音よりも早く

早く早く早く
指折り数えて、君を想い明日をかける
迎えてくれる君を抱きしめたい

***

ベッドに投げっぱなしにしていた携帯電話が鳴ったのは、俺が、丁度風呂からあがり自室に戻った時だった。
まだ乾ききらない髪をタオルでかき回しながら、二段ベッドの下側に腰をおろし、光るサブ画面に目をやれば、5日前から姿を見ることもなければ、声さえ聞くことのなかった相手からだった。いつもなら、上側のベッドで図体でかい体を横たえている姿を思いだし、やわらかい布団にダイブしながら電話をとった。

「・・・さんのすけ?」

電話先の相手の名を呼んでやるが、返事が返ってこない。回線が切れた様子もなければ、一度画面を見てもタイム表示が動いている。

「・・・切るぞ」
「ダメ!切るなよ!」
「だったらしゃべれよ!ふざけてんのか」
「いやーあまりにも久しぶりに声聞いたから、噛み締めてた」
「お前なぁー」
「作、なにしてた?」
「今、風呂からあがったトコ」

久しぶりなのはこっちだって一緒だというのに。俺だって声聞きたかったなんて言えるはずもないが、電子音だとしても嬉しさが込み上げていた。なんせあの七松先輩率いるバレー部の部活の合宿だから電話なんてする暇はないと思っていたし、出来る時間ができたとしても疲れてそれどころではない。それよりか電波が通じるとこかも怪しい。

「うわー作ちゃん、えっろーい」
「バ、バカ!なんで、そうなんだよ!」

相変わらず唐突な思考回路はどうにかならないものだろか。それにそういう三之助に対してもう少し冷静に対処できる俺になってもいいとも思うがそう上手くいった試しがない。

「だって、風呂上がりっていったらさー髪濡れてんだろ?で、石鹸のいい匂いとかするし」
「何言って、」
「その匂いが俺と同じってことなんかヤバイなー首筋が絶対美味しそうだろうし。てか、襲うしかないっていう情況じゃね?」
「んなわけあるか!」

同じクラスで同じ部屋で部活は違うけど、寝食共にしてるといのに、未だ三之助が読めない。それは一番近い存在となった今もやっぱりわからない。

「・・・お前、いっつもそんな事考えてんのか」
「それしか考えてない」
「きっぱり言うじゃねぇ!この変態!」
「俺が悪いんじゃねーよ、作がえろいのが」
「黙れ!」

5日ぶりに聞いた恋人の口から放たれるのがこんな台詞なんて、いつもと代わり映えしなさすぎて呆れるしかない。
俺が大きなため息をはきわざと聞かせると、三之助があきもせず口を開いた。

「・・・作、寂しくなかった?」

急に真剣な声色で聞くから返答に困ってしまう。寂しくなかったと言えば嘘になるし、肯定できるほど素直でもない。

「俺すっごい寂しいし、早く会いたい」
「っ・・・・・・・あ、あと一日だろ」
「・・・そうだけど。もう5日も顔見てねぇし、作に触ってないし、画像だけじゃ限界」
「は?まて、画像ってなんだよ?!」
「可愛い作の寝顔を予備に連れてきた。毎日眺めて、ちゅーしてる」
「ちょ、お前・・・」

もう呆れすぎて言葉が出ない。撮られたのに気がつかなかった自分にも腹が立つ。

「ねー作」
「ぁんだよ」
「今どこにいんの?」
「部屋だけど」
「ベッドに寝転がってたりする?」
「まぁ、そんなとこ」
「丁度いいじゃん」

なにが、と疑問を投げかける前に電話口から、ちゅぅと唇が吸い付くわざとらしい音が耳をついて言葉を失った。それは一回では終わらず、何度も何度も繰り返され時々舌が這うような気配も覗かせられて、今まさに背中にされてるかのように鳥肌が駆け上がる。

「お前、な、にして」
「ん、作のうなじにキスしてんの」

濡れた声は電子音でも十分な効力を発揮して、止まらない音にさらに煽られる。

「や、やめ、」

ダメだ。音だけなのにその時と同じように心臓が高鳴りはじめて、信じたくはないが下から熱がわき上がっている。誰も見られてないとわかっていても、そんな自分が
いやらしくって恥ずかしくって、力一杯に目を瞑った。

「いや。作、妄想得意じゃん?ほら、もうすぐ唇」
「くっ」
「・・・あけて」

さっきまでのアホ面を思わせた声が幻想のように、甘い甘い脳髄を麻痺させる声。それを発しているのが間違いなく三之助であるという事実はさらに熱を迫りたたせる。
今の自分はおかしいのだと思った。
空いていた右手を誰かに差し出すかのように強張りながら自分の唇に持ってく。少しだけ開いた口ではむと、もう止まらなかった。電話の向こう側で三之助がするようにわざとらしい音を響かせて、自分の指をくわえ舌を絡ませたり歯を軽くたてたりした。

「・・・作」
「ぅん」
「胸、触りたい」

それの意味する事はのぼせる頭でも容易に処理されて、素直に従った。ねっとりと唾液の滴る手を服の下に差し入れて三之助がいつもするようにゆっくりと這わせる。それだけで、その手がまさに三之助のもののようで体は反応する。上へとあがり左側の突起に指先がぶつかると、高い声が喉から零れる。

「んぁッ」
「そのままそこ探って」

体で覚えたその攻められ方を自らしてしまっていることがいやらしくってしょうがないのに、せがむ疼きは底をみせなくってやめられない。その後に指示もされないのに、反対側の突起も指で上下左右に掻き上げたり、爪をたてたりとせわしなく責め立てる。

「んぅ、あ、ぁふ、あぁッ」
「作、下もうどろどでしょ?」

触って確かめなくとも言われたとおりで、体を捩るたびにすれる布がもどかしくってどうしようもない。けれど、そこだけには手を伸ばせない。したくない。

「や・・・だぁ・・・は、」
「ん?」
「は、やく、」

伸ばしてまったら最後、突っ走ることしかしない事はわかっていたし、声をいくら聞いたって、脳裏にその姿を浮かべたって、目を開けたときお前はいない。例えここで今同時に熱を吐き出したとしても、それが、よけい虚しいくなる。衝動が止められるほど大人ではないし、理性だってコントロールはきかないから、ここで立ち上がった欲情をはきださずにいられないことは、自分自身が一番わかっていた。だけど、例え叶わなくても本音を言わずにはいられなかった。

「か、えって、こい・・・ば、かぁ」

ゴクリ、と向こう側で飲み込む音が小さく聞こえ、すぐ後に大きな物音が、携帯電話口と聞こえるはずのない反対側の耳に同時に響いた。
その音は疑いようもないほどの大きさで、近づいていた事がわかったのは、閉めたはずのドアが豪快に開き、目の前にあるはずのない姿が現れ名を呼ばれた時だった。

「作!」
「あ、え、」

突然の姿に上手く声がでなかった。
どうして、なんで、聞きたい事はたくさんあるのに、かぶさってきた三之助の重みと息もつかさぬ早さで重ねられた口付けを受け止める事で精一杯だった。
右手を差し入れていた服を、肌を露わにするようにたくりあげられて、熱くなった体を外気がなぜる。口づけに気をとられて自分の右手が胸にあったことにまで気がつかなかった。その手に三之助の手が添えられて、腫れあがった飾りをまた攻められる。声が漏れるたびに口づけがおろそかになって端から、どちらともいえない唾液がつたって落ちていく。

「ふ、う、ん、んん」
「ん、作、寂しかった?」

布をすり合わせるように、下の熱に三之助の熱がすりあわされれば、布越しなのがもどかしくって、自ら腰を動かしてしまい、嬉しそうに目の前の顔がほころぶ。

「う、るさ・・・ひゃッぁッ」
「嘘はよくないなぁ」
「ふぁ、あ、うああ、」

ぎゅ、と捕まれた熱。それでなくともドロドロとしたそれは下着に染みていて気持ち悪いのに、さらに攻められると次から次へと垂れだしていくのがわかった。
乱雑にズボンを脱がされ、露わになった熱は卑猥の何者でもない。ねっとりとした先走りを根元から掬い上げると、迷いもせず後ろへと指がつたっていき、差し入れられ、すんなりと人差し指を飲み込む。

「ここもどろどろだ」

合わせて軽く動かされると快感が体の先まで電流のように伝わっていく。
もう返す言葉も残っておらず、のぞき込まれる顔に睨みをきかせることが精一杯。しかし、その顔を三之助が好んでいることは知っている。自分ではどんな顔をしているのかは、もちろんわからないのだが、その顔が三之助の余裕を少しだけそぐことができる事に変わりはなかった。
様子を確かめるように差し込まれた指は、すぐに2本、3本と増やされて、動きも激しくなっていく。5日分のせいなのか、電話だけのやりとりのせいなのか、限界はいつもより早いようなで、指の動きに合わせてどくりどくりと重く響く。

「さ、さんの、すけ、もう、ああっぁッ」
「・・・わかってる」

前立腺を強くすられ背がしなると奥にあった圧迫感が消えた。ちゅぅと口付けをされながら、両足に手をかけられて、体を折り曲げられる。それだけで、これからおきる事に体全身が高鳴る。
宛われた熱が、いやらしい水音をたてて奥へと進んでいく。いつもどうりなはずなのに、早く欲しくって激しさ快感に埋もれたくって欲情が増してくる。両腕を伸ばし三之助の背にまわし、体を近づければその熱も深くまで飲み込んでいく。その行動に即されてか、そこから一気に欲しがっていたそこに突かれ声が零れた。

「んぁあッ」
「ん、ふ、はぁ、作、さく」

余裕のない顔で、声で、自分の名前を呼ばれると心臓が締め付けられる。自分も相手の名前を呼びたくて口を開くが、激しい往復に翻弄されて喘ぎ声が零れていくばかりだった。
たった5日なのに、その寂しさは自分が思うより大きくてこれからはきっと誤魔化せやしないんだろうと、比例するお前への思いで熱は当分冷めそうにない。今日はこの熱が埋まるまで、その腕から離さないでと思いながら最初の熱を吐き出した。

「さく、た、だいま」

まだ整わない熱のこもる声で三之助は言い、合わせるだけの口づけをまだ足りないと言うように繰り返す。

「おかえり、三之助」

と、小さく返してやれば目を閉じて深い口づけを迫ってきたから、まだ足りないの意を込めてその舌を絡めてやった。


***

合宿が一日早く切り上げる事になったのはほんとうに急な事だった。いや、急で唐突なのはいつもの事ではあるけれど。しかしそれは手放しに喜べる事で、やっと作に会える。声が聞ける。いや、とりあえず押し倒すことが先決でこれでほとんどが満たされる。よがる姿は自分しか知らない姿で、あの時ほど素直な作はどこにもいない。
だから、今思い出しても、頬が緩んでしまうほど、あの時の作はいやらしくって艶やかで、とにかく可愛かった。
あの時、実は電話をかけた時には寮に戻っていて、煽り始めた頃には部屋の入口に潜んでいて、電話を切られたら飛び出して行こうと思っていたのに、まさかあんなに乱れるなんて予想外だった。
それに棚ぼた的に手に入れたその時の記録。
最近の携帯は本当になんでもできるんじゃないかってくらい機能がすばらしい。会話中に録音なんて誰がするんだろうと思っていたけれど、使い方は人それぞれだよな。うん。
その時の俺の機転にも拍手を送りたい。
寝顔の画像は後に顔を真っ赤にして、怒られた後に作の手によって削除された。と、作は思っているようだけど、実は別フォルダーにコピーしてあるとは知らないだろうな。こういうことだけに俺の機転はききすぎていて、本当改めて誉めたい。すごいぞ、おれ!

「さて、と」

誰もいない自室。別に用事もない本日、その録音を聞かなくてなにをする。
出したばかりのこたつに、腰をおろし机に寝そべる。高鳴る心臓に、落ち着けと言い聞かしながら再生ボタンを押した瞬間だった。

「ただいま」

開いたドアに、作、そして

『お前、な、にして』

先日のデジャブのように再生される電子音。お互いが指を吸い突く音までも、くちゅくちゅとはっきり流れる。

「お、お前ぁぁ」
「うわ、待て、落ち着け、作」

即座に殴りかかろうとしたきた作から逃れるために、こたつから抜けだし逃げるが、何分狭い部屋だから、すぐに追い込まれてしまう。にじりよられて、携帯を奪おうと必死になっているが、こちらの方が背が高いので、めいっぱいに腕を伸ばして高く携帯を持ち上げれば届かなくなる。

「かせ、ばかのすけ!」
「いやだ、ぜってぇ消すだろ」

今回はまだコピーをとってない。だから消されたら本当にお蔵入りだ。絶対そんなことはあってはならない。だって、まだ一度だって聞いてもないんだから。

「当たり前だ!なんつーもんをお前はぁぁ!」
「いいじゃん、俺しか聞かないし」
「そういう問題じゃねぇ!いいからよこせ!」
「ぜぇたい、ヤダ!」

ぎゃぁぎゃぁと騒ぎたてている間も、停止ボタンを押し忘れていたおかげで、スピーカーからいやらしい音と声が漏れていていて、お互いに息を整えようと会話が止まったときに最後の言葉がはっきりと部屋にいきわたって止まった。

『か、えって、こい・・・ば、かぁ・・・』

その瞬間、一気に上気して目を見開く作。そして単純な俺といえば体のほうが素直に反応した。俺を部屋の端に追いやって、体をこれでもかと寄せ合っていて作がその反応に気がつかないはずがなく、下に目をやる。
やばい。これは絶対殴られると思って身構えた。
しかし、拳も蹴りも飛んでくることはなく、ぐっと唇に力を入れて何かに耐えてるように肩を震わせていた。

「さ、作?」

顔を覗き込むようにすこし屈むと、すごい眼光で睨まれて体ごと振り返ってしまった。けど、その瞳が赤く充血していたことは見逃さなかった。これは、本格的にヤバイ。怒って叫んで、殴りかかってきてる間は、まだほんの少しだけ入りこめる隙間が残っている。それが一転して口数が減って涙をガマンなんかしてる時は本当に最終的だ。

「ご、」
「お、お前なんか一生、携帯相手にやってろ!」
「え?」

投げつけられた言葉があまりにも予想外だったから、間抜けな声が出てしまった。

「だから、お前はそっちの方がいんだろ、だ、から」

あぁ、本当になんて可愛いことを言ってくれるんだ。泣くのをガマンしながら、たどたどしい声色で。
つまり目の前に自分を置きながら、携帯から聞こえた声に反応したということにたいして嫉妬している。その声だって作自身だっていうのに。だけど、確かに昔のお前の方がよかった、なんて言葉言われたら俺でもへこんで立ち上がれないかもしれないなぁ、と思う。それに今の自分を見てほしいのは至って当たり前のことだ。

「作、見て」

後ろから抱きしめるように腕を廻し、作の目線に合うように携帯を見せる。
その画面には、消去しますがよろしいですか?という選択画面。迷わずOKを選んで選択すれば、消去されましたと続いた。

「俺は、どんな作でも好きなんだ」
「………………」
「でも、目の前の作が一番大事」

力いっぱい抱きしめて、その熱くなった目頭に口付ける。

「ばかやろう」

そう言って作は俺に体重を預ける。

「うん。ごめん」

こちらに向けた顔。交わった目線を読み取って口づけを繰り返せば、同じ温度の熱が2人を溶かした。
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