【宛先:ボア・ハンコック/再生する春】
ハートの海賊団のアルトの印象を教えて頂けますか?
ルフィ以外の男の事などわらわの記憶に留め置く価値なぞ無い。……だが、レイリー同様間接的ながら恩を感じる相手である事は確かじゃ。ルフィの治療にそれなりに深い程度で携わったと聞いておる、さっぱりと忘れる訳にもいくまい。尤もレイリーとは比べられぬが…ふむ、印象か。
わらわの美しさを目の当たりにして鼻の下を伸ばさぬとは些か不可解だが、あれは鍛えればそれなりの覇気使いに成り得そうではある。配下の士気に関わる手前声を大きくして語る事は出来ぬが、彼奴ならば我が妹達も苦戦しよう。…褒めてはおらぬ、客観視したまでの意見じゃ。終始あの外科医に添うて、首輪は着けれど放し飼いにされている獣のようであったな。

【宛先:ペンギン/再生する春】
シャボンディ諸島の騒動時にアルトが麦わらの一味のチョッパーと仲良く会話してたのを注意されてましたが、他の海賊との馴れ合いは避けるべきですか?
基本的には、利益度外視で余所のクルーと接するのは危ういと思ってる。冷たい言い方に聞こえるかもしれないが、海賊同士なんて常に蹴落とし合ってる連中だ。何気ない雑談から何が漏れるか分からないだろう? こっちの構成員や班割り、買い出しパターン、個々の武器や戦闘スタイル。そういうモンを態々自分から敵に教えてやる必要なんて無い筈だ。まあ戦い方は交戦になれば分析されるけどな。
それに、アルトが"麦わら"の事を「凄い」と言ったモンであの場は一応止めた。他人を素直に褒めてやれるのは本当、普通に考えたらアルトの長所なんだがな…。『ハートの海賊団のクルーが余所の船長を認めた』、って点だけ抽出すると、変な勘繰りを第三者に植え付けかねない。噂なんてものはどんな生まれ方をしてどういう風に広まるか分からん。敵の強さや器を見誤らず認めるのは非常に大切な事なんだが、それを露わにするタイミングと方法もまた重要って事だな。あくまで俺の持論だ、納得を与えてやれなかったらすまない。

【宛先:ペンギン/再生する春】
アルトがハートの海賊団に入って、船内の雰囲気など変わったなと思う事はありますか?
雰囲気…、雰囲気か。劇的な変化って程じゃあないかもな。いや、飯のレベルが幾らか上がったのは結構な変化か?
勿論、アルトの事はどいつも認めてる。だがアイツもムードメーカーって程のお調子者でもなければ、独特の空気を持つような個性派でも無い。俺達の中に溶け込んでるし、アルトに何かありゃ全員で相手に対して報復祭を催すだろうが、船内の空気があからさまに変わった実感ってのは無いかもな。
多分、一番変わったのは船長だよ。人間だけど、人間離れしてるみてェに扱われるのが能力者だからなァ。何か、こう、通ずる所があったんだろう。アルトが船に来てから少し雰囲気が変わった。それを俺等は陰ながら微笑ましく喜んで……お? て事は案外、船全体に影響してるのか? いやァ、意外と訊かれなきゃ考えなかった事だな。答えになってりゃ良いんだが。

【宛先:ペンギン】
(※「再生する春」番外編の『あの棘の先端は丸い』より)
あの後、船長とアルトくんの微笑ましい姿を紙に認める事は出来ましたか?
よく尋ねてくれた…!
当時、俺は走った。ああ走ったとも。スケッチブック自体そんなに普段出番は無いんだが、だからこそ半端に使い古した奴が自分のデスクで眠ってるのを思い出してな。だが甲板に取って返した俺の目に映ったのは、完全に二度寝した船長だけだった……そう、あれは砂上の楼閣だったんだ…。アルトは誰かの仕事手伝いに行っちまったらしい。
そりゃ、今だって似た場面は割とあるさ。船長は寧ろアルトが正式に加入してからの方が良い顔する機会増えたんじゃないか? だがな、アルトが未だ海賊では無かったあの日は、あの日は船長もただのトラファルガー・ローとして彼処に居た筈なんだ…! いつ何時もクルーを先頭で導く船長は男前だ、海賊の鑑だと個人的には思う、いや海賊に鑑あるのかと言われたらアレだが、とにかく逃がした魚は大きかった。
そんな俺の今の密やかな野望を聞いてくれ。自分用の小遣いを貯め、カメラを買う事だ。高額な精密機械なんてのは砲撃だの荒波だので上下左右に揺れる海賊船に本来置くべきじゃないのは承知だが、夢は夢で終わらせないさ。

【宛先:ジャンバール/再生する春】
同じような境遇で過ごしていたと思われるアルトに対する印象はどのようなものですか?
また、二人でゆっくり話した事はありますか?
彼の過去については、ペンギン達からそれとなしに教えては貰った。が、後から入った者に自分の知らん間に昔の話をされるのもあまり良い気分にはならないだろうからな。掘り下げてはいない。船長や同胞の為にとよく動く、年相応な青年に見える。あァ、何より料理が上手い。
それに、……そうだな。例えば、過去の仕打ちが原因で、何か特定の環境や物音だとかに自分じゃあどうにもならん程怯えてしまうとしたら。或いは忌まわしい記憶が悪夢となって夜な夜な襲い来るなら、クルーとして周りに迷惑をかけぬ為にも経緯を明かすだろう。だがそれ以外の理由で、己の尊厳を削ぎ落とされまいと抗った苦々しい月日を自ら語る気にはなかなかなれん。
彼も同じだろう、二人きりになる機会はあったが互いに相手の過去に触れはしなかった。それで良いとも思う。勿論、何かあれば耳は貸す。

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