「暇だなー」
「暇だねー」
「買い出しも昨日までに終わらせちまったからなァ」
「あとどれ位でログ溜まんの」
「三時間ぐらいじゃね? 正午あたりに出航っつってたし」
「もっと昼飯の下拵えゆっくりやれば良かった…」
「其処にオレも呼んでくれよ…イモの芽取り係でも良いからよ…」
「いやだから準備終わってんだってば」

 食堂でシャチと二人、向かい合わせに座った儘ぽつぽつと中身の無い会話を交わし続ける。
 ハートの海賊団が所有するログポースの針が次の島を指すようになるまで後少しではあるのだが、娯楽施設に乏しい現在地ではその中途半端な残り時間の使い方に困っていた。

 今しがた軽食を腹に入れたとは言え起床してから一時間程度しか経っていないので眠気が生じる訳もなく、窓硝子越しでもやや強めに感じる陽射しに瞳を細めながら、遠方の空をゆったり横断する雲の群れを眺めるだけの時間が更に数分続く。
 そうして暫く空の鑑賞を続行し、綿を千切ったように端が細く棚引く雲が視界に入った瞬間、ふと一つ思い出す事があった。

「あっ」
「何、買い忘れでもあったか? 付き合うぜ?」
「いや、雲見てたらコーンの髭思い出して。髭も葉も付いた儘の奴買ったんだけど、ほったらかしかも」
「別に大丈夫じゃね? 食物庫には入れたんだろ?」
「コーンって収穫したら時間経つにつれどんどん鮮度も甘味も落ちる野菜なんだよ。だから買ったら取り敢えず茹でて、新聞紙とかでくるんで保存しつつ早めに食べた方が良い」

 この島で購入したコーンは何故か実がよくある黄色ではなく綺麗な濃いピンク色だったので、もしかすると俺の中の知識が当てはまらないかもしれないが、どちらにせよそう長持ちする食材ではない。塩茹でかバターソテーで昼食に出してしまうのが良いだろう。コンソメスープの具にするのも有りだ。

「このあったけェ船内で茹で作業かー、暑ィだろうけど頑張れよー」
「え、シャチ手伝ってくれるんじゃないの?」
「えっ」

 じゃがいもの芽取り作業でも構わないから暇を潰したい、と零した舌の根も渇かぬ内に調理内容を知るや他人事の姿勢を取ったシャチを薄目で見遣る。
 シャチ自身も今しがたの発言を思い出したのか、厨房に行こうと腰を上げた俺を見上げながら口をへの字に歪ませた。

 この島の気候はかなり温暖で、陽射しの強さによっては少し汗ばむぐらいの気温と室温になる。今日は朝から快晴で大分暖かい。
 そんな天気の影響を少なからず受けている屋内で、衣服で多少調節が出来るとは言ってもある程度の間湯が煮え立つ鍋の前に居るとなるとそれなりに暑い思いをするのは必至で、それを考えてシャチは億劫さが先立ったのだろう。

「だってよー絶対ェ暑いだろー」
「汗だくになるレベルじゃないと思うし、コーンの髭と葉っぱ毟って鍋に放り込むだけだから大した労働でもないよ。コックさん多分もう昼飯作り始めてるだろうから作業増やせないし、手伝ってよー」
「そうだな、さっきから暇だと言っておいて暇潰しの内容を選り好みするのはどうかと思うぞ」
「ガキかお前は」
「シャチわがままだよ」

 それまで黙って珈琲を飲んでいたペンギンと陽光が程好く当たる位置の席で読書をしていたロー、その隣で林檎を齧っていたベポから続々声援が寄越される。ただしシャチからすれば四面楚歌だ。

 矢継ぎ早に言及されて反抗心が湧いたのか意地になったのか、シャチは船長たるローからも口を出された現状に構わず拗ねたような面持ちで打開策を捜すように周囲を見回すと、クルーの誰かが遊んで放置したのだろうトランプの束を窓辺に見付けてそれを取りに行った。

「じゃあコレ! カードで勝負しようぜアルト、お前が勝ったら茹でんのはオレ一人でやるからよ!」
「じゃあ俺が勝ったら明日の日誌当番交代な」
「なら俺が勝った場合は書物庫の整理しろ」
「何のゲームするの? ディーラー必要ならおれやるよ、トランプあんまり得意じゃないし」
「三対一!?」

 やはり四面楚歌である。



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