る恐るノワールがグリフォンの身体に腕を回す。そうすればグリフォンがふん、と鼻をならした。

 グリフォンのふさふさとした体に顔をうずめていると、すぐに眠気がやってくる。布団にはいってそうそうにうとうととし始めたノワールを、グリフォンは黙って見つめていた。



「……喉鳴ってる。何か、いいことあった?」

「……別に、ないな」

「……そう。……喉鳴らすって……本当に、猫みたい」

「私は獅子だ」

「……知ってる」



 やがて瞼を閉じて、寝息をたてはじめたノワールに、グリフォンは擦り寄った。

――いいこと? あるとしたら、この瞬間はノワールのことを独占できているということだろうか。彼が幼いころからずっと側にいた自分は、彼にとって誰よりも心を許せる存在で、こうして一緒に布団に入ってやれば何よりの安心感を与えることができる。あんな――あんな青年の与える「安らぎ」とは、違う。



「……ノワール」



 もっと、周りの人たちの愛に気付いてやれ。「死」だけが自分を幸せにできるなんて、そんな哀しいことを考えるな。あの青年に、溺れるな。



「……私はおまえを愛しているよ。ノワール」



――聖獣が、哀しい青年をみつめる眼差しは、どこまでも優しい。

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