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「ギャーーッ!ねぇ見た名前ちゃん今の見た!?この子俺のこと見て笑ったマジくそ可愛いいいい〜〜!!!!」

「見たよ、可愛いねぇ」

ベビーベッドを覗く銀ちゃんは仕事以外で家にいる時は一日中こんな風にはしゃいでる。この子が産まれてから数ヶ月ずーっと。はじめは抱っこするのもおっかなびっくりで「やべー壊れる」って冷や汗かきながらすぐ助産師さんに返しちゃったのに、今じゃ慣れた手つきでまだ座ってない腰を支えながらあやしてる。

「最近さー、めっちゃ可愛くね?目が合うとニコって笑うのちょー可愛くね?日に日に可愛くね?生きてるだけで可愛くね?」

「可愛いよねぇ」

「お前、母ちゃんに似て良かったなぁ。…なんか子育てって未知の世界だったけど案外できるもんだな」

「銀ちゃん忙しいのに子育て学級にも一緒に行ってくれたもんね。あれ笑っちゃったな、おむつ変えるときの練習でなぜか赤ちゃんの人形全裸にしたの」

「だっ!あれはもしかしたら肌着濡れてたかもしんないじゃん!?汗かいてたかもしんないじゃん!?予測と想像力の賜物だよ!?」

「おむつの構造も分かってなかったもんねぇ。わたしもだけど。新太郎の時のこともあんまり覚えてなかったし」

「名前も色々調べながらよくやってるよな」

「最近はネットですぐ出てくるから便利だよ本当に。ゆんちゃんもいるからすぐ電話しちゃうし」

「もうママ友だもんなー」

銀ちゃんの腕の中にいた小さな子が突然ふぇーんと泣き出す顔を覗き込む時も、もうすっかりパパの顔。

「ん?どーした?腹減ったか?」

「そう言えばそろそろミルクの時間だね」

「あ、いーよ俺やる」

ソファから立ち上がろうとするより早く銀ちゃんが動いた。ぐすぐす泣いている赤ちゃんの抱っこを変わる。キッチンに向かって当然のように哺乳瓶と粉ミルクを取り出す様子を、小さな背中をぽんぽん優しく叩きながら見ていた。頬を寄せればふわふわで柔らかくてほんのり甘い香り。

「まさかこの即席バーカウンターでミルク作ることになるとはなぁ」

「『sugar』のメニューにも入れたら?赤ちゃんのミルクありますって」

「はは、子連れにいいかもなー。ますますなんの店か分かんなくなるよなぁ」

「でも、誰でも来ていいよーってスタンスは銀ちゃんっぽいよね」

「そーだな。名前ちゃん見てー」

粉ミルクとお湯を入れた哺乳類をまるでお店に立ってるみたいにシェイクする姿に思わず吹き出した。

「なにそれ、バカみたい」

手首の辺りに数滴ミルクを落としてぺろりと舐めた。

「うま。ミルクって結構甘いよなぁ」

「ねー。意外だよね」

「ほい『sugar』特製激ウマミルクお待たせー。お代は出世払いな」

ふざけながら戻ってきて銀ちゃんが当然のようにミルクをあげている。「うまいか?そーかそーかー」と話しかける声が柔らかい。こんな光景想像してなかった。バーの店長という仕事も大変だし昼夜逆転傾向だからこんな風に休みの日に昼間から子どものお世話を一緒になってしてくれるなんて思わなかった。せいぜい泣いたらあやしてくれるくらいかなって勝手に想像してたけど現実はとても理想的なパパだった。わたしを見る時よりも優しくて、あったかい眼差しで腕の中の子を見てる。その横顔が最近のわたしのお気に入り。この子が生まれたことで銀ちゃんの知らなかった一面をたくさん知った。

「この機会に店も定休日始められて良かったわ。はじめは不定休だったし」

「そうだね。お客さんついて良かったね。未だに雑誌にも載ったりしてるもんねぇ」

「こういう仕事だし、名前には負担デカくて悪いけど出来ることはするから」

「そんな。今でも充分だよ!本当助かってる」

「『助かってる』って言い方がさー、なんかもう違うんだよ。二人で親なんだから平等にしてたいじゃん。名前は命がけでコイツ産んでんだぜ?マジで見た時こっちが倒れそうになったわ。マジですげぇよ母親って。一生頭上がんねーわ。だから俺も命がけでお前ら守んねーとって思った」

きゅん、と胸が鳴った。本当に素敵過ぎる。100点満点の旦那さんだ。この人と結婚して良かったって思う。

「わたしも守るね!銀ちゃんとこの子のこと!」

「そこは俺に守らせろよ」

「…それにしてもあの時は本当恥ずかしかった…立ち会い希望しなきゃ良かったー…」

「は?なんで。全然恥ずかしくねーよすっげーかっこよかったしまた惚れ直したわ」

「銀ちゃん…」

「あ、寝た」

お腹が膨れて安心したのか銀ちゃんの腕の中ですやすやと寝息をたてている。ベビーベッドにゆっくりと寝かせて頭を撫でてからわたしがいるソファに戻ってきた。

「色々やってくれてありがとう」

「いーってことよ。俺が休みの日くらいのんびりしてろよ。つーか名前が母親なんて未だに信じらんねぇ。こんなにピチピチで綺麗な母ちゃんいる?」

「いるでしょ、ていうかわたしそれほど若くないんだけど」

「つかさー、ブラトップってめっちゃエロくね?」

「唐突になんの話?」

にやりと笑ってわたしの格好をまじまじと見る。今日は暑いからキャミソールとショーパンに、前に銀ちゃんから貰ったお下がりの薄いカーディガンをゆるく羽織っている。赤ちゃん抱っこしてると暑いし動きやすい格好がいいから最近はこんな感じ。スカートやワンピースはあんまり着なくなった。一緒に外に出るようになったらお洒落したいなぁ。

「上から見るとめっちゃ谷間見えんだもん。しかも肩丸出しだしなんなら脇も見えるし身体のラインわかるから前から見ても横から見てもめっちゃエロい。ブラトップ開発した人誰?ちょっとお礼言いに行って来るわ」

「また意味わかんない性癖…」

「しかもそのカーディガン俺のだろ。ぶかぶかで肩丸見え」

「薄くて使い勝手良いの。暑かったらすぐ脱げるし」

「暑くね?脱げよ」

そう言うと手を肩に滑らせてするりと薄い布を落とした。こういうところは相変わらずだ。あ、雰囲気が違う。目がギラついてる。わたしにだけする表情。

「あー本当、俺の奥さんってなんでこんな魅力的なわけ」

「ちょっと銀ちゃん」

「名前」

艶めいた低い声が耳元で名前を呼べば反射のように心臓が跳ねた。こちらを見下ろすのはさっきまでのパパの顔した銀ちゃんじゃない。わたしのことが欲しいって顔した旦那さん。

「やべぇムラムラしてきた。部屋着でソファに座ってるだけで煽るなんてさすが俺の嫁」

「煽ってないし。銀ちゃんが一人で勝手にムラムラしてるだけじゃん」

「まだ身体辛ぇだろ?夜も満足に眠れてねぇし。最後までしねぇから。めちゃくちゃベロチューするだけだから」

「ん、っぎん、」

言うが早いか覆い被さって唇を塞がれる。ちゅ、ちゅ、って軽く音を立てて柔く唇を吸って、手は胸の上。ふわふわと服の上から触ってくる。

「かわいー名前ちゃん。ホント、また抱くの楽しみ。それまでに腕磨いとくわ。めちゃくちゃ満足させてやるからな」

なんの腕。どうやって磨くの。大真面目でそんなことを言う銀ちゃんがおかしくて笑うとほっぺをむにむにされた。身体の負担を考えて我慢してくれる気遣いが嬉しい。イチャイチャするのが好きなわたし達がこんなに長い間してなくても不安にならず落ち着いていられるのは信頼関係があるからだし、その分キスや言葉で安心させてくれるから。でもやっぱ最近はそれだけじゃ満足できなくなってきた。心は満足してるんだけど身体の方。母体の役割は大体終わりを迎え少しずつ本来の身体に戻ってきてまた『わたし』だけのものになりつつある。だから大好きな人のキスだけで終わって身体が離れていくのが物足りなくなってきてしまってる。じくじくと身体の奥から溢れるものの正体に気付いてしまったから。だからもう我慢しなくていいよね?

「…銀ちゃん、わたし、銀ちゃんが…欲しいよ」

「え?大丈夫なの?」

「できるかわかんないけど…もっと触って欲しい」

「やば。そんなん言われたら触るしかねーじゃん」

頷くと、すっごく嬉しそうにまたキスをした。頬を撫でて肩まで降りてくるとキャミソールの紐を落として現れた胸に手を埋める。真昼間の明るいリビングで久しぶりに触れる手に恥ずかしさが込み上げてくる。銀ちゃんはわたしが恥ずかしがってる顔が大好物だ。ニヤニヤと意地の悪い顔で見下ろしてくる。

「久しぶりだなコレ、やっぱこれだな」

「なんか思ったより明るくてやだ」

「今更何言ってんの。名前が誘ったんだからな。でもしんどかったら早めに言えよ?止めらんなくなる前に」

「んっ、あ!」

言いながら胸の突起を口に含み舌先で刺激したり吸ったりする。久しぶりの感覚に身体は大袈裟に反応した。付き合ってる時も、結婚してからも数えきれないくらいに身体を重ねてきたけど何回したって飽きるなんてことないし毎回新鮮で胸がきゅうきゅう悲鳴を上げる。

「名前、好きだよ」

「んぁ、銀ちゃん…わたしも」

ねっとりとした愛撫にもどかしさが募り腰が揺れる。密着している銀ちゃんのそれがはっきりとわかるくらい硬く熱くなってぐりぐりと押し付けてくる。胸を味わいながら少し強引にショートパンツの中に手を突っ込んだ。早く、もっと触って、早く欲しい、わたしだけのぎん、ピンポーン。

「っ!?」

突如インターホンから来客を知らせる音楽が鳴り二人して動きを止めた。首だけ動かして画面を見れば、そこに立つのはわたし達の弟。

『こんにちはー。頼まれた物買ってきましたよー』

「しっ新太郎!ちょっと待ってちょっと待って今ちょっとアレだから!すげー良いとこだから痛っ!!」

「早く退いてよー!」

「わーってるよ!」

『あれ?寝てるかな』

新八の呟きが更に焦る。銀ちゃんをぐいぐい押して服と髪の乱れを整える。あーあっつい!汗がヤバい!

「名前ちゃん出といて!!!」

「ちょっとー!」

バタン!とトイレに直行した銀ちゃんに文句を言ってやろうと思ったけど先ずはインターホンに向かって「ごめんちょっと待ってー!」と声をかける。するとベビーベッドから可愛い泣き声。

「あ〜ごめんね。うるさかったね」

よしよし、と抱っこしてあやしながら玄関に向かう途中でトイレのドアをコンコンコンコンノックしまくった。

「銀ちゃん!!」

「はいはいはいはいはいお願いだからちょっと静かにしててすぐ行くからァァ!!!」

トイレの中からすごく焦った返事が返ってくる。八つ当たりだ。あのまま続きをしたかったって思う女の自分と、子どもを差し置いて昼間から何やってるんだろうという親の自分が心の中でああだこうだ言っている。恥ずかしいやら何やらでもう嫌になる。

「お待たせ〜新太郎。買い物ありがとうね」

「何かあったんですか?やけにバタバタしてましたけど」

「んーちょっとね!暑かったよね。ほら上がって〜」

「あれ?銀さんは?」

「めっちゃヤバい下痢してトイレ」

「えっ大丈夫なんですか!?」

「大丈夫大丈夫〜」

さっきまでくっついていたソファに座って貰うのはちょっと罪悪感があったけど仕方ない。抱っこをバトンタッチして買い物袋の中を確認する。スーパーに載ってたミルクの特売。重たいからありがたい。

「あれまたおっきくなったんじゃないですか?おーい元気ー?おじちゃんだよー」

「ミルク飲んで寝てるだけだからねぇ〜。もう少ししたら動きが出てくるんだろうけど」

「楽しみですねぇ」

「ねー!」

「おー新太郎いらっしゃい。何飲む?」

「お邪魔してます、お気遣いなく。めっちゃヤバい下痢らしいじゃないですか。大丈夫ですか?」

「めっちゃやべーよ?夏の下痢甘く見んなよマジで」

「見てませんけど汗すごいですよ」

「ハハハハハハハハ」

キッチンに消えていく銀ちゃんの後を追いミルク缶をしまいながら「もっと早く出てきてよ」とコソコソ耳打ちする。ぴったりくっつくと薄らと汗の香りがした。グラスを出してわたしをじっと見下ろす。う、何その顔、格好良い……と思いながら見つめ返すとショートパンツの上からお尻を撫でてきた。

「名前の中なら秒でイけんのにな?」

「もうっやめてよ」

「これ俺のだからあんま見せないでくんない?つーかこれで外出たりしてねぇよな?」

大丈夫だよ、と返すと少しはだけていたカーディガンを摘んでしっかりと胸元を隠した。

「…今夜、覚悟してて」

耳元で低く囁かれ、ちゅっと唇にキスされた。パッとリビングを見れば新太郎はラトルを片手に楽しそうに遊んでいた。

「っ………バカ!」

「はは、真っ赤」

楽しそうに笑う銀ちゃんは麦茶を持ってリビングに行ってしまった。わたしは熱くなった頬を冷まそうと無駄に冷蔵庫を開けて冷たい冷気を浴びてみたりした。あ、そうだ。冷凍庫にアイスがあったのを思い出して三つ手に取った。

「ねぇアイス食べよー!」

「お、いーね。見てみ名前、この子新太郎にめっちゃガン飛ばすんだけど」

「いただきまーす。ていうか新八ですってば」

「あははっ」

幸せだなぁ。こんな毎日がこれからもずっと続いていくんだと思うと嬉しくて嬉しくて銀ちゃんと新八にガバッと抱きつくと、わたしと銀ちゃんを半分こしたような可愛い顔した我が子が新八の腕の中で「あー!」って笑い返してくれた。


君との今日を守りたいって

あやしながら二人のイチャイチャを見ていた弟
「君のパパとママは今日も仲良しだね〜」

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