近くの岩の影。
そこを覗くと、美しい深い藍色が見えた。

「………あ、」

水の中に半ば沈み、海面に揺らぐ美しい藍色。それは人と同じ髪の毛というやつで、しかしこれまで生きていてこれほど美しい髪色は目にしたことがなかった。
自然と息がつまり、口から微かな音が漏れる。外の寒さに白くなった小さな息が漏れると同時、胸の中で記憶が更に蘇る。
あの時の、後ろから包み込まれた感覚。背後のその正体も自分と似通ったような体格だった、その時はまさか妹が…!?というありえない連想をしたものだけど、とにかく縋った記憶がある。
あれからずっと考えていた。あれは、あの時のぬくもりは一体。助かってから両親に尋ねても、両親が気が付いたときには、自分は砂浜に倒れていたのだという。
だから誰が助けてくれたのかは今でも分っていなくて、でも、もしかして。ずっと考えて考えて、結果出てきたのはお伽噺のような想像だった。

「……ねぇ」

もし、その想像があっているなら。

「!?」

この藍色の彼女が、自分を助けてくれたのかもしれない。
自分の声に驚いて振り返った藍色の彼女は、酷く驚いたようにこちらを振り返っていた。

(大丈夫?すぐ、助けてあげるからっ)

そんな遠い昔の記憶が、よみがえる。



―――ああ、やっとみつけた。



そんな感慨が、胸の中に満たされていた。
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