真っ白なページが半分以上を占める十数枚に及ぶプリント。
それをパラパラと捲り、そっと部屋の壁にかけてあるカレンダーを眺める。八月後半。
つまりあかりの夏休み課題は、ほぼ八割がた終わっていなかった。あと一週間もないうちに二学期だというのに、だ。
それを見て取ったあかりは、まだ真上には達していない太陽の下自転車で家を飛び出した。勿論なまはげ面はいつも通りである。

「あかりちゃん、気をつけてね〜!水分しっかり取るのよ〜!」

後ろから聞こえてくる下宿先の奥さんの声に、おおきな声で行ってきます!と返し早速流れてくる汗もそのまま全力でペダルを漕いだ。
向かう先は勿論、指導会で副会長を務める行方のもとだ。普段からあかりを叱りつけつつ仕事を熟す行方は、見た目のだらしなさと違って頭が良い。教えるのもうまい。スパルタなのがたまに傷だが。
行方の事情など知ったこっちゃない、確か夏休みは特に用事がないと言っていたはずだ。今はお盆でもないからお墓参りもないだろうし。
だからあかりは、行方に課題を手伝ってもらおうと、全力で自転車をこいでいた。
行方の家に、押し掛けるために。
もはや見慣れた行方の家の邪魔にならないところに自転車を置き、インターフォンを押す。よくこれでピンポンダッシュして遊んだものである。

『…はい?』

「あっかりだよー!!開けた開けた!!」

非常に不機嫌そうな声、行方だ。両親はやはり不在らしい。そこに元気な声で話しかけると、通話をぶ千切られた。
ひどーい、と一人呟いておくがまぁいつものことである、慣れたものだ。
暫くしてドアが開いた。

「…なんの用、大した用事じゃないんでしょじゃあね」

「待ってよ行方、どうせ予定ないんでしょ?会長を救って!!!!!!」

「……はぁ。…そろそろ来ると思ってたよ、ばーか」

一人で自己完結してドアを閉めようとするところに割り込み、ぐぎぎぎぎと中に滑り込んだ。
ふわっとエアコンの冷気が廊下で開いたドアから漂ってくる。
救って!!!と表情がありもしないなまはげ面で縋ってくるあかりに、行方は毎年のことだと諦め、奥に招いた。
そこはリビングで、大きめのローテーブルが置いてある。そこには既にお茶とお菓子が用意されていて、やっぱり入れてくれる気満々じゃんと行方を揶揄したら、これは私と弟のだと返された。因みに弟は遊びに出ていて夕方まで帰ってこない。
そのローテーブルに座り、課題を見せると深い深いため息を吐かれた。

「…あんたねぇ…もっと計画性ってものを…まぁいい、もう言っても無駄か」

「私に計画性があったらもっと仕事出来るよ?」

「そうね。ハイじゃあまず数学からいくよ」

ほとんど真っ白の課題たち。まずその氷山の大きな一角であり、あかりの苦手分野から取り組むこととなった。
それを休憩やお昼を挟みつつ続けて夕方。行方はスパルタです本当に。私多分褒められて育つ子。
その後はこの数日の予定を立て、そのペースでいけば二学期までに終わらせられるとのこと。
いや、終わらせる。と行方は暗い目をして呟いていた。

そんな目をみつつ、あかりは課題なんてなくなればいいのに。と小さな恨みを胸の内で呟いていた。

そんな、八月後半のある日。

prev next
back