5

 マクファーレンの屋敷はレッドフォードの屋敷とはまるで雰囲気が違っていた。メイドや兵士たちが、あまりレヴィに対してかしこまっていない。屋敷全体に和やかな空気が漂っていて、レヴィの性格から予想されるものと全く違っていたためラズワードは驚いてしまった。レヴィは少し話しただけでもわかるほどに、横暴だ。もっと屋敷内はギスギスとしていると思っていたのに。



「こっち。俺の部屋」



 通されたのは、レヴィの寝室と思われる場所。魔術を教えてもらうのになぜ寝室?とラズワードはレヴィに疑いの目を向けたが彼は全く気にする様子はない。



「おまえ、調教師に魔術教わったって言ったじゃん? それってさ、ノワールだろう?」

「えっ……なんで知って……」

「剣の使い方がまるっきりノワールのそれだったんだよなあ……まあ若干ノワールよりは劣っていたけど」

「……え、俺の戦っているところみたの……ほんの一瞬じゃないですか、わかるんですか……!?」

「もちろん。神族の連中のデータは全部頭に叩き込んでいる」



――信じられない。ラズワードはレヴィの発言に瞠目した。神族が何人いるのか、彼らを区別できるほどに戦い方の特徴を見つけることができるのか。思った以上に目の前の男が恐ろしい人物であると、身震いしてしまう。



「レヴィ様……貴方の頭の中どうなってるんですか……前、自分の風の魔術以外の火・水・土の魔術全て知っているって言っていましたけど……それ、とんでもない情報量になりますよ」

「俺の頭……? 普通さ。そこら辺の奴らとなんら変わりない。むしろおまえよりも頭悪いと思うぜ?」

「そんな馬鹿な、だったらどうして」

「血の滲むような努力をした。持っている時間全てを知識の吸収に使った。それだけのことだよ」

「……っ」

「平凡な人間が強くなるためには、ただ努力する。それしか方法がないんだ。俺は魔力量は平均よりもほんの少し上な程度。生まれ持ったそれをカバーするための知識を、必死に身につけた」



 ……正直、驚いた。このレヴィという男が、努力を積み重ねるタイプの人間だとは思っていなかったのだ。ますます彼という人物がわからない。マクファーレンという肩書を力で奪うような暴君は、私利私欲のために生きる身勝手な人間だと思っていた。しかし、そんな人間がひたすらに努力で強くなったと言う。全くわからない。権力が欲しかったのだろうか。



「……なぜ、そこまでして強くなろうとしたんですか」

「……気になる?」



 尋ねてみれば、レヴィはふふんと笑った。ずい、とラズワードに顔を近づけると、レヴィはにたにたと笑いながら問う。



「……男が一番強くなりたいと思う時はなんだと思う?」

「……力を誇示したい時?」

「ああ? おまえマジでそう思っている?」

「いえ、貴方の考えに合いそうな答えを言っただけです」

「うわ、心外だな」



 はあ、とレヴィはため息をつく。胸元から、扇をぬくとそれをビシリとラズワードに向けた。そして、自信満々、こう言ってみせたのだ。



「――大切な人を救いたいと思ったとき。そうだろう」

「……っ」



 ぱっと視界が明るくなるような錯覚を覚えた。レヴィの言葉は、ラズワードが信念としているもの。大切な人を救うために、強くなりたい。凸凹がぴたりと当てはまる快感にも似たような彼への共感に、ラズワードは目をぱちくりと瞬かせた。



「……レヴィ様は、誰か救いたい人がいて……そんな努力を」

「そうだな。強くなければ救えないから」

「そうだったんですか……」



 感心したようにため息をついたラズワードに、レヴィは笑いかける。



「ま、そういうことで。さっさと魔術の習得をやろうぜ。こっちにこい」



 レヴィはラズワードの手をとって、部屋の奥へと進んでいった。そして、ラズワードをベッドの上に放り投げる。さらにレヴィがラズワードの上に馬乗りになってきたところで……さすがにおかしいと思ってラズワードは制止をかけた。



「ちょ、ちょっと待って下さい、何をするんですか」

「何って。魔術を覚えてもらうんだよ」

「この体勢になんの意味が」

「え? いや、体で覚えてもらおうと思って。そっちのほうが早いからさ。淫魔術。それを教えてやろうと思っているんだけど」

「い、淫……魔術……?」



 言葉の響きを聞いて、それが性的な魔術であるということくらいラズワードはすぐにわかった。この状況にも納得がいく。しかし、その魔術を今教えられるということには納得がいかない。



「ま、待ってください! その魔術を覚えたところで神族との戦闘には関係なくないですか!」

「あるよ。おまえはその魔術への抵抗手段をもっていない、そして神族はそれを知っている。あいつらは勝つためなら魔術の種類なんて関係なく使ってくるぞ。それから……淫魔術はなにも興奮を促すためだけの魔術じゃない。夢魔術もそれの仲間に入る」

「夢……?」

「悪夢をみせたり、幻覚をみせたりする魔術だ。むしろ戦闘にはそっちが使われるかもな」



 レヴィの言葉に、ラズワードは何も言い返せなかった。たしかに、ノワールが淫魔術を戦闘に使ってこないという保証はない。そして使われてしまったら……きっと自分は、情けなくも戦闘不能に陥ってしまう。

 これは……教えを請うしかない。



「……あの、じゃあ……お願いします。教えてください」

「よし、ものわかりがいいな」



 ただ……淫魔術の訓練なら、もしかして。ラズワードの頭のなかに、ひとつの不安が浮かぶ。そして、その不安はすぐに的中した。レヴィが、ラズワードのシャツを脱がせてきたのである。



「え、ちょっと、あの」

「ここからおまえが魔術を覚えるまで淫魔術をおまえにかけ続けるからな、服が汚れないように」

「汚れないようにって……ちょ、ちょっと……!」



 ラズワードがばたばたと暴れていると、腕をぐい、と上に持ち上げられる。そして、ガシャ、と音がした。ぎょっとしてラズワードが自分の手をみれば……手が、ベッドに手錠で繋がれている。



「ま、待っ……そういうこと、俺、他の人としたくない!」

「あ?」

「恋人がいるので!」

「安心しろ、ハメたりしねぇから。俺だっておまえとヤりたいとかべつに思ってねえし」

「……」



 レヴィの表情は、あくまで真面目だった。意識しているのは自分だけということだろうか。しかし、ハルに悪いと思ってしまう。魔術の訓練の一環とはいえ、他の人に体を触らせることになるのだから。



「……本当に、魔術を覚えるためだけですからね……」

「わーってるっつーの。ほら、やるぞ」



 レヴィは頭をがしがしとかきながらめんどくさそうにため息をついた。

 レヴィの手が、ラズワードの胸に触れる。ぐ、と手のひらを押し付けるようにされて、少し息苦しさを感じた。



「これから、俺がおまえの体の中にある魔力を使って淫魔術をつかう。感覚で使い方を覚えろ、いいな」

「俺の魔力をレヴィ様が使うんですか?」

「おう。こうやって肌と肌を触れ合わせて、色々やれば他人の魔力を使うことも可能だ。他人に魔力を使われるときは少し変な感覚に襲われるっていうから、まあそのことは念頭においておけ」

「……はい」



 レヴィがじっとラズワードを見下ろし、何やら呪文を唱え始める。そうすると、ラズワードの中に今まで感じたことのないような、変な感覚が生まれてきた。渦に引きずりこまれていくような、高いところから急激に降下したときの浮遊感のような。



「あ……は、」

「術を使うぞ。集中しろ、この感覚を覚えるんだ」

「は、い……」



 他人に自分の魔力を使われているからだろう、自分の体が勝手に動いてしまうような恐怖を覚える。ずるずると何かが引っ張り出されるような、そんな感覚と同時に、いつも自分で魔術を使うときの感覚も生まれてきた。この感覚だ、これを覚えるんだ……ラズワードは集中するが、それはそんなには長く続かなかった。変な感覚は消えて、続いて体が熱くなってくる。



「あ……あ、これ……は?」

「淫魔術の効果だな」

「えっ……」

「ためしてみる?」



 レヴィはふっと笑って、ラズワードの乳首をつまみ上げた。その瞬間――



「はぅッ……!」



 強烈な甘い電流が、身体を貫いた。視界に、白い火花が飛び散る。



「今ので淫魔術を使う感覚を覚えていれば……熱を冷ます魔術も使えるようになってると思うぜ?」

「あっ! ひゃんっ! やだっ、あぁっ! だめっ……!」

「まーだ覚えてないか……まあ、一回じゃ無理かな」



 レヴィは冷静な顔をして、乳首を弄り続けた。ラズワードは為す術もなく、喘ぐことしかできない。何か魔術を使って抵抗しようとしても、快楽に思考を呑まれて、術式を組み立てることができない。



「何回でも教えてやる……ただし、覚えられなかった度に、こうやって身体を虐めてやるからな、本気で覚えろよ」

「あっ、く、ぅ……や、ぁんッ……」



 レヴィの口角があがる。瞳が嗜虐に揺れる。愉しんでいる……とんでもないスパルタ教師だ。

 レヴィの指先が、ラズワードの乳首を根元からひっぱりあげるようにしてぐりぐりと刺激する。



「だめ、ッ……こりこり、だめ……! やっ、ぁんっ、ふ、ぁッ」

「んー、おまえヤるときは随分やらしいんだなー、剣持ってる姿からは想像つかないわ」

「いく、……! ちくび、イっちゃう、やだ、やだ……あ、あ、あッ……!」

「声の出し方もエロいのなー、なに? そう教わったの? ほーら、イっちまえ」

「ひゃ、あ、あ、イっちゃう、イっちゃう、あ、あッ……!」



 びくん、とラズワードは身体を仰け反らせて絶頂に達してしまった。涙目で、はあはあと熱を逃がすように息を吐く。

 レヴィはラズワードにのしかかって、にやにやと笑っていた。今までとは全く違う姿をみせたラズワードに、興味津々といった様子だ。



「淫魔術を使ってるとはいえ、イキやすいんだな。乳首イキってどんな感じなの?」

「……っ、」

「ケツイキより淫乱っぽくて見てる分には愉しいわ〜。次できなかったらもう一回乳首でイかせてやるからな」



 レヴィはただただ愉しそうに笑って、再びラズワードの胸に手のひらを押し当てる。つぎこそ……つぎこそ覚えないと、またこの男に身体を弄られてしまう。



「ま、わかったと思うけど……淫魔術って結構強力だからさ。抵抗手段はきっちり覚えないとヤバイぜ」

「う……」

「彼氏サン以外の人に好き放題弄られるの嫌だろ? ほら、頑張れよ」



 レヴィが再び呪文を唱え出す。またくる、そう思って集中するも……やはり、慣れない感覚に気をとらわれて、覚えることができない。先ほどよりは魔術を使う感覚をものにできるような気がするが……



「は、あ……」

「治してみせろ」

「……っ、」



 完全に淫魔術を理解はできなかった。悔しそうに視線を泳がせるラズワードをみて、レヴィがあーあーとわざとらしい声をだしながら笑う。



「はい、できなかったから、次のおしおき」

「や、やだ……」

「甘やかしは、なし」

「あ……ふ、ぁあッ……」



 レヴィがラズワードの乳首を口に含む。そして、根元を甘噛みして引っ張り上げた。舌先で乳頭をくりくりと弄りながら、歯で根元をぐいぐいと刺激する。もう一方の乳首は指でぎゅっと強くつまみあげてやった。



「あ、あ……ひっぱるの、だめ、ぇ……あ、あぁ……」



 ラズワードの身体がぐっと弓反りになる。手首を繋いだ鎖ががしゃがしゃとやかましい。レヴィはぐずぐずになったラズワードの顔を見上げるように顔をあげ、目を細めた。少し赤く腫れた乳首をぺろりとひとなめして、にやりと笑う。



「気持ちいい? 乳首虐められるの」

「きもち、いい……きもちいい、ちくびきもちいい……」

「あ、はは! いいねぇ、強めにつねられるの、好きなんだね。とんだドエムじゃん! 嫌いじゃないよ〜マゾ虐めるの愉しいから」

「あ、ふ、ぁああー……! やぁ、だめぇ……」



 両方の乳首を、ぎゅーっ、とひっぱる。そしてぐりぐりと円を描くようにまわす。

 目を蕩けさせ、だらしなく開いた唇からとめどなく甘い声をこぼし、たまらないといった表情。ラズワードははやくも二度目の絶頂をむかえようとしていた。



「ほら、もっと虐めてやるよ。好きだろ、虐められるの。このド変態」

「すき、ぃ……いじめられるの、すき……ふ、ぁ……ぁ、あっ、いく……ッ」

「あー、これケツでイったらどうなるのか見てみたいねぇ。まあ、それは許してやるけどさ、間男にはなりたくないんでね」



 意地悪に笑ったレヴィの声がラズワードの耳に届く。



「あ……ぁあ……」

「何回イクの? はやく覚えないと……壊れちまうかもしれないぜ?」

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