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▽すき、それ以外、思いつかない



名前と連絡がつかなくなった。
何度スマホを鳴らしても繋がらない。それどころか電源が切られているようで電話すらかけられない。アパートに行ってみても誰もいない。真っ白な部屋がただぽつんと主人を待っているだけだった。廊下にある部屋のドアを開けるとそこには恐らく客からの贈り物であろうブランドの物のバッグやアクセサリーがずらりと並べられていた。以前『ここにある物は全部思い出なの』と言っていた。来なくなった客からの物も含まれているのだろう。ここにいるわけないか、と部屋を出ようとするとプライベート用の白いスマホが目に入った。手に取ると確かに名前がこの間まで使っていたものだ。何でこんなところに。

「…まさか」

思い出。全部終わったことにする気か?どうして?ついこの間初めて好きだと言って笑ってたのになぜ消えた?何かあったことは明らかだ。その場の気分でこんなことする女じゃない。客とのトラブルか?それにしてはプライベート用のスマホを置いていくのは不自然だ。

「マジでこのまま別れる気じゃねーだろうな…」

一番考えたくない可能性が頭をよぎる。もしここに元彼が迎えに来たらアイツはどうするだろう。何年も待ちわびた男だ。何もかも捨ててこの街を出て行ってしまうんじゃないだろうか。それにしたって何も言わずに消えるなんて、お前が一番傷ついたやつだろ、クソ馬鹿女。

「そんなに信用されてねーのかよ俺は」

腹立つ。その程度しか惚れさせられなかった自分に。好きだと言った言葉に浮ついてた自分に。






「銀ちゃんアンタ何したの」

「はい?何もしてませんけど。ってか何いきなり。ご注文は?」

「とりあえずモヒート。名前ちゃん急に連絡つかなくなっちゃったんだよ。この間タワーマンションに集まってから」

「タワーマンション?つーかゆんちゃんは?」

ライムを潰しながら聞き返すと珍しく一人で来たりぃちゃんが食い気味にカウンターに詰め寄る。ゆんちゃんは風邪だと言った。珍しいな。

「名前ちゃんの昔からのお客さんが彼女のためにタワマンの最上階一室借りてんの。そこで女子会したのよ。昼間だったけどすーごい良い眺めで金持ち気分になれて恋バナとかで盛り上がって…って話じゃなくて、あの日の夜に『考えたいことがあるのでしばらく連絡繋がらなくなります。ごめんね』ってLINEきて、それっきり」

そういえばピンク色のキーケースは客が借りてくれた部屋の鍵だと言っていた。まだこの街にいるならそこかもしれない。

「あれからもうひと月経つんだよ、さすがに心配で。あの日変わったことなんてなかったから余計に…銀ちゃんは何があったか知らないの?」

「…あー、実は俺も連絡繋がらなくなった。スマホはアパートに置いてあったよ。何も言わずに消えたならもしかしたらって思う話があってさ………」

こんなこと人に話すべきではないのかもしれないが、信頼できる彼女の友達として名前と出会う前にこの店で起きたことを話した。一緒に上京してきた男に捨てられて、でもずっと待っていた馬鹿で一途な女の話だ。もしそいつが改心して名前のことを迎えに来たのなら探さない方がいいんじゃないかと思ったことも。話を聞きながらモヒートを一気にぐびぐびと飲み干したりぃちゃんは見るからに怒っていた。

「なんで?なんで直接会って確かめないの?好きなんじゃないの?今の彼氏は銀ちゃんでしょ?本当に気がかりならお店に聞いてみればいいじゃん、タワマン行ってみりゃあいいじゃん。何をそんなに悠長にカクテル作ってんの」

おかわりと催促され提供する。二杯目も気持ちいいくらい秒で飲み干された。

「何をってそりゃあさ、約束すっぽかされたのに何年もあんな風にシャンパン眺めて健気に待ってたんだぜ?酒弱いくせにキャバ嬢やって真面目に働いてただけなのに男には置いていかれるわいつの間にかNo. 1になって担ぎ上げられて辞めるに辞めれなくなって。苦労してんだよあの子も」

注文されてもないのに手が勝手に三杯目のモヒートを作り始める。

「…それがなんの関係あるわけ?ねぇアンタ本当に銀ちゃん?仮にだよ?もし本当に元彼が彼女を迎えに来たとして、わたしたちや銀ちゃんに挨拶もなしに突然出て行くような子だと思う?……ねぇ、もしかして浮気してバレたなんてことないよね?」

「するわけねーだろうが。俺もまだ混乱してんだよ。なんで突然いなくなったのか」

「あの子…銀ちゃんと一緒に住みたいの?って聞いたら口でははっきり言わなかったけどすっごく幸せそうにしてた。あんな風に笑えるようになったのって銀ちゃんと付き合ってからでしょ?もっと自信持ってよ、彼氏でしょ」

「…おう、なんか目覚めてきたわ。明日にでもマンション行ってみる」

「銀時ぃー、ちょっとこれ見てくんない?この間のリフォーム案、お前の要望通り直して貰ったんだけど」

全く空気を読まないマスターが書類の束を持ってくる。三度目のモヒートをカウンターに置いてそれを受け取ると、ハッと目が覚めたように視界がクリアになる。ちょっと待てよ、

「…りぃちゃん、この間の女子会っていつ?タワマンの最寄りってどこ?」

「え?ここだけど……」

スマホのマップでタワーマンションの住所を出してもらい確認するとやっぱりそこは俺もあの日通った通りだった。もしかして俺はとんでもない勘違いをしていたんじゃねーか、

「元彼じゃないわ、俺だ。俺のせいだ」

ごめんマスターちょっと抜けさせて、と店を飛び出して名前が在籍するキャバクラに走った。めちゃくちゃ馬鹿だ、俺。きっと怖かったんだ。まさか名前に置いていかれるなんて思いもしなかった。あの部屋に俺を置きたいって言った日の夜、俺のことを真っ直ぐに見て、気持ちを受け入れてくれて本当に嬉しかった。でもずっと元彼の影がチラついてた。いつか、もしソイツが迎えに来たら行っちまうんじゃねーかって。俺のことよりもずっとずっと長い間想っていた男の存在。元彼のことを忘れろとか言っておいて気にしてたのは俺の方だ。だから嫉妬心丸出しでいつも余裕なくて身体ばっか求めて、愛想尽かされてもおかしくねーって、仕方ないって思おうとしたんだ。そもそもそんなこと思う方が間違いだったのに。名前は多分ずっと俺に向き合っていてくれていたのに。

「…退!」

店先に立っていたのは客を送り出した黒服の…名前が弟のように可愛がってる男。俺を見てぎょっとした。そりゃそうさ、仕事着で汗だくで息切らしまくってんだから。

「名前、いる?」

「今日は休みですけど。まぁ出勤してても『いないって言え』と本人から指示されてますけどね」

「…どこにいるか知ってるか?客のタワマン?」

「俺は名前さんの味方っすよ。あの人のこと泣かせる男なんて人間以下っすからね。アンタで二人目だ。どいつもこいつも…いい女なのに男運が悪すぎる」

コイツが名前のことを大事に思っているのが伝わってくる。本当に馬鹿だ俺は。気づくのが遅すぎる。

「本当に悪かった…ってお前に言っても意味ねーかもしれねぇけど、もう泣かせねぇ。約束する」

心の底から吐いた言葉だった。しばらくして退はでかいため息をついてポケットからスマホを出し『名前さん』と書かれた電話帳を開いて俺に手渡した。仕事用のスマホの番号だ。数回のコールのあとに出た名前の声は痛々しいくらいか細かった。

『……もしもし退くん?どうしたの?』

「名前、今から行くから話聞いてくれ」

突然聞こえた俺の声に声にならない悲鳴のような息遣いがあった。ごめん、会いに行くから。返事を待たずに通話を切った。

「あんなボロボロになりながら笑顔で働く姿もう二度と見たくないんで今回はアンタに任せます」

「サンキュー、退」

「呼び捨てにしないでくれます?俺はアンタのこと認めてないんで」

自分のスマホに名前の番号を打ち込もうとするとマスターから連絡が来ていた。話は聞いた、今日はこのまま上がってOK、りぃちゃんの分の酒はお前の奢りで給料から天引き。そしてこの借りは例の件で返せと。話がわかる上司を持ったもんだ。

そのタワマンはいかにも金持ちばかりが住んでそうな場所で外観からしてこんな格好の俺が一人で入れるような雰囲気じゃなかった。やべー、こんな汗だくで手ぶらの男なんかどう見ても不審者だろ。ロビーで速攻捕まりそうだ。エントランスにさえ入るのを躊躇っているとコツコツとヒールの音が近づいてきた。

「…名前」

「退くんが、銀ちゃん変なカッコしてるから怪しまれるって…」

……痩せた。顔色も良くない。今にも泣きそうに立っているその姿を見ただけでじわりと氷が溶けていくような感覚がした。連れ立ってエレベーターに乗り最上階の一室に通される。りぃちゃんが言っていた通りの絶景で、思わずうわと声が漏れた。ガラス張りの広すぎるリビングの真ん中にあるソファに腰を下ろす。

「歩いてきたの?なんか飲む?」

「いいよ」

名前もソファに来るかと思えばキッチンに向かい冷蔵庫から水を取り出そうとするのを駆け寄って止めた。おい何逃げてんだ。いや気持ちはわかる。わかりすぎてる。でもこっちを見てくれなきゃ謝れない。

「痩せたな」

「ご飯作るのめんどくさくて」

「スッピンなんだな」

「お休みだからね。もう寝るし」

「この部屋、一人じゃ広すぎるだろ?」

「だったらなに?」

さっきからずっと声が震えてる。名前の顔を見て、どんだけしんどい日々を送ってきたのか痛いくらいにわかった。

「お前ここで女子会した日、俺を見たんだろ。女と歩いてるの」

「………見たよ」

「浮気してると思った?」

「っ思ったよ…!くっついて歩いてて、仲良さそうで…お似合いだった、だからわたしもう、」

敢えて浮気という言葉を出すと振り向いて声を荒げた。瞳から涙がぽろぽろ溢れていた。力を込めて抱き締めるとやめてと暴れた。

「離して!銀ちゃんのこと、きらい、嘘つき、馬鹿…っ…酷いよ、酷いよ銀ちゃん…あんなに優しくして、好きって言ったくせに……っ離してよ…!」

「名前、ごめん」

「っ謝るなら好きにさせないで!もう…どうすればいいかわかんない……」

胸の中で暴れる細い身体を離さまいと抱き寄せる。何度も優しく名前を呼んで落ち着くのを待った。しゃくり上げながら言う言葉の一つひとつが胸を抉った。

「キャバ嬢みたいな軽い女に好かれて嫌になった……?なんにもできないから…?」

「嫌になんかなってるわけねーだろ。ずっとお前のことしか考えてねぇよ」

「じゃあなんで、」

「名前、聞いてくれ。もう少し形になるまで内緒にしてようと思ったんだけど」

ポケットから出した紙を開いて名前に見せてやる。まだちゃんとできてはいないが、新店舗の間取りとデザイン案が描かれている。

「マスターの知り合いがちっこいレストランやってたんだけど歳だからって畳むことになったんだ。その店舗の譲り先を探してて……俺の店を出すことになった。あの日は仕事前に内見に行ってただけ。一緒に歩いてた女は建築会社のリフォーム担当者」

ひとつひとつ理解しやすいように説明する。隠してたわけではなかったがどうせなら良いタイミングで言おうと思って温めていたのだ。それがこんな風に誤解を与えるならもっと早く言っておけばよかった。

「店長………銀ちゃんが………」

「外観とか内装好きにしていいって言われてんだけど良くわかんねーからデザイナー紹介してもらったりしてバタバタしてて。引き継ぎやら手続きやらで役所行ったりさ。だから名前と会う時間も減ってた」

ごめんなと言うと設計図を見ていた瞳からまた涙がぽろぽろ溢れる。

「わたし、このままじゃ銀ちゃんに置いていかれるんじゃないかって怖くて……逃げたの。銀ちゃんが浮気なんて耐えられなくて…忘れようとしてもダメで…離れても銀ちゃんのことばっかり考えて……」

「うん。ごめん。本当にごめん。誤解させちまったことも、一人にさせたことも、迎えにくるのが遅くなったことも全部、俺が悪かった」

「違う、銀ちゃんはなんにも悪くなかったのに…わたしが勝手に勘違いして傷ついて本当のこと聞けなかった。信じきれてなかったの…」

「しょーがねーよ。俺たちまだ付き合って一年ちょいだぜ?だからさ、少しずつ積み重ねていこう。好きも嫌いも不安も全部、ぜーんぶひっくるめて一緒にいよう。何があっても、万が一浮気かもしれないって思っても一人で泣くのだけは止めよう。話そう、全部」

「……うん、ごめんなさい…」

「もう謝んなよ。名前は悪くない。嫉妬してとは言ったけど一人で抱え込めなんて言ってないからな?全部俺に相談するの前提だからそこ忘れんなよ絶対に」

「うん……銀ちゃん、わたし…どうしても銀ちゃんだけは諦められない。離したくないよ。ずっとそばにいて、お願い…」

「言われなくてもそうする」

ひと月振りにキスをした。強く抱きしめあって離れていた分を取り戻したくて夢中で唇を重ねた。

「銀ちゃん、汗かいてる…。ここにいるってわかって仕事抜けて来てくれたの?」

「あ、くせーよな、ごめん。仕事は早退した感じになっちまった。シャワー借りていい?」

「うん。お湯溜めよう、せっかくだから」

連れられたバスルームはこれまた庶民には想像し得ない光景だった。

「ちょっと待って。何これ。なんで風呂なのにガラス張りなの!?なんでジャグジーなの!?シャワーも外から丸見えじゃんそういうプレイ用なの!?」

「最上階だから覗くような人もいないからねぇ」

「いや…見えてないとしてもこっちからは外の景色が見えちゃってるわけですげー緊張するんですけど。大丈夫これ通報されない?お前これ毎日使ってんの?」

「最初は恥ずかしいけどそのうち慣れるよ」

「いや…いやいやいや……」

「お湯溜めてる間に身体流しちゃったら?着替え用意して後で行くね」

マジかよ。とりあえずシャワー浴びるか…。これ見方変えたらその辺のラブホより全然エロくね?ガラス張りのシャワールームの向こうに更にガラス張りのジャグジーバス。外は一面に東京の夜景が広がっている。
…思えばこんな広い街で名前と会えたのってすげーことなんじゃね?バーテンダーと客という関係を飛び越えて今現在とんでもなく落ち着かない豪邸のバスルームでシャワー浴びてるなんてすごくね?

「銀ちゃーん、お湯溜まった?」

「おーそろそろいーよ」

「はあーい」

着替えとタオルを抱えて入ってきた名前も部屋着を脱ぎ始める。仕事明けはよく一緒に風呂入ってたっけ。狭い浴槽でねむいーとか疲れたーとか言いながら。この間までそうしていたのに遠い昔のように懐かしい。甘く痺れるような時間だった。

「…なんか照れるね」

久しぶりだから、と言いながらシャワー室に来た。ひやりとした身体をシャワーのお湯で温めていると、ぎゅっと腰に手を回して抱きついてきた。片手で身体を支えると浮き出た背骨に罪悪感を覚える。

「こんなに痩せちまって。明日からめっちゃ旨いもん作って太らせてやる」

「銀ちゃんはすこーし太った?」

「太っ……てはねーけど筋肉は落ちたな。新店舗の立ち上げの計画が進み始めて睡眠時間も減ってきたし食事もコンビニばっかになってた。名前がいなくなって仕事に集中しようと思ったけど空回りして色々ミスしたり失敗した」

「じゃあ、もう大丈夫だね。わたしも食欲出てきたよ。今からピザ食べたいくらい」

「お、いーねピザ。俺も腹減ったわ。何が好き?」

「マルゲリータ」

「お前それじゃ太れねーよ。明太子と餅乗ったやつとか照り焼きチーズ増し増しにしろ」

「銀ちゃんのカクテル飲みながら食べたいな」

「何でも作ってやるよ」

「エッグノック」

「ピザとエッグノックはやべーな秒でデブだわ」

「うふふ」

そろそろ入るか、とジャグジーに移動するとなんとも変な感じがした。そわそわする。すげーそわそわする。マジで外から見えてない?大丈夫?

「このジャグジーすげー。ラブホみたいじゃね?」

「すごく良い景色だよねぇ」

「あ、いま墓穴掘ったわ。俺とはラブホ行ったことねーじゃん。またつまんねー嫉妬しちゃうわ俺」

「初めて言うけどわたしラブホ行ったことない」

「えっマジで!?」

「嫉妬しちゃうなぁ、銀ちゃんいっぱい行ってそうだよねぇ」

「逆に墓穴掘ったわ。忘れてください」

「はあい」

くすくす笑うのは俺が好きなベビーフェイス。たくさん泣いて目元が赤くなったそこを撫でた。今なら、もう少し素直になれる気がする。

「…名前、俺さ、本当は元彼のところに行っちまったかと思ったんだ。遅れてごめんって突然現れて。仕事も俺も友達も全部捨てて田舎に帰ったんだって。名前が幸せになるんだったらもうそれで良いやって諦めようとしたんだ。だからお前のこと碌に探そうとしなかった」

「……銀ちゃん、」

「わかってる。殴ってくれていい。俺が言ったのにな、全部忘れて好きになってって。ごめん。本当は一番自信がなかったんだ。だからつまんない嫉妬して繋ぎ止めようとしてた。いなくなってからは名前のこと悪者にして諦めようとしてた」

格好悪い言い訳を最後まで聞いていた名前はふわりと笑った。

「そーいうのって、お互い様っていうのかな。わたしもね、銀ちゃんが浮気してわたしのこと捨てるのかなって思ったら少しだけ重ねちゃった。なんだあの人と一緒じゃん酷いよーって、いっぱい泣いた。だからね、おあいこ」

腕を伸ばして俺を引き寄せると優しく唇を合わせて、「仲直り」と笑った。舌を絡ませてもう一度。ぶくぶくと湧き出る水泡が二人の身体を包む。

「ん、」

「名前、こことベッド、どっちでしたい?」

「……どっちも… 」

「りょーかい 」

ぱしゃん、とお湯が跳ねた。

「離れてた分いっぱいキスさせて」

「うん」

抱き寄せて惜しげもなく晒された肌に隙間なく唇を当て胸を揉みながら手を太腿に這わせるとゆっくり足を開いた。キスをしながら秘部に持っていくとお湯だけではない水分がそこを満たしているのがわかる。ゆっくりと指を這わせそこを刺激すると唇を噛み締めた。

「ぅ、ん……っ…、」

「声我慢してんの?なんで?」

「響くから…あっ、やっ、!」

「逆に響いた方が興奮しねー?」

身体を浴槽から引き上げてへりに座らせる。名前の背にはガラスと絶景。俺は湯船に浸かったまま身を屈めた。

「あ、やだ、銀ちゃん」

「お湯ん中じゃ見えねーんだもん、ここ」

足を開かせて目の前に現れた場所に舌をつけると大きく身体を震わせて声を上げた。名前の声は甘く優しい。俺の髪を撫でる指に力が入る。一生懸命求めてしがみついてくるのが可愛くて嬉しくて、つい声を出して笑ってしまった。

「っ!?ちょっ、と、なんで笑うの!?信じらんなっ、あ!」

「ごめんごめん可愛くてつい」

「こういうときの銀ちゃんって本当に態度改めた方がいいとおもう……」

「へーどんな風に」

「一部始終すっごく優しくして終わる」

「それじゃ名前が物足りないと思うけど?」

「っぁ、待って、あぁ、んっ」

指を突き入れてかき混ぜてやれば反射的のようにきゅうと締めつける。何度しても感度のいい身体。

「こんな見た目も性格も…ナカも最高な女置いて誰が浮気するっつーんだよ」

「あぁっ、ぎんちゃ、っあ…!」

びくりと大きく身体を震わせて収縮する。指を引き抜いて舐めつつ名前を立たせてガラスに手をつかせた。

「ヤバイなこれ、すげー。誰かに見られてんじゃないの」

「…やだ恥ずかしい…もうここでお風呂入れない」

「って言ってすごいことになっちゃってるけど?」

見せてやろうと思い指でぬめりを掬おうとするとやめてよ、と腰を引いたのを追いかけて身体を密着させると、ちょっと待ってと言って振り返り俺と向き合った。

「ねぇ……さっきの言葉、訂正していい?」

「なに?」

「嫌いなんてうそ。…銀ちゃん、大好き」

「ちょ…不意打ち、」

名前に好きって言われたことは本当に数えるほどしかなくて、それも俺が言わせてるようなものだったからこうして本人から口をついて出た大好きという言葉に動揺した。

「あ、照れてる。意外とかわいいところあるんだね」

「はぁ〜……本当は余裕ある彼氏を演じたかったけどもういいわ」

「そんなの最初から無理でしょ。嫉妬深いし」

「やっぱ?はは、でもなんかもう吹っ切れたわ 」

「嫉妬するのもわたしのこと想ってるってわかるから…だからそういうところも全部好き」

「……名前、ベッド行こ」

「きゃあっ」

お姫様抱っこにして寝室に向かう。タオルを持っていくのも忘れずに。

「銀ちゃん?」

「ここだと名前の身体が誰かに見られてる感じがしてやだ」

「…うふふ、素直」

もうお互いに一人で悩んだり考えるのはもう止めにしようと約束した。次の月、名前は一人で住んでいたアパートを引き払った。




title by Rachel
モヒート:心の渇きを癒して


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