×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

▽愛と寝てみる



「りぃちゃん、ゆんちゃん…心配かけて本当にごめんね」

「うん。無事にまた会えて本当良かった。マジであの時の銀ちゃん殴ってやろうかと思ったくらいウジウジしてたんだよ?」

あー思い出してもちょっとイライラする、と不機嫌になるりぃちゃん。銀ちゃんと仲直りしてからアパートに置いてきた白いスマホを充電してみるととんでもない量の電話やLINEが来ていた。それは銀ちゃんをはじめりぃちゃんとゆんちゃんの名前ばかりだった。もう嫌われちゃったかなと思いながらも連絡してみると、とにかく集まろう!ということでランチに来ていた。二人は心配したとだけ言って変わらない笑顔で迎えてくれた。

「えーあたしも見たかったなぁー、まぁ彼女とひと月も連絡取れなかったらさすがに病むかぁ。ねぇ名前ちゃん、今度からは何かあったら絶対に相談して?楽しい時に一緒にいるだけが友達じゃないんだよ。辛い時も話くらいなら聞けるからさ。ね、約束」

「ゆんちゃん…うん、ありがとう」

「それにしても銀ちゃんが浮気かー………ないわ」

「うん、ないね絶対。賭けてもいい」

「え?ないって?」

「ベタ惚れだもん。名前ちゃんのこと話す時すっごく優しい顔するんだよ。前はゆるーい雰囲気が好きだったけど付き合ってからなんか角が取れて柔らかくなったよねぇ。名前ちゃんが銀ちゃんを変えたんだよね」

「そう、かなぁ。とにかくもうあんまり気にしすぎないようにしようと思う」

「そーそー、付き合ってるなら喧嘩くらい当たり前だからね!これから何度もするよきっと!でもその度に仲直りすれば良いでしょ?」

「うん!」

「でさー…二人にちょっと報告があるんだけど」

ゆんちゃんは少し恥ずかしそうに飲み物が入ったグラスを手に取りストローを指で弄んでから決心したように言った。

「あのね…」






「ただいまぁ」

「おーお帰り。早かったな女子会」

「うん。荷物の整理しようと思って真っ直ぐ帰ってきた」

「あーキッチンは俺やるから名前はまず自分の部屋やれよ、つーかバッグありすぎなんだよ腕何本あるんですかぁ」

「買ってくれたお客さんがお店に来る日はそれ持って行きたいから日替わりでーす。これでもだいぶ減らしたんだよ」

銀ちゃんと住む部屋は彼が店長を務めることになる新しいお店の近くで見つけた2LDK。勘違いの浮気疑惑で音信不通にしたお陰で『もう俺から離れるの禁止』と半ば強引に同棲することになった。驚いたのは銀ちゃんの行動力。仲直りした次の日には物件を見に行きその場で内見して契約。あれよあれよという間に話が進んで、同じ家に二人分の荷物を少しずつ移動させている。

「ねぇあのバーカウンター、勿体なかったね。せっかく素敵だったのに」

「持ってこれるモンは移したしまた作るからいーんだよ。あれは一人暮らし用だったけど今度は名前にも居心地いいように作りたいから」

「格好いい。銀ちゃん好き」

「当たり前〜」

「自意識過剰〜。あ、あとでタブレット借りてもいい?」

「いーけど使い方わかる?」

「うん。調べ物したいんだけどスマホだと画面ちっちゃく感じるんだよねぇ。見辛くて」

「ばーちゃんかよ…好きに使っていーけどデータは消すなよー。じゃあ俺そろそろ出るけど」

「はあい。行ってらっしゃーい」

玄関先でキスして送り出す。バタンと閉じられたドアにもう不安はない。銀ちゃんはここに帰ってくる。わたしもここが帰る場所になった。
リビングに戻ってタブレットを起動する。検索ワードを打ち込んでいると自分とはかけ離れた言葉に思わず手が止まった。

「……赤ちゃん、かぁ………」

ランチの時にゆんちゃんが嬉しそうにしてくれた報告。『赤ちゃんができた』って。風邪気味だと思っていたらどうやら違うようで検査薬を使ってみたら陽性で病院に行ったんだそうだ。まだ本当に初期だけれど彼氏さんはすっごく喜んでくれて年内に入籍しようってプロポーズしてもらったらしい。それを聞いてわたしも心から嬉しかった。だからしばらくはバーで集まるのをやめて昼間に会おうってことになった。そんなわけで妊娠中の女性の身体のこととか、そもそも赤ちゃんがどう育っていくのか全く知識がなかったから調べることにした。そしてネットで評判のいいノンカフェインのお茶やコーヒーをいくつか注文した。今度渡そう。

「わたしにもできたりするのかなぁー…」

結婚どころかつい最近彼氏と大喧嘩したばっかりのわたしにとって出産なんて果てしなく遠い話だ。家族を作る、それって本当に凄いことだ。銀ちゃんの赤ちゃんがいたら……うーん、それはなんとも恥ずかしくて照れ臭くて…でも、いいなぁ。寂しがりなわたしたちのところに来てくれるかなぁ、いつか。
それからベビーグッズのサイトを見ていたら止まらなくなってどれもこれも可愛すぎて片っ端からカートに入れてしまいたくなったけどまだ性別もわからないし焦るのはやめよう…と我に帰りタブレットを戻した。





「えっ、退くん?」

「おはようございます名前さん」

次の週の出勤前、迎えの車に乗り込もうとすると何故かドライバーさんではなく退くんが乗っていた。

「どうしたの?転職? 」

「いえ…名前さんと話したかったんで 」

代わってもらっただけです、という退くんの顔を見ていると銀ちゃんのことを思い出す。ちょっとだけ待って!と仮眠してる銀ちゃんを叩き起こして駐車場に連れてきた。

「おー退。あん時は世話になったなぁ」

「…寝癖ヤバイですよ。思いっきり寝起きじゃないっすか」

「いやー最近忙しくて…開店したらお前も来いよ」

新しいお店の店長さんになることを伝えると退くんはとても驚いて「アンタで大丈夫なんですか」などと失礼な事を言う。こら、ちょっと生意気だぞ、そこがかわいいんだけど。

「まぁ名前さんが元気でいるなら何でも良いです」

「退くんありがと〜お菓子いる?」

「要りません」

「じゃあ銀ちゃん、行ってくるね 」

「はいよ。退、コイツ頼んだぞ」

「だから呼び捨てにしないでくださいって」

若干迷惑そうに返して車を出した。銀ちゃんはスウェットのポッケに手を突っ込んで眠そうにしながらも車が見えなくなるまで見送ってくれた。そんなところも好きだなぁと胸があったかくなる。

「名前さんには…ちょっとしつこくて重い男の方が良いかも知れませんね。不本意ですけど」

「退くん、銀ちゃんのこと気に入ってるでしょ」

「は?気に入ってませんよ。ああいう適当そうな人、苦手です。名前さんのこと泣かせるし」

素直じゃないなぁ。本当に気に入らなければ口も聞かないと思う。銀ちゃんと仲直りできたのも退くんのお陰だし、若いのに仕事もできてすごく優しい。そう、思い返せば初めから優しかった。

「…退くんとはずっと一緒だったね。すぐ後に入って、頑張ろうねーって励まし合って。わたしがお酒弱いからよくグラス割って怒られたよねぇ。そうそう、背中のファスナー上げてもらってたの銀ちゃんにバレてめっちゃ怒られた」

「………名前さん。最近見てて思うんすけど」

退くんは前を見て、わたしは後部座席で暗くなってきた外を見ていた。眠らない街。ここでずっと生きてきた。ここがわたしの全てだと思っていた。銀ちゃんに出会うまでは。

「この世界から上がる気ですか」

うん、ともううん、とも答えなかった。でもきっとわかっている。隣でずっと支えてきてくれたから。仕事を辞めるということは彼ともさよならするということだ。わたしたちはそういう約束だった。

「わたしたち、そろそろ自分のために生きてみようか。不安だし、ちょっと怖いけど。でもきっとすごく楽しいと思う」

「…そうっすね」

「……初めて会ったときのこと覚えてる?」

「はい」

「懐かしいねぇ」

「…名前さん、俺は…どこで何をしていようと貴女の幸せを願っています。ずっと」

「ありがとう。退くんがいてくれたからここまで来れたんだよ。…お互い頑張ろうね、これからも」






名前さんが呟いた言葉で思考は過去に戻された。
覚えてないわけがない。
あの日俺は『生まれた』とさえ思った。

シングルマザーに育てられた俺の家庭は荒れていた。夜の仕事をしていた母親からいない者として扱われた末、義務教育を卒業したと同時に家を出て街を歩き、住み込みや日雇いのバイトでその日暮らしを送る日々。彼女と出会ったのは18になってすぐ。仕事が見つからない日が続き空腹に飢えどうしようもなくなった俺は夜の街でスリを試みた。歓楽街には金やブランド品を持っている奴ばかりだし酔っ払いを狙えば『どこかに落とした』程度で終わることが多いと聞いたことがあった。
その夜目を付けた女はフラフラと覚束ない足取りで一人歩いていた。片手にバッグとブランド品が入っているであろう紙袋を持ち『仕事終わったよー、もう少ししたら行くねー』と彼氏にでも電話しているようで通話が切れるのを待って後ろから軽くぶつかった。

「きゃっ!」

高いヒールを履いていた彼女は思ったより派手に転んだ。やり過ぎた、と内心焦り思わず駆け寄った。目が合った瞬間、本来の目的も忘れそうなほどの綺麗さに息が止まりそうになった。

「ごめんね、ぼーっとしてた。大丈夫?」

薄汚れた服で手ぶら、明らかに金のなさそうな出で立ちでぶつかってきた上に何も答えない俺をぼんやりと眠そうに見て、暫くの沈黙の後に紙袋を差し出した。

「あげる」

「……え」

「これね、今日で来るの最後にするーってお客さんがくれたバッグなの。うちはちっちゃいアパートに彼と住んでるから置くところないんだぁ。だから君にあげる」

何かの罠なんじゃないか、この紙袋を持った瞬間奥から大男でも出てきてボコボコにされるんじゃないかと思うほど甘い言葉だった。動けないでいる俺に「手貸してー」と屈託なく笑った。手を引き上げて立った彼女の膝は擦りむけて血が出ていた。

「…あの」

「ねぇお腹空かない?ご飯付き合って!行こ!」

汚れた腕を躊躇わずにがっちり組んで歩き出した彼女は警察に突き出すでもなく本当にファミレスに入り二人じゃとても食べきれない量の注文をして端から食べた。腹を満たしながら俺がこうなった経緯をゆっくりと聞いてくれた。人に生い立ちを話すのは初めてだったが目の前の女性は始終優しい眼差しを向けていた。

「こういうのってさ、一度やると癖になるって言うしすぐに噂になって怖い大人に利用されちゃうからもう辞めよう。仕事ないならうちにおいで。ちょうど黒服の募集してるんだぁ」

何年振りかも覚えていないほど久しぶりに腹一杯飯を食うとやっと頭が正常に回転し始め、転ばせてしまったことや荷物を取ろうとしたことをただただ謝った。

「初めて見たときにね、田舎の弟に似てるなーって思って懐かしくなっちゃって。君の方が年上だけど」

ワンピースから覗く小さな膝小僧に滲む血はもう乾いていたがおしぼりで丁寧に拭いた。その様子を眺めていた彼女は「優しいねぇ。一緒に働きたいなぁ」と笑った。

帰り際に本当に紙袋を貰った。飯を食わせてもらっただけで充分だと断ったが無理矢理持たされた。後で確認すると厚みのある封筒も入っていた。そこには店名と彼女の名前。貰ったばかりの給料だった。「またね」と微笑んでヒールを鳴らして去っていくあの何よりも美しい後ろ姿を俺は一生忘れない。名前を聞き合うこともなかったひとつの夜。あの人が夜の街を歩いている間は、彼女のために生きようと決めた。次の夜、店の前で待ち伏せをした。

「あ、昨日の」

「俺を側に置いて下さい。貴女がこの街を歩いている間は支えます。必要としなくなる日までずっと」

「……うん、一緒に頑張ろうね」

それが俺と彼女が交わしたたったひとつの約束。



:
:
:
:



「…っていうわけなんで外見も内面も聖母のように美しい名前さんにアンタは似合わないと思うんですよねぇ」

「お前よく一人で堂々とボーイズバーに入って来れるな。つーかなんだその話、聞いてもねーのに長々と」

「あれ?バーって客のつまらない身の上話も聞いてくれるんじゃないんすか?」

「いちいち生意気だなぁお前」

仕事終わりに赴いたのは名前さんの彼氏が働いているバー。俺が働き始めてすぐに前の彼氏と別れた彼女は痛々しいほどに笑顔を振り撒いて働いて…No. 1になった。一方で突然姿を消した彼氏の面影を探す日々は少しずつ彼女の心を臆病にしていった。屈託なく笑うあの頃の表情を再び見られるようになったのは数年後、このバーテンダーと出会ってからだ。

「俺が幸せにしたいって思ったことも勿論ありますよ。でも俺は一生あの人が恩人で、彼女にとっては弟で……それ以上の関係にはなれない、ならない方がいいと思いました」

『弟みたいに可愛がっている存在がいなくなる』ことの方がきっと彼女には辛かった。彼氏なんて曖昧なポジションになってしまえばまた壊れてしまうんじゃないかと怖かった。だから全力で仕事を支えてきた。それはきっと恋ではなかった。ただ彼女のために自分ができることをしたかっただけ。手の中のグラスを傾けてカリフォルニアレモネードを飲み干した。

「そもそも黒服とキャバ嬢の恋愛はタブーなんですよ。だからこの仕事するって決めた時、名前さんのことは好きにならないって決めてました。俺なんかが彼女に釣り合おうなんて痴がましいんすよ。なので俺はまだ誰も好きになったことがありません。それでも良ければ、」

カウンターのひとつ飛ばした席に座っているショートカットが良く似合う女性に目を合わせる。これまでの話を聞いていたのだろう。泣いていた。

「俺に恋を教えて貰えませんか?」

自分でも驚くほど優しく笑いかけた。以前うちの店に来た時に友達だと紹介してくれた『りぃちゃん』さん。凛とした雰囲気の彼女のことを少しだけ気にしている自分がいることに気がついたのはつい最近のことだ。名前さんが休憩の度に何かとこの人の話をしてくるというのもあるが。

「…うん、わたしで良ければ教えてあげる」

ハンカチを差し出すと細く女性らしい指がそれを取った。嬉しそうに微笑む表情は名前さんに負けないくらい綺麗だと思った。

「俺は何を見せられてるんだ……」

ムードを壊す口の悪いバーテンダーが呆れたように口を挟む。

「こういう話をしてからじゃないと女の人には向き合えないと思ったんですよ」

「俺の前でやるこたねーだろ。普通の客ならまだしも身内の恋愛を……胸やけするわ。で?結局お前は名前のことは姉ちゃんっつーことでいいんだな?ラブじゃねーんだな?そこしっかり宣言しといてくれる?」

「名前さんを幸せにしてあげてください。それが俺の望みです。癪だけどアンタなら任せられそうなんで。…坂田さん」

「…当たり前だろ。一生かけて幸せにしちゃいますけど」

「銀ちゃんはもうちょっと余裕持てば?あんま束縛しすぎると嫌われるよ」

「嫌われねーよむしろ喜んでるねアレは」

「俺の名前さんにおかしなこと教えないで下さいよ」

「いつ退のモンになったんだよ俺のだわボケ。お前はりぃちゃんと仲良くやってろ。名前の大事な友達でもあるんだから泣かすなよ。…いや泣かされるなよの方が正しいか?」

「ついこの間泣かせまくった人に言われたくないよねぇ、退くん」

「同感です」

「あーもー早く帰ってくんない?」

「銀ちゃん、おかわり」

「はいはい。これから恋が始まりそうな二人にはワインクーラーとかいかが?」

「いいっすね」

『自分のために生きてみよう』と言った優しい声が心に染み渡った。いつかこの時が来ると思っていた。彼女に出会って飛び込んだこの世界。例えそこから先の道は違ったとしても、区切りをつけるのも新しいスタートを切るのもどうせなら一緒がいい。だから…俺も踏み出そうと思います、名前さん。






…最近、銀ちゃんの様子がおかしい。
引越しも落ち着いてすごくラブラブで仲良しなんだけど、何かとわたしの身体を気遣ってくるし身体を求めてくることもない。

「名前ー、ってお前そんなモン持つなよ」

段ボールを廊下に出そうとすると横から奪い取られた。

「え?お店の後輩にあげる服だから軽いよ?」

「お腹の子がびっくりするだろ」

「……へ?オナカノコ?」

「あ、いつ言ってくれるのかなーって待ってたんだけど。ほらタブレットの履歴に色々残ってて……」

「…あー…それね、ゆんちゃん」

「えっ!?マジ!?だから最近来ねーのか、って…じゃあ名前は」

「先週ガールズデー終わりましたけど?」

「マジかよーー………、あーびっくりした」

「もしかして赤ちゃんいると思ってた?だから最近優しかったのー?」

「そーですよー悪いですかぁ」

「うふふ、かわいいねぇ」

恥ずかしそうに何だよと顔を逸らした銀ちゃんに抱きついて電車ごっこみたいにしてリビングまでついて行く。

「なーんだ。………あー、なーんだ、なーんだ」

「もしかして嬉しかった?」

「嬉しいだろそりゃ 」

「そっかぁ」

「…じゃあ最近できなかった分、励みますか」

「何を? 」

「なにってそりゃ愛を確かめないと」

「きゃ、」

ドサリとソファに押し倒されて唇が触れ合う。銀ちゃんはやたら長くキスしてくるようになった。なんていうかもう、口に出さなくても好きだよーって伝わってくるくらい優しくて甘いキスをする。あっちが満足する頃にはわたしはもう早く先に進みたくて仕方なくなってるほどだ。髪や頬を撫でながら延々と口腔内を愛撫されて舌の感覚がおかしくなってくる頃にようやく満足そうに笑う。

「ん、…っ銀ちゃん、…もう触って?」

「えーもうちょいキスしようぜ」

「も…しつこい、」

「褒め言葉だな」

しゃーねーなと唇を離して、ついでにソファにいるわたしからも離れて新しく作ったバーカウンターの椅子に座った。え、なんでそんな離れるの。何この距離。

「はいどーぞ」

「何がどーぞなの?」

「脱いで、触って。見せてごらん」

ニヤニヤしてる銀ちゃんに軽くイラつく。そっちから誘っておいてなにそれ。

「名前がゆんちゃんのこと黙ってたから誤解したんだろ?お詫びに俺のこと誘ってよ。めっちゃエロい感じで」

「ムカつくー!こっちきてよー!」

本当にこの男はこういう時に性格の歪みを感じる。言いなりになんてなってやるもんかと思うのに飴と鞭を上手く使いわけて毎回好きにされてしまうのがまたムカつくポイントだ。

「今のキスでパンツ濡れてんじゃねーの。早く見せてよ」

「…!〜〜〜!!」

言葉にならない憤りとほんの少しの興奮との間で揺れた後に座った状態でスカートをめくり僅かに脚を開く。あー本当、銀ちゃんの性癖に影響されてる。

「全然見えませーん。そんなんじゃ興奮できないんですけど。立つモンも立たねーよ」

キッチンに消えてすぐ戻ってきた男の手にはロックグラスにウイスキー。わたしの肌が酒のツマミということか。どこまでも上から目線な彼氏にもういいやと開き直るのに時間はかからない。お望み通り上下脱いで下着だけになる。

「赤のレース?もしかして最初からやる気満々だった? 」

「違いまーす。この間みんなで買いに行ったの」

「へー。てかちょっと胸おっきくなったんじゃね」

「誰かさんのお陰で」

「そいつのことめっちゃ褒めてやった方が良いんじゃない」

カラン、とロックグラスの氷が踊る。それを合図にわたし達は少しの間無言になった。空気が変わる。

「ブラ外して。パンツの上から触って 」

艶やかな瞳がわたしを見る。ウイスキーを舐める仕草の色っぽさに引きずられて手が勝手に動いた。床に落ちた服が視界の端にある。自分から服を脱いで離れたところにいる男を誘うなんて、馬鹿みたい。なのに身体は熱くなるし胸はドキドキしてる。

「どう?濡れてる?」

「…、っ」

「名前ちゃん?喋れないくらいいいの?自分で触るの」

「……ちょっとだけ濡れてる、」

「へー?もっと脚開いてくんなきゃわかんねぇ」

言われた通り脚を大きく開くとレースがあしらわれたそれの全体がはっきりと彼の目に映った、と思う。

「すげぇ濡れてね?色変わってるよ? 」

次に、脱いでと指示される。何をなんて言われるまでもない。もう脱ぐものはひとつしかない。腰を浮かせて裸になると銀ちゃんはウイスキーを口に含んでソファに近づいた。わたしの右手を取って人差し指と中指を口に入れお酒を絡ませる。舌が奉仕を彷彿とさせる動きをする。溢れたウイスキーがわたしの腕を伝って太腿に落ちた。

「はい、名前ちゃん」

至近距離で見られながら濡れた手を足の間に当てる。飲んでもないのに酔ってる気さえしてくる。軽く触っただけでくち、と水音がした。当然目の前の彼にも聞こえただろう。ゆるりと指先を這わしていると手を握られ、ぐっと奥に押された拍子に第一関節まで人差し指が埋まった。

「あ、!っ、」

「せっかく買ったソファ、もう汚れるね。革だから拭けばいっか」

ぐいぐいと押し付ける動きに従って自分の指が肉壁を割って奥へ進むのを二つの場所で感じて変な感覚。銀ちゃんが触ってるわけでもないのにぐしゃぐしゃにして、それを見られてる。

「よく見えるよ、名前の可愛いところ。……ほらここで指曲げてみ?」

「っあ、あ!や、なに 」

「わかる?ここ。名前の好きなとこ。次からは自分でやってもらうから覚えといて」

二度目なんてない、と言いたいところだけど喋る余裕もないほどに目の前でわたしの身体を舐めるように見つめる銀ちゃんのことしか考えられない。指は二本になり潤滑液を塗り付けた。絶頂が近いのに自分じゃどうすればいいかわからなくてもどかしい。

「ふ、っあ、銀ちゃ、イきたい、」

「んー?どうぞ?好きなだけいいよ」

「やだ、ちがう…っわかんないからぁ、」

「イかせて欲しいの?」

「そ、ぎんちゃんじゃなきゃだめ、な、あぁっや!」

「…ったくこんなエロい身体して自分でイけねーってどういうことよ?めっちゃ可愛いじゃん。ほら、イっていいよ」

「や、あ!あぁっ、ゃ、んっああっ…!」

いつの間にか指が外されて待ち望んでいた銀ちゃんの手によって簡単に果ててしまった。どうしてこの人の触る場所はどこもかしこも全部気持ちいいんだろう。好きな気持ちと快感って比例するのかな。息も整わないうちに当てがわれた熱い塊がズブズブと入ってくる、この瞬間に何故かいつも泣きたくなる。それはきっと彼が耳元でこう囁くからだ。

「名前、好きだよ」

「ん、んっ、ぎんちゃ、んっ…わ、たしも、すき…っ」

「はっ、やべー…ちょっと一回出させて。めっちゃイかせてあげるから」

「やぁっ!だ、め、そんなに、ぁあっ、あ!ん、っんん!」

押し寄せる激情とともに銀ちゃんの呼吸が速くなって身体がどんどん熱くなっていく。伸ばした腕の先にある首筋に浮かぶ汗でさえも好きだと思う。宣言した通り銀ちゃんは何度もわたしを高みに導いた。

「ぎん、ちゃ…好き…っ、ぁあ、ぁ、っ!」

「うん。名前、好きだよ…っ、」

こんなに好きになっていいの?もっと好きになって大丈夫なの?どこまで好きになれるんだろう。このままいくと5年後、10年後はどのくらい大きな気持ちになっちゃうの?それって怖くない?

「怖くねーよ、愛って言うんだぜそれ、知ってる?」

知らない、愛とかまだよくわからない。恋はそれなりにしたよ。今もしてる。でもさ、終わりが来るのが恋。愛はどこまで行ったら行き止まりになる?

「じゃあ二人で行ってみるかぁ、行き止まりがあんのかどうか。まだまだ長い人生なんだ。のんびり歩いてみようぜ」

そう囁き合いながら熱を貪り同時にてっぺんまで上り詰めた。言葉なんて脆いものだと思ってた。ずっと。それなのに裏切られたって何度でも人を信じてしまう馬鹿みたいなわたしと、それを好きだという目の前の銀髪。だけどもう疑わないよ。この人を信じるってことは、自分自身を信じるってことだと思うから。




title by 華
カリフォルニアレモネード:永遠の感謝
ワインクーラー:わたしを射止めて



back