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▽ドレスを脱いだら秘密の時間


銀ちゃん、というのは最近できたわたしの彼……坂田銀時くんのあだ名である。この名前は実は彼があのボーイズバー『Caramel』で働き始めた二年前から知っていた。銀色の髪がライトに透けて綺麗で、銀ちゃんと呼ばれる響きがとても彼に似合っていた。ボトルの棚をぼうっと見ている時に視界に何度も入ってくるそれが不思議と嫌じゃなくて、触ってみたいなぁなんて思うこともあった。そんな風に他の男の人のことに関心を持ってしまったから『彼』は約束を破ったままいつまで経っても隣に座ってくれないのかな?あの日お客さんに告白されたから?悩んでるのに気が付かなかったから?……なんて、馬鹿みたいに思考が立ち行かなくなるのだ、あの人の影を思い出すと。
その度にお店に行って銀ちゃんとシャンパンを見比べた。泡が浮かび上がって溶けて消えていく様があの人の心のようで、苦しくて、でも目を逸らしたら夢を語ったあの頃の思い出も一緒にぱちぱちと弾けてしまうみたいで…だから代わりに飲みくだす。気泡のような淡い夢と残酷な裏切りを。

たぶんずっと恋だった。
ずっと好きでいて欲しい、それなら二人の夢を叶えなきゃ、だから頑張って働こう……そう、恋だけだった。人の心を繋ぎ止めるには一方的過ぎる恋心だった。荷物もろくに持たず身二つで田舎を飛び出してきたわたしたちは瞬く間に都会の海に飲み込まれた。夢を叶えなきゃ、成功しなきゃって…振り返れば笑えるくらいいっぱいいっぱいだった。そうしていつの間にか一人になった。わたしが追い詰めていた。思い返せば先のわからない不安を彼に何度か言ってしまったことがあった。

最後に彼が電話口で言った『今夜仕事が終わったら店で会おう』という言葉はまるで飼い主が忠犬を残して去る時にかける言葉のように優しかった。わたしは待った。やがて閉店時間を迎えた。具合いが悪くて休んだのかな?と思い彼と住む小さなアパートに戻るともうわたしの物以外の荷物はなかった。彼は帰って来なかった。次の日も、その次の日もアフターを断って仕事終わりに閉店まで待った。マスターが心配して言った。『何日も前から無断欠勤だ。携帯も解約されてる。飛んだんだよきっと。名前ちゃん、もう忘れよう』。そうして気づけば習慣のようにふとこの店に足を運んでしまう夜が続いた。なんて酷い話だろう。目を見てちゃんと突き放してくれないと、嫌いになれないのに。いつか帰ってくる…馬鹿みたいな願いを捨てられずそのアパートを引っ越すのに半年の時間を要した。

そんな抜け殻のようなわたしの目の前にいつのまにか立っていた銀ちゃんはつんけんしててとてもボーイズバーのバーテンダーには見えなかった。他の人はとても丁寧に接客してくれていたから余計にそう感じた。迷惑そうにわたしを見下ろしてシャンパンを注ぐ人。確かにバーでシャンパン一杯だけなんて迷惑もいいところだ。
でも徐々に距離が近づいていくとその苛立ちの理由がわかった。銀ちゃんは彼との約束を馬鹿みたいにぐずぐずと待ち続けるわたしに苛立っていたのだ。射抜くような赤い瞳が現実を見ろ、俺を見ろってずっと言ってた。気付きたくなくてグラスばっかり見てた。なのに、バーテンダーなんてもう好きになるつもりじゃなかったのにまた、信じてみたくなってしまった。銀ちゃんの作るカクテルが甘くて、ただひたすら…包みこむみように優しすぎて。


「名前、最近あの部屋使ってる?」

「うん、先週夜景見に行ったよ。それで相談なんだけど…今度女の子の友達を呼んでもいいかなぁ?すっごく綺麗だから見せたくて」

「ああいいよ。名前のための部屋だから好きに使って。週に一度はハウスキーパーを頼んであるから掃除しなくていいからね。なんなら住んでしまえばいい」

「ありがとう、素敵なお部屋だから汚さないように気をつけて使うね」

この中年の男性は大きな会社の社長さんで昔からの太客だ。田舎から出てきてすぐのぼやっとしたところを気に入ってくれたみたいで、もう何年も通っては娘みたいに扱ってくれるから心地良い関係だと感じていた。夜景が綺麗なタワーマンションの一室をわたしのためだけに借り上げてくれている。お客さんに部屋代を払って貰って良いマンションに住んでる子もいるけど、わたしにはそれができなかった。いつこの人がキャバクラ通いを辞めるか、わたしに飽きてしまうのか分からなくて住む場所を失うのが怖いから。とにかく自分から離れていくものに酷く怯えるようになってしまった。楽しかった、シャンパン入れてくれてありがとう、またね、気をつけてとお客さんを送り出す。店内に戻るときアルコールが回って足元がふらつくのを黒服の男の子がさり気なく支えてくれた。意外に滑るんだよね、この床。一度派手に転んだことがあるから酔ってる時は黒服達が目を光らせているのをわたしは知っている。お酒、強くなりたいなぁ。そうしたら銀ちゃんのカクテルももっとたくさん飲めるのに。

銀ちゃんと話している時、ふと怖いなぁと感じる瞬間がある。仕事の話をするときに『またバーテンダーの仕事の邪魔をするようなことを言ったらどうしよう』とか『過度に期待したような言葉をつい口にしてるんじゃないか』って意味のない考えが頭に浮かんで言葉がでなくなる時がある。何年も来ない人を待ったわたしの頭の中からは簡単には消えてくれない。同じ職業だとしても彼と銀ちゃんとは天と地ほどのキャリアの差がある。そもそも違う人間なんだから同じ関わり方なんてないはずなのに、銀ちゃんを失うのが怖い。わたし、もう好きになりすぎてる。

「…お店に行ったら怒られちゃうかなぁ」

もうすぐラスト。今日はアフターなし。フラフラしてるのを見て早めに上がれと言われて大人しく控え室に引っ込んだ。銀ちゃんの勤めるバーは朝方までやっているからまだまだ仕事中。一緒に帰るには何時間も待たないといけない。りぃちゃん達もいないだろうし。ひとりで帰るの、嫌だなあ。でも長く居座ったら邪魔になっちゃう。胸元の開いたドレスを脱いで通勤用のワンピースに着替えているとドア越しに黒服の声がする。

「名前さん、最近アフター少ないっすね。車空いてますけど送ります?」

「んー…………」

「はは、めっちゃ悩みますね。彼氏んとこっすか?」

「うーんー…でもあんまり頻繁に行くのもなぁって……うん…、送りお願いします」

「了解」

「あっ引っかかっちゃった、退くんごめんねちょっと手貸して」

このワンピースは可愛くて形も綺麗でお気に入りだけど背中のチャックが小さい上に引っかかりやすくていつも苦戦する。誰もいないから今のうちだ、と控え室のドアを少しだけ開けてそれを上げてもらうとまたかと苦笑された。

「家で脱ぎやすいようにちょっと下めにしといたんでどっか寄るなら気をつけてくださいよ」

「ありがとう、さすがだねぇ。お菓子あげようか?」

要りませんと言いながら車を手配してくれる。退くんとは付き合いが長いので弟みたいでつい甘えてしまう。
車に乗り込んでさっきのお客さんにメールを打ちつつドライバーさんとあそこのラーメン屋が旨いとか不味いとか話しながら家まで送ってもらった。眠気と酔いでフラフラしながら白いキーケースの鍵を使って入った部屋の中は真っ白な空間。綺麗にピンと張られたシーツを撫でる。この部屋で銀ちゃんと過ごす時間はあまりにも甘くて夢のようで…溶けないで、覚めないでと願う。いつも。







「…名前、おい名前。寝るな起きろ。そんな格好で寝ていーんですかぁ」

「…ぎ、んちゃん?」

「顔。落とさねーと10歳老けんだろ。30代になっちまうぞ。つーか帰るなら連絡しろよ。なんかあったかと思うだろうが」

銀ちゃんだ。仕事終わって寄ってくれたんだ。…あ、帰るって連絡するの忘れてた。お疲れさまと呟いて身体を起こす。外は薄らと明るくなっていた。

「ごめんー…シャワー浴びてくる、ぅえ、」

「弱いくせに飲んでんじゃねーよ」

「飲むのがしごとー…」

「待て待て待てここで脱ぐな、おい聞いてんの」

ぼーっとする。眠いしぐらぐらするし。あの人と話すのは楽しくていつの間にか飲み過ぎたみたい。それに昔から知ってるからなんかいろんなこと思い出しちゃって、それを払拭するためにグラスを傾けるペースが早かったかもしれない。それに銀ちゃんに連絡し忘れるなんて…反省。うぅ、視界がぐるぐる回る。背中のチャックに手が届かない。ていうか背中がどこかよくわからない。もうこのワンピース封印しようかな。

「銀ちゃん、背中、下ろしてください……」

「あーはいはい。…つーかもう割と下がってんだけど」

「それね退くんが脱ぎやすいように下にしとくって…若いのに気がきくよねぇ……っ!?」

だん、と寄り掛かっていた腕に突き飛ばされ床に落とされた。いたい。一気に頭がぐわんぐわんと大きく揺れる。なにこれ、なに、いったい、

「お前それ普通にやってんの?キャバ嬢って男に服着せて貰ってんの?なぁ?」

「ぎ、んっ、」

「聞いてんだけど」

冷たい目が床に寝転ぶわたしを見下ろしてワンピースを剥がされて下着だけになる。ああわたし失敗したんだ。気をつけていたってもう根本的にダメなのかもしれない。異性に肌を見せることをなんとも思わなくなってた。銀ちゃんは女遊びをしない。キャバクラにだって来たことないと思う。だめだ、こんなはしたない女。銀ちゃんに釣り合わない。

「っごめん銀ちゃん、」

「なにが」

「男の子に背中見せて……ごめん」

「もう一個あんだろ」

「銀ちゃんに連絡忘れてごめんなさ、あっ、ぁ、!」

「バッカじゃねーのお前。俺が嫉妬深いってわかってんだろ。それに煙草くせーし」

ぐりぐりと布越しに指を突き立てられてそれだけでじわじわと熱く濡れてしまう。どうしよう、怒ってる、頭が揺れて気持ち悪い、でも足の間は気持ち良くてよくわからなくなってくる。

「…なにこれ」

銀ちゃんが指したのは胸に付けられているシリコンのヌーブラ。外から帰ってきてお風呂も入らずに銀ちゃんの前で服を脱いだことはなかったから見るのは初めてだろう。

「おっぱい寄せてあげるやつ?すげぇくっきり谷間できてんじゃん」

興味があるのかふにふにとそれを弄り出す。ズボンをくつろげてわたしの上に馬乗りになるとシリコンでできたそれのフロントホックを外して既に形を作り始めているモノを胸の谷間に当てた。唾液をだらりと落としてそれごと乳房に擦り付ける。

「うっ、あ」

両胸を寄せてそれを隙間なく挟み込んでゆるゆると腰を動かす様はわたしの上で騎乗位をしているようで変な興奮を覚える。

「やわらけー。でもこれあると先っぽ触ってやれねぇな」

結局それを剥がしてポイッとその辺に投げて両胸の飾りを指先でいじる。その間も腰は動かされ上半身ばかり責められているのに下着がじわじわと濡れていくのがわかる。

「や、ぁ、っ銀ちゃ、今日はむり、あっ」

「いーよ寝てても。叩き起こすから。ほら扱いて」

谷間から引き上げてわたしに握らせる。熱を持つそれを上下に揺らすと先端からぬらりと透明な体液が滲み出る。そのうち足りなくなったのかわたしからどいてズボンと下着を脱いだ銀ちゃんはテーブルに腰を下ろした。『ちょうどいい』高さ。

「名前ちゃん、起きて」

人形のように抱えられて上体を起こし目の前に飛び込んでくる象徴を促されるままに口に含んだ。自分が何をしてるのかよくわからない。だけどもう無意識のうちに銀ちゃんの好きな動きをしてしまう。何度も教えられて気持ちいいところはわかっている。

「…そうそ、じょうず」

ふぅと熱い溜息を溢すのを頭の上で聞いた。あまり深く咥えると吐いてしまいそう。ただでさえ気持ち悪いのに普通彼女にこんなことさせる?ひどい、この人は嫉妬の塊だ。

「No. 1キャバ嬢にこんなヤラシイことさせてるなんて客に知れたらやべーだろうな。いや逆に見せてやりてーわ」

「ん、ん、っ、ふぅ」

「どこに欲しい?」

「…むぅ、っ!」

「早く言わねぇと喉の奥に出すよ」

頭をがっしりと固定されているのに喋れるわけがない。揺さぶられてもう意識が飛びそう。

「あー、出る」

グイッと頭を引かれて顔に生暖かいものがかかった。独特のつんとした匂いがぬるりと頬を滑る。

「うぁ、やだ、」

「やだじゃねーよ口の中に出さなかっただけいいだろ」

何かで雑に顔を拭かれた。酸素が足りない。床に寝転ぶと銀ちゃんはシャワーを浴びに行く…かと思えば冷蔵庫からペットボトルの水を持って戻ってきた。ぐびぐび飲んでわたしにも口移しで飲ませてくれる。

「くせぇ」

「銀ちゃんのだよ、バカ。くさいのはこっち」

「そういや化粧落としてない名前とヤんの初めてだな。これはこれで興奮するわ」

銀ちゃんはわたしのスッピンが好きだ。可愛い可愛いって何度も言う。ちょっと複雑だ。頑張って上品で綺麗な印象に見えるようにメイクしてるのに似合わないって言ったのはこの人が初めてだった。

「ふぅ、さーてと」

「シャワー浴びて寝る?」

「寝ませーん」

「へ、」

ずるりと腰を引き寄せられて嫌な予感がする。まさかまだやる気?

「挿れてからが本番だから」

「や、むり」

「無理じゃねー気合い入れろ」

いつの間にか半分固さを取り戻した銀ちゃんの中心のものが下着越しにぐっ、と押し入ろうとするけど当然ほんの少しだけ入り口に当たるだけでそれ以上は進まない。なのにそれを延々と繰り返すものだから吐き気とか目眩とかより勝るものが湧き出てくる。

「ぎん、も、挿れるならはやく」

「あっれー入んねーんだけど、おかしいなぁ」

ぐっ、ぐっと擦り付けられる下着が二人分の体液でぐしゃぐしゃに濡れていく。もう焦れて焦れて挿れて欲しくて腰が揺れる。なのに全然動かない。ずーっと。

「っ、もういや、バカ…っ」

「No. 1キャバ嬢の名前ちゃん、バカな銀さんに教えてくんね?どーしたら入るか」

くそ、バカ、まだ怒ってるんでしょ、本当しつこい男、頭の中で思いつく限りの悪態をついてゆっくりと手をそこに持っていく。すっかり色が変わってしまっているであろうレースの下着のクロッチ部分を少しずらすと、ぬるりとした感覚が指先に伝わった。

「うわすげー。まだ触ってもないのにこんなんなっちゃって。何もしなくても入るよな」

「ねぇもう…きらいになるよ」

「それはこっちの台詞だろーが。何男に着替え手伝わせてんの?下の名前で呼んじゃって、そんなに嫉妬させてどーしたいわけ」

くちりと直に合わされたお互いのそこはもう先に進みたくて仕方ないって訴えている。それなのにこんな状態で喧嘩なんていよいよ頭がおかしくなりそう。

「ごめんってば、あとでいっぱい謝るから、」

「なに」

「するならはやくして…吐きそう」

「萎えること言うんじゃねーよ。もっと可愛く言えないの?俺、化粧してる名前には優しくしたくなくなるみたいだわ」

焦れているのはお互い様なようで言い方に棘がある。こっちは眠いし気持ち悪いしその上顔にぶっかけられたのになんでこんな冷たい床に転がされて責められているんだっけ。ちょっとイラッとしてしまう。

「…退くんのことそんなに気になるならお店に来ればいいのに」

「ちっ、てめー覚えてろよ」

「きゃあ、ぁあっ!」

勢いよく突き立てられてビリッとした少しの痛みとともにやっとそれが奥に届いて全身が弾けたみたいに視界が白くなった。全部の神経が一点に集中して与えられる刺激を受け止め本能のままに身体が銀ちゃんを締めつける。

「っ慣らしてねぇからめっちゃ狭い、もうイけそ」

腰を掴んで激しく揺さぶる手のひらが熱くて、じんわり汗をかいているのだとわかった。薄ら目を開けるとわたしの上で眉を寄せて腰を動かしてる銀ちゃんがいた。意外にも筋肉質でそこが格好いい、喉が張り付きそうなくらい乾いて勝手に出る声が掠れてくる。身体全部が突き上げられてるみたいでもう苦しくて涙が出た。

「ぎんちゃ、ごめんねっ、うぁ、あ、っ」

黒服の子の名前をわざと出して店に来ればとか言ったこと怒ってる?可愛くない女でごめんね。嫌われちゃったかな、怖いな、銀ちゃん、居なくならないで。

「っ、わた、し、銀ちゃんにつりあうかっ…ぁ、ふあんだよ、」

「え?」

途切れ途切れで掠れた声が彼の耳に届いたのかはわからない。好きなように動かしていた腰が止まって、ぎゅうと抱き締められた。はぁ、とあがった息が胸にかかってくすぐったい。

「…名前、名前ちゃん、こっち見て」

恐る恐る顔を上げると鼻先が触れ合いそうなほど近くで目が合う。おでこをこつんと合わせてからちゅ、と本日初めてのキスが落とされた。

「ごめん。意地になりすぎた。俺が名前の仕事のことわかんねぇから余計に。どんな風に男と喋ってんのか想像するとマジでイラついて」

「ううん、わたしが考えなしだっただけ、銀ちゃん、きらいにならないで」

「なるわけねーじゃん今現在こんなにいちゃついてんのに」

「だってエッチしてるのにけんかしちゃった…」

「それもプレイのひとつってことで。はい仲直り」

「んぅ、」

優しく熱い舌が口の中に入ってくる。精いっぱい好きだよって気持ちを込めて舌を絡ませるとナカにある銀ちゃんがひくりと震える。それに反応してわたしの身体もきゅ、と動いた。

「こっからは優しくするからもうちょい付き合って?」

「そしたら一緒にお風呂?」

「当然」

「はやく入りたい、顔がくさいしカピカピする」

「てめ、イかせてやんねーぞ」

「ぅあっ、やっ、急にっあ、あっ!」

それからゆっくり丁寧に愛撫をやり直していつもより優しく抱いてくれたけれど何度目かの絶頂で意識が飛んで次に目が覚めるとメイクも落ちて全身綺麗にしてくれてあった。ゴミ箱には帰った時に着ていた通勤用のワンピースが丸まって捨てられていた。銀ちゃんが顔にかけてきたとき多分あれでわたしの顔を拭いたと思う。…うん、いいや。捨てちゃえ。

「…モスコミュールみたいだね」

けんかをしたらその日のうちに仲直りする関係。不安なことや嫌だなって思ったこと、我慢せずに言ってもいいんだ。壊れたり消えたりしない。この人ならきっと大丈夫。隣で眠る銀ちゃんのほっぺたにキスをして、起こさないように抱き締めてもう一度眠りについた。




title by モラトロジー




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