▽午前1時のシンデレラコール
「いらっしゃいませー……おう」
「ぎーんちゃん」
「お前、アフターないなら真っ直ぐ帰れよ」
「ひどーいせっかく久しぶりに寄れたのに」
帰れって言ってんのにまるっきり無視してカウンターに座る女はつい先日彼女になったかぶき町のNo. 1キャバ嬢。
高いヒールを鳴らしてふわりとワンピースを揺らし歩く姿は誰もが目を奪われるほど佳麗だ。小さなボーイズバーに似合わないこのキャバ嬢は数年前からの常連客で仕事帰りにたまにシャンパンを一杯だけ飲みに訪れる。
だがある日俺は知ってしまった。一見誰もが憧れる煌びやかな世界にいるこの女が誰よりも寂しがりで孤独だったことに。思い出に囚われて失うことを恐れ初めから何も持たずボトルを眺めては伏せる瞳に。そしてどういうわけかいつの間にやらその視線が欲しくなってしまった俺はなんやかんやあって奇跡的にこの子の存在を手に入れることができたのだ。まぁ詳しくは前の話を読んで欲しい。
「来た来た!名前ちゃーん、仕事お疲れさま!ねぇこの間教えてくれた化粧水買ってみたけどすっごい良かったよー!」
「りぃちゃんこんばんはー。良かったぁ、肌質似てるから合うと思ったんだぁ。因みに美容液のサンプルあるんだけど貰ってー」
「えー嬉しいありがとうー!今日から使うー!」
「ゆんちゃんにはバスソルト。これめっちゃ汗出るよ〜干からびるから気をつけてねマジで」
「きゃー名前ちゃんありがと!あのさこの間の彼氏との話の続き聞いてくれる?」
「もちろん!気になってたんだ〜」
「…おい姉ちゃん達、ここは居酒屋じゃねーんだよ。ボーイズバーだよボーイズバー。何イケメン差し置いて女子会開いちゃってんの」
「確かに銀ちゃん目的だけど名前ちゃんが来る日は特別なの、許してよー」
「そーよ銀ちゃんにはいつでも会えるけど名前ちゃんとはなかなか会えないんだから!」
「わかったからもーボックス席行ってくんない?」
名前が来ると毎回こうだ。俺と付き合いだしてから雰囲気ががらりと変わり職場ではますます人気を得ているらしい。一人でシャンパンを飲んでいた頃はとてもじゃないが話しかけられるような雰囲気じゃなかったのに数ヶ月のうちに女性客と仲良くなってうちで待ち合わせして女子会を開く始末。店の主旨が変わってきちまうだろうが。
「イケメンのお兄さん、一杯くださいな」
「はいはい」
名前が酒を頼む時は特別な要望がない限り俺が適当に作って出すようになった。付き合う時にシャンパン禁止令を出しているから仕事以外はシャンパンを頼むことはない。
楽しそうな女子達の会話を聞きながらシェイキングしていると名前がこちらを見て微笑んだ。俺の後ろに並んだボトルではなく俺を。
「お待たせしました」
「インペリアル・フィズ……うふふ、いいね」
「お前カクテル言葉わかんの?」
「少しね」
「ごゆっくり。帰りは絶対迎え呼べよ」
「はーい」
インペリアル・フィズのカクテル言葉は『楽しい会話』。ドリンクを持ってボックス席に移動した女の子三人は楽しそうに内緒話をしていた。くすくすと笑う名前の高い声が耳に届いてくすぐったい気持ちになる。
「口元緩んでるぞー銀時くん」
「お疲れさまでーすマスター」
「あーあーニヤニヤしちゃって。本当なら彼女を店に呼ぶなんてトラブルの元だからダメって言いたいところだけど…名前ちゃんは元々常連だしなぁ。元気になってホント良かったよ」
「いや呼んでねーよ、アイツが勝手に来るんすよ?」
名前を送って行ったあの夜が明けて次の出勤の時には『で!?どーだった!?うまく行ったんでしょ!?』とまるで自分の手柄のように破顔しながら聞いてきた。店の外で二人で話すきっかけを作ってくれたのはこの人なので報告すると自分のことのように喜んだ。目の前で男に置いていかれそいつをひとりぼっちで待っている名前を何年も見てきたんだから当然だ。そんなわけで俺と名前が付き合っていることは公認である。
「うそっ、そんな感じなの!?ゆんちゃん激しい…!」
「名前ちゃんのところはどうなの?絶対凄そうじゃん」
「え…、わたしは……」
名前がチラリと俺を見た。視線を受け止めると眉を寄せて逸らす。ん?どうした?こそこそ話してはきゃあと盛り上がるボックス席。ついこの間まで寂しそうにしていた彼女のあんなに楽しそうにしてる姿を見られるなんて考えられなかった。あー良かったな本当に。
*
「…ん、っあ…」
「で?ガールズトークの内容は?」
「やあっ!あ、あ…、…え…っと、ん」
化粧を落とした幼顔の彼女の足を開き頭を埋めながら息を吹きかける。細くはあるがあるべきところにほどよく肉がつき柔らかな曲線を描く身体全体を撫でつつ目の前にある敏感な場所を舌で刺激してやると甘ったるい声を漏らした。
「気になんじゃんあんな可愛い顔して。なに、彼氏に言えない系?」
「ああっ、あっ、や……っ!そこばっかり、っ」
溢れてくる蜜を掬ってぐちゅっと音を立てて指を滑らせるといやいやと首を振り両手で俺の髪を押し付ける。
「ゆ、ゆんちゃんが、彼氏とどんなエッチするかって…、ん、んっ」
「へーおもしろそー。ゆんちゃんのところは何て?」
「は……っ、全然イカせてくれなくて……お願いするまで焦らされちゃうって…言って、ん、」
「うちらと逆じゃん。名前ちゃんすぐイっちゃうもんねぇ。もしかして俺めっちゃ上手い?あ、待って昔の男とか思い出さないで」
「っああぁ、!イっちゃ、ぁ!」
考える暇を与えないように舌を蜜口にぴったりつけてじゅるると音を立てて吸い上げるとビクビク身体を震えさせてイった。熱くてエロい液体がまた奥からじゅくじゅくと溢れ出す。
「挿れてい?それとももう一回イっとく?」
「はぁっ、はっ、……も、挿れてぇ……」
力の入らない腰を支え片足を折り曲げてそそり勃つモノをさっきまで舐めていたそこに当てる。びくりと期待に震える身体にぬめりを擦り付けてぐっと奥に沈み込む。頬を上気させたベビーフェイスがキスをねだる。その唇を舐めてやりながら最奥まで入り込んだ。
「はー…ちっちゃい子犯してるみてー。ヤベェわ」
「銀ちゃんってへんた…あっ、動かないでっ」
序盤から飛ばして腰を上下に揺さぶる。下で嬌声をあげながら乱れる表情のエロさに釘付けになる。
「っく、名前がこんな身体持ってるとは想定外だったわ…すげぇよ、ナカ。どうなってんのコレ」
そんなに早い方ではないのに限界がめちゃくちゃ早足で見えてくる。この身体、俗に言う名器ってやつだと思う。具合いが良すぎる。
「…あー気持ちいい、イキそ」
垂直に腰を深く落としながら快感に目を閉じる。もー何時間でも挿れてたいわ。名前もまたきゅうきゅう締め付けてイキそうになっていた。動きを止めてずるりと引き抜く。
「ぁ、なんで…っ銀ちゃん、」
急に圧迫感がなくなりイけずに物足りない声で俺を呼ぶ身体をひっくり返して四つん這いにさせる。ガクガク震える足の間をかき分けて熱くうねるナカに再び挿れて腰を振った。
「んあぁ…っ!」
「バック好きだろ?気持ちい?」
耳元で囁いて首筋を舐め、手入れが行き届いた背中にキスを散らす。
「キスマーク付けてぇけど客に見せる身体だから我慢するわ。あー銀ちゃん嫉妬しちゃう」
「ん、ぁっ、やっ!あっ、はげ、しっ」
パンパンと肌がぶつかる音が響く。この体勢は名前の顔が見れなくて少々不満だがめちゃくちゃ気持ちいい。快感の逃げ場を失った細い指がシーツを握り今にも倒れ込みそうに震えている。同時に吸い込まれそうなほどうねるナカ。目の前がチカチカしてくる。あと数振りでイく、
「っ、もうちょっとしたい?ねぇもうちょっとしてもいい?抜いていい?」
振り切りたいのを抑えてまた動きを止めて勢いよくモノを抜いた。
「ゃっ銀ちゃ、っぎんちゃん、やだぁ…っ!」
焦らされて泣きそうな声を上げる名前の背中に覆いかぶさりながら後ろから手を回して俺のモノを咥えていたところにずっぷりと指を二本挿し入れて激しくかき混ぜつつ小さな突起を摘んで擦ってやると数回痙攣してくたりと布団に倒れ込んだ。
「残念。俺のでイキそうだったのになぁ、名前ちゃん。また指でイっちゃったね」
肩を大きく上下させて酸素を取りこもうとする身体をまたひっくり返して顔を見るとそれはそれは最高に出来上がった女がいた。
「かわいー…」
「も、しつこい、バカ……」
「ゆんちゃん達にもそう言った?うちの彼はドロドロにねちっこいエッチするんだよーって?」
「言った…すごくしつこいって。わざと音立てるし、んぅ」
胸の突起をいじって人差し指をナカに挿れてゆっくり抜き差しを繰り返す。物足りない刺激に眉が悩ましげにひそめられる。この顔は俺の好きな顔の一つだ。もっとぐちゃぐちゃに虐めてやりたくなる。
「名前がめちゃくちゃ濡れるからだろ。何これ、シーツの洗濯追いつかねーよ。次は風呂場でやるかぁ。つーかそろそろ挿れてい?」
返事を待たずズンと最奥を突くきながらすっかり俺の形に解けたナカの弱いところを擦り上げて熱を貪る。
「あっ待っ、て、やあぁ!あっ、ゃっん、ん!」
「次は絶対イくから安心していーよ。もちろん名前もイカせるけど」
同じ場所を何度も繰り返し突きながら親指で陰核を潰して引っかくと強制的に射精させられそうなほど締まる。これを初めてセックスした時に不意にやられて思いがけずイってしまった。マジでヤバい。あの時は落ち込んだ。
「ぎん、っぁあっ、あっん、ぎんちゃっイっちゃ、う!」
「っう、名前…!っは、ぁ」
もー無理。我慢したお陰でめちゃくちゃ気持ち良く絶頂を迎える。はぁはぁと息を整えながら余韻の海に漂っていると冷静になってきた頭が「やべー明日腰大丈夫かな」とムードをぶち壊すようなことを考える。それを打ち消すように名前の顔中にキスをして唇を甘噛みした。
「はぁ、めっちゃ気持ち良かったー。名前は?」
「……うん」
「うんってなんだうんって。あんだけ挿れてとかイクとか言って喘いでた癖に今頃恥ずかしがんなっつの」
「…あ……でんわ、」
ベッドの向こうのテーブルでピンク色のスマホが音を鳴らす。お店からかもと言うから取ってやると客の名前を呼ぶ。
「出てもいいぜ。その間指突っ込んでやるけど」
指先で足の間の雫を拾うと本気だと判断したのか少し考えてスマホをベッドの下に落とした。着信音はすぐに鳴り終わり今度はメッセージの着信がピロンと鳴って止まった。
「すごいしつこいエッチするし嫉妬するし束縛するし……銀ちゃんてば余裕ないのかなぁ」
「独り言にしてはデカくね」
「お風呂入りたい。全身ベタベタ…」
「そう言うと思って沸かしてありまーす」
「さすがパパ」
「パパじゃねーよ」
「でも立てないー…休憩…」
「俺も腰やべーからちょっと待って」
ちょっとどころか20分ほどベッドでごろごろして眠くなって来た名前を抱えて浴槽に沈む。
「あったけー……ねむ…」
「ねー銀ちゃん」
「んー?」
腕の中で目を閉じていた名前が俺の腕を撫でた。
「明日…ていうか今日、同伴あるから早く出るね」
「ん、わかった。名前、仕事楽しい?」
「うん。銀ちゃんは?」
「楽しいよ」
「そっかぁ。いいことだね」
俺たちはお互いに恋人がいる方が公私ともに上手くいく性格だと思う。ただ問題は嫉妬しやすい俺の彼女の職業がキャバ嬢ってだけで。名前はどうだろう。女と距離が近くて元彼と同じ店で働くバーテンダーの俺をどう思っているんだろう。『バーテンダーとは付き合わない』と言っていた彼女は今、最も付き合いたくないであろう職業の男を彼氏にしている。
「銀ちゃん置いてよかった」
「部屋に?」
「そう。一家に一台」
「身が持たねぇよ」
「だから、わたしといてくれてありがとう」
「おー」
濡れた髪にキスしてやると指と指を絡ませてぎゅっと握った。
title by 甘い朝に沈む