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「ねぇ銀ちゃん。サンドバーって知ってる?」

「サンドバー?」

結婚式の準備も形になってきたある日、数冊の国内旅行の雑誌を広げていた銀ちゃんに声をかけた。見て、と自分が見ていたページを指さす。透き通るような海と白浜。

「すっごく綺麗じゃない?干潮時に浅瀬が浮かび上がって現れる砂浜のことだって」

「あ、バーってそっちのバーか」

てっきりお酒を提供している場所だと思ったらしく、職業病かと笑う銀ちゃんの横顔にきゅんとする。すぐ隣にある肩に頬をすり寄せると、「どーした?」とおでこにキスしてくれた。

「ハワイで有名なサンドバーとおんなじくらい綺麗な場所みたいだよ。ここでお酒飲んだら絶対美味しいだろうなぁ」

「酒ありきの新婚旅行かよ。まー俺たちらしいけど」

銀ちゃんが開いていた方の雑誌を閉じて、わたしの手にある本を覗き込んだ。飛行機で二時間くらいかと呟きながら腰を抱き、ふわふわの髪と身体の距離が近くなったお陰でちょっとドキドキしてるのが顔に出ちゃいそう。左手にはシンプルで細いデザインのシルバーリング。プロポーズのお礼にわたしからプレゼントした、銀ちゃん用のエンゲージリング。婚約指輪のお返しが婚約指輪なんて、嫉妬深いわたしたちらしいよね。周りの子たちは靴とか時計とかあげてるのに。でもやっぱり、指輪を貰った時の気持ちを銀ちゃんにも味わって欲しかった。本当に本当に幸せで、嬉しかったから。休みの日はこうやって付けてくれる所が好き。

「へー良いじゃんここ。俺も行ってみたい」

「海、ちょっと寒いかな?泳げないかもね」

「学生の時に海の家でバイトして以来だな」

「銀ちゃんに日差しってなんか似合わないねー」

「馬鹿言えあの頃は輝いてたんだよ」

「ふーん。見てみたかったな」

「これから一生分の俺を見れんだから良くね?」

「あはは、おじいちゃんになった銀ちゃん楽しみ」

「その頃にはおめーもババアになってんぞ」

新婚旅行を国内にしたのは銀ちゃんのお店があるからだ。何日もお休みにするのは気が引けるから結婚式だけで充分だって言ったけど、絶対行こうって言い出したのは店主である銀ちゃん。「こんな機会がなきゃ旅行なんて連れて行けねーから」って。不規則な生活やお休みの自由が効かないことを彼なりに気にしているのかも。わたしは銀ちゃんがあんなに素敵なバーを作ったことが素直に嬉しいし、応援したいしずっと続いて欲しいって思ってる。だから気にする必要ないのになぁ。



周りの人のお陰で素晴らしすぎる結婚式を終えたわたしたちは、次の日空港に向かった。飛行機の中で式のことを思い出してたくさんお喋りした。思えばこんなに何日も二人で過ごすのってあんまりなかったなぁ。初めての旅行に浮かれて子どもみたいって笑われて、でもずっと手を繋いでてくれるのが嬉しかった。

「みんなのお土産何が良いかな」

「砂でよくね?」

「甲子園じゃないんだからさぁ」

ホテルにチェックインして部屋に入って見ればなんとも豪華なお部屋だった。土足で入るのが憚られるくらい。あの雑誌に載っていたそのまんまの部屋。もしかしてスイートルーム取ってくれたの?

「銀ちゃん、この部屋」

「新婚旅行っつったらスイート勧められてさー。甘そうだったからいいかなって」

「そのsweetじゃなくてsuiteだよ…」

「いーのいーの。元No. 1キャバ嬢と泊まるならこんくらい豪華じゃなきゃ満足できねーだろ?」

「失礼な。銀ちゃんと一緒ならビジホだって良かったんだからね」

「それじゃ俺の立場がねーよ。こんな良い女、ビジホじゃ勿体ねーって」

「…ありがとう」

「あれ、照れてんの?」

うん。照れてる。なんか最近ますますこんな人だったっけ?って思うほど雰囲気が甘い。出会った頃なんてつんけんしてて、嫌われてるんだろうななんて思ってたのに。付き合ってみたら本当は溺れそうになるくらい愛情たっぷりの人だったんだよね。結婚までしちゃうなんて、人生ってほんと分からない。楽しい思い出たくさん作りたいな。

「よし!銀ちゃんビーチ行こ!」

「脱ぐなここで脱ぐな!あーもうお前マジで…」

「じゃーん!新しい水着でーす!どうかな?雰囲気だけでも夏っぽい?」

「……あ、やべ鼻血」

「ちょっと!スイートの床に鼻血落とさないでよー!」

大袈裟に顔を押さえて蹲る銀ちゃんに駆け寄るとにやっと笑って顔を上げた。

「うっそー」

「わっ!」

がばりと起き上がった大きな腕に抱えられて二人で寝るには勿体ないくらい広くてふわふわのベッドに転がされた。
ぼよんと身体が跳ねる。高めの天井に張られた壁紙が綺麗だなぁと思っていると視界を遮ってのしかかってきたのはニヤけた旦那さん。

「何それいつ買ったの。めっちゃかわいーじゃん」

「りぃちゃんの見立てだよー。『裸よりエロい白ビキニ』だって」

「確かにこの薄ら透けてるフリルがいいな。つーか白いシーツに白いビキニってさー、」

「うわ、嫌な予感」

「めっちゃエロくね?」

「今絶対スイッチ入ったでしょ」

「ンなこと言って誘った癖になぁ?」

「違うよ水着一番に見せたかったんだもん」

「だから見てんじゃん」

「見てないじゃん!脱がしてるじゃん!もう!ビーチ行こうよー!サンドバー見ようよー!」

「日焼け止め塗ったほうが良くね?日差し強いし」

人の話をまるで聞いてない。ごろんとうつ伏せにされ背中の紐を解かれるともう水着は付けてる意味もなくなった。腰から背中を舐め上げられて思わず声が震えた。

「裸にしなくても塗れるでしょっ…!も、ちょっ、んん、」

「ほんと似合ってる。…あーこんな可愛い子誰にも見せなくねーから予定全部キャンセルして今日も明日もずっとベッドに居よっか」

銀ちゃんが言うと本気っぽくて怖い。ていうか昨日から何回こんなことするんだろう。性欲強すぎない?それに乗ってしまうわたしも大概そうなのかもしれないけど気付かないフリをしておこう。
結局サンドバーは明日にしてホテルからすぐそこのビーチに出たのは午後になってから。手を繋いで散歩して、遅いお昼なのか早めの夕飯かよく分からない時間になって海が見えるお洒落なレストランで食事した。アンティーク調の店内は広いけど家具が統一されていて落ち着くし、笑い声が飛び交う穏やかな雰囲気は『sugar』を思い出させた。テラスで海風を浴びながら食べるご飯は高級ホテルのディナーよりも全然美味しくてたくさん食べた。食後はお店の奥にあるバーカウンターに移動してお酒を飲むことにした。全てアレンジされているというカクテルに銀ちゃんはやや興奮気味でバーテンダーのお兄さんとの会話を楽しんだ。仕事のことになると他を忘れるくらい熱心でキラキラ輝く瞳がすごく好き。バーカウンターを挟まずにお客さんとして隣で過ごす時間は本当に楽しかった。心地良い酔いも回って気分もすごく良い。お手洗いに席を立ち、戻ろうとして足が止まる。このお店にバーカウンターは二つある。えーと、どっちだっけ。

「あれ?名前ちゃん?」

「……?あ、久しぶり…!」

男の人に声をかけられたと思ったら顔を見てびっくり、以前キャバクラに通って指名してくれていたお客様だった。そういえばこの近くに転勤になったって言ってたっけ。歳が近くて友達みたいに話せる距離感を好んでて、良い人だったのを覚えてる。

「うわ、こんなとこで会えるなんて。元気だった?引退の日行けなくてごめんね」

「ううん!メールでお祝いしてくれて嬉しかったよ」

「友達と来たの?良かったら一緒に飲まない?」

「ありがとう。せっかくだけど夫と一緒だから」

「え、結婚したの?」

「うん。そうなの」

恥ずかしくて顔が熱くなる。ねぇ、夫だって。わたし、夫って言ったよ、銀ちゃんのこと!最上級の関係を口に出して、新鮮でむず痒くて嬉しい。昨日の挙式ではめたばかりのピカピカの結婚指輪を見下ろして照れ隠しに笑った。

「おめでとう。名前ちゃんの顔見れて良かった。お祝いに一杯持ってってよ」

一緒にカウンターに行くとそこに銀ちゃんはいなくて、店内を見渡すと遠くにあるもう一つのカウンターの席にいる銀ちゃんと目が合った。あ、あっちだ。ナンパじゃないよと視線を送ったのがわかったのかグラスを傾けてひらひらと手を振った。

「乾杯」

「乾杯。いただきます」

「幸せにね」

「ありがとう!」

渡されたのは可愛いピンク色のカクテル。何て名前だろう。『sugar』で出したら人気出そう。どうやって作るのかなぁとか考えてしまう自分に笑ってしまう。キャバ嬢やってた頃が遠い昔のことみたい。あの頃はキャバ嬢以外のことなんて何も出来ないと思ってた。なのに今は、違うことで頭がいっぱい。頂いたグラスを持って銀ちゃんの隣に戻ると、おかえりーと和やかに迎えられた。怒ってない。けどなんか、やけに機嫌がいい。いつもなら男の人と話すの嫌がるのに。

「さっきお客様と会ってね」

「見てた見てた。お前すっげー嬉しそうに笑ってたじゃん」

ひょいと横からグラスを拐われる。桃色のそれをくいと飲み干してしまった。あ、一口欲しかったな。

「ピンク・レディーな。確かに名前にぴったりだけど表面しか見てねー感満載だな。ごちそーさん」

「…あの人、カクテル言葉までは知らないと思うけど」

「そーだな。可愛い見た目で女の子受け良さそうなカクテル選んだんだろうな」

穏やかな話し方なのに刺のある言葉選びをする銀ちゃんの視線の先では店員さんがシェイカーを振っていた。綺麗な八の字。

「……怒ってる?」

「いや?もう結婚したしいちいち男と喋ってるくらいで怒らねーよ。でも何あれ、なんであんなニコニコ笑顔振りまいちゃってんの。他の席の奴らもみんなお前見てたぞ」

怒ってるじゃん。知り合いだって分かったから会話に入ってこなかっただけで、本当はそのカクテルだってわたしが飲むの嫌だったんでしょ。隣に置かれた左手の薬指、お揃いの指輪を指先で撫でるとようやくこっちを見下ろした。聞いて、とその手を握る。

「だってね、わたしさっき初めて銀ちゃんのこと、夫って言ったんだよ。すっごく恥ずかしかったけど嬉しくて」

「……は?」

「だから、夫と一緒なのって言ったの。…やばい、なんかまた熱くなってきた。見て見ておでこ汗かいてる」

前髪をわけて汗ばんだ額を晒すと、ぶはっと吹き出した。しばらくくつくつと笑っておでこに軽くキスされる。

「もしかして俺のこと話してあんな顔してたわけ?名前ちゃんさ、マジで何でそんなに俺のこと好きなの」

「好きだからだよ」

「あーもう本当名前ちゃん最高だわ」

「だからもう機嫌直して楽しく飲も?」

指を絡ませてニコニコ笑い合うわたしたちってもう目も当てられないくらい自分たちの世界に入ってる気がする。バーを出て夕焼けのビーチを少し散歩した。思い出話や、これからのこと。酔い覚ましに水買ってくると言った銀ちゃんを待っていると若い男の人数人が近くを歩いてきた。

「あれー?ひとりー?俺らと散歩しなーい?」

「しなーい」

「うわっ即答傷つくー!」

ギャハハと大きな声で笑う。面倒くさい系の子達だなぁ。立ち上がって銀ちゃんが歩いて行った自販機の方に向かおうとすると待ってよーと通せんぼされた。

「うわ、よく見たらオネーサンめっちゃ可愛いね!モデルとか?」

「ただの無職の人妻でーす」

「ははは!人妻な訳ないじゃん。じゃーキャバ嬢とかしてんの?」

これが人妻なんですよ。まだ二日目なんだけどねぇ。

「ちょっとちょっとお前ら。俺の大事な奥さんに何してくれちゃってんの」

肩に置かれた手と目の前に出された飲み物のペットボトル。そしてふわりと安心する香り。

「え、マジで人妻なの」

「そーだよこのピッカピカの結婚指輪が見えねーの?いくらしたと思ってんだよまずこっち確認しろよ。まぁ手より先にこの子の綺麗な顔に目いっちゃうのはわかるけどさ〜。てことで悪いけど他当たってくんね?」

「そ…そっすか〜お邪魔しました〜」

「お幸せに〜」

「はいどーもー」

銀ちゃんの圧に押されたナンパ君たちは即刻で帰って行った。笑ってたけど目が怖すぎてヤバい奴って思われたんじゃない?まぁいいかもう会うこともないし。

「まーったく。ちょっと目離すといっつもこうだよ。名前ちゃんもうちょいブスになれねーの」

「じゃあ明日はメイクしないで出かけるね」

「は?スッピンこそダメに決まってんだろめっちゃ可愛いんだから。アレはな、俺だけが見ていい顔なの。世の男どもにホイホイ見せていいもんじゃねーんだよ」

「意味わかんないしなんか変態くさいんだけど…わっ、つめた!」

岩場近くの砂浜に座って買ってきてもらった水を一口飲もうとして手を滑らせた。爪が当たってうまく握れずペットボトルの中身が半分くらいパーカーにかかってしまった。

「おい大丈夫かよ。変態とか言うからバチが当たったんじゃねーの」

「変態の神様ごめんなさい反省してます」

「誰だよ変態の神様って」

もうすぐ日が沈む。辺りもだいぶ暗くなってきた。真っ赤な世界の中でくすりと笑う旦那さん。夕陽に照らされた銀髪が赤とオレンジに染まってキラキラ揺れる。

「銀ちゃんの髪カシスオレンジみたい」

「お前もな」

「さっきすっごくかっこよかった。ありがとう。あとね、『奥さん』って言われてすっごく嬉しかった」

「やっぱ照れるな。バーで名前がニヤニヤしてたのわかるわ」

「え?照れてたの?全然わかんなかった」

「今もめっちゃ照れてるけど。つーか目のやり場に困ってる」

どういうこと?と聞くと薄手のパーカーの濡れた胸元辺りを指さした。水溢したせいで透けてる。でも下は昼間見せた水着だから別に大丈夫なのに。

「水着だよ?」

「それがエロいっつってんの」

「もー高校生じゃないんだから。そろそろホテル戻ろうよ」

「名前がデケー声出さなきゃ大丈夫」

「大人としてヤバいよそれ。ていうか銀ちゃん、顔に出ないだけでかなり酔ってるでしょ」

「なぁ名前」

立ち上がろうとする身体を引き寄せてぴったりと耳元に付けられた唇から響く酔っ払いの声。低く擦れて鼓膜が揺れる。

「俺浮かれてんの。ここに来てから本当に名前が俺だけのモンになったんだって、一生独り占めできんだって思ったらマジでもう、雲の上歩いてるみたいでおかしくなりそう」

囁きながら動く手はパーカーのチャックをお腹の辺りまで下ろしていた。冷たく張りついた不快感がなくなって潮風が肌を撫でていく。

「こんな透けた格好見られんの嫌だからもうちょい暗くなってから戻ろうぜ。それまでなら触っててもいい?」

「…………うん」

真っ暗になるまで岩場の影で何度も唇を合わせて、ホテルに戻ってからもバスタブにお湯を張っている間お互いに服を脱ぎながらずっとキスしてた。その間言葉を交わすことはなくて、でも海岸で言われた銀ちゃんの本音がずーっと頭の中で繰り返し踊ってた。わたしだってそうだよ。一生浮かれてるよきっと。銀ちゃんといると酔ってるみたいに足元がふわふわして気持ち良くて、ずっと抱きしめていて欲しい気持ちになるの。
ふと、キスの合間に視界のすみっこで脱がされて転がっていたヒールを丁寧に立たせて端に置くのが見えた。お気に入りのヒール。もちろんサンダルも持ってきてはいたけど、海なのにヒールを選んだことを銀ちゃんが咎めることはなかった。わたしの大切なものを大切にしてくれる。大切だと思う価値観を大切にしてくれる。依存と嫉妬でぐちゃぐちゃになる時だってあるけど、ちゃんとお互いを理解して尊重して、その上で一生愛し合うことを誓った。だからこれからも同じ気持ちを共有できると思う。

「…銀ちゃん」

「んー?もう我慢できない?」

「大好きだよ。ずっと好き」

「…はは、最高」

気持ちが溢れ過ぎるとずっととか一生とかそんな薄っぺらい言葉しか思い付かなくなってしまう。でも銀ちゃんには伝わってるからいいの。どんな言葉で伝えるかじゃなくて、誰にどんな気持ちで伝えるかが大事なんだって知ってるから。

「好き」

そう言う度に銀ちゃんは幸せそうに口角を上げた。目を閉じてたってわかるよ。触れる手も身体の温度も全部幸福に満ちてる。あったかい家族になろうね。甘くて胸焼けするくらい幸せになれそう、あなたとなら。





「…で、お土産がこれですか」

「可愛いでしょサンド君キーホルダー!あとお菓子いっぱい買って来たよ」

「姉さん…僕いくつだと思ってるんですか」

「いや〜あっという間だったな〜。まぁほとんどホテルにいたんだけどな〜。海もサンドバーも綺麗だったけど名前がな〜。知らねぇ土地に咲いた一輪の花が俺の視線を離しちゃくれねーんだよなぁいやー参った参った」

「アンタらろくに観光しないで何しに新婚旅行行ったんですか」

新婚旅行を終えて戻って来た今日はお店の営業再開の日。お土産と思い出話をいっぱい持って来たのに弟と退くんは興味がないらしい。

「名前さんちょっと焼けましたね」

「やっぱり焼けたよね?銀ちゃん日焼け止め塗るの下手なんだもん」

「新鮮で可愛いですよ」

「ちょ…オイ退、お前隙あらば名前のこと口説くのいい加減やめてくんない!?」

「この程度で口説いたとか思われたくないっすね。俺が本気出したら昼ドラよりドロドロの不倫関係になっちゃいますよ」

「新婚に縁起でもないこと言うなよ!お前だってそのうち入籍するんだろ」

「あ、でも退くんになら一回口説かれてみたかったかも。なんちゃって」

「お前らがグルになると太刀打ちできねーから悪ふざけすんのやめてマジで」

「ほら皆さんそろそろご予約のお客様が来ますよ!ただでさえ定休日続きだったんですから、シャキッとして下さい!」

「新太郎、すっかりここのバイトも板についてきたよね」

「アンタらが頼りないからですよ」

「まぁまぁ肩の力抜けって。今夜もゆるーくよろしくな」

「全く、店長がこれですもんねぇ」

「あはは」


銀ちゃんと二人っきりで見た景色達がお店の照明にキラキラと映っているみたいでいつもより眩しい。甘い香りのするこのバーで、これから先どんな出会いがあるんだろうと考えると楽しみで仕方なかった。

まぶたに透ける青と永遠

「そういえば銀ちゃんって泳げないらしいよ」
「言うなよバカ」

ピンク・レディー『いつも美しく』
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