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わたしの言葉は呪いだ。例えるなら眠れる森の王女に出てきた13番目の魔女のように、呟く傍からそれは呪いになって相手にふりかかっている気がする。あんな事言いたかったわけじゃないのについつい口を突いて言葉が飛び出してしまうのだ。親友のリリーは天邪鬼なところだって可愛いわなんて言ってくれたけど、リリーは女神のように心が広いからで、みんなはきっとそう思ってないんだろうなあ直さないとなあ。ぐるぐるぐるぐる考えがめぐってお腹の真ん中のあたりがずしんと重くなる。ガタガタと食事を終えて席を立っていく周りの音さえ耳について不愉快だ。

「おい、もうお前の皿の中ぐっちゃぐちゃになってんぞ」

考え事をしながらミルクをかけたシリアルをスプーンでぐるぐるかき回していたわたしの隣から、透けるような灰色の瞳が覗き込んでいた。はっとして顔をあげると、正面に座っていたはずリリーのお皿の上はすでに綺麗になっていて、そういえばわたしは空き時間だけど彼女は1限から授業だって言ってた気もするなあ。

「………なんでまだ居るの?」
「1時間目空きだからお前がずっと馬鹿みたいにぐるぐる掻き混ぜてるの面白くてずっと見てたけど、流石にここまでくると見てて気持ち悪い」
「あ、悪趣味な…!しかも人がまだ食べようとしてるのに気持ち悪いとか言わないでよばか!」
「馬鹿はお前だろ。さっさとそのぐちゃぐちゃしてるやつ食っちまえよ」
「うるさいなあ言われなくても食べますし!」

ふにゃふにゃになってしまったシリアルを慌てて口に含むと何だか不思議な食感が口いっぱいに広がって、それが顔に出てしまったのかシリウスがまた意地悪そうに口角を上げて笑う。わたしは彼のこの表情がすごくすごく苦手なのだ

「ぜっ、ぜんっぜん大丈夫だよなんか不思議な食感だけどすごく顎に優しい気がする!」
「はあ?何が大丈夫なんだよ、お前顎弱いのか」

何を言っても文句ばっかりなシリウスは放っておいて、わたしはお皿に残っているシリアルを食べ切ってしまおうと急いでスプーンを進めていた。なんだかしばらくシリアルは見たくないから、明日からの朝ごはんはトーストとポーチドエッグだけにしてしまおうと思う

「あれ、そう言えばシリウスは今の時間授業ないの?」
「……お前さっきの俺の話聞いてた?空き時間なんだよ」

顔立ちが綺麗な人というのはどんな表情をしても何となく威圧感があるなあ、と思う。シリウスの整った眉とかすっと通った鼻筋が中心に寄って不機嫌さを示している。それでもみているわたしにそこまで不快感を与えないのは彼の持って生まれた美しさのせいなんだろうなあと思いながら適当にごめんね、とだけ返しておいた。早くこのぐちゃぐちゃシリアルを食べてレポートの続きをやってしまいたい
昨日は夜遅くまでリリーに手伝ってもらったのだけど、わたしの頭の回転が悪いせいでまだ終っていないのだ。リリーが1時間目を終えて戻ってくるまでに終らせて安心させたいなあ。それにしてもこのシリアル残したらダメかなあ

「お前っていつも何考えてんの?」
「は?」
「いや、いつもぼーっとしてるのかと思ってたけどそうでもないみたいだし。俺が目の前に居るのにそっちのけで考える事だからよほど楽しい事か大きい悩み事なのか知らないけど」

にっこり
シリウスの血色のいい薄い唇がゆったりとした弧を描く。さっきからわたしの意識がシリアルやレポートに向いていたのがそんなに気に食わなかったのか 綺麗な笑顔はすごく嘘っぽかった

「いつもみんなに注目されてるんだから今くらい1人の時間を堪能してもらおうかと思って?」
「(疑問系…)絶対そんな事思ってないだろお前。ただ単に興味ないだけじゃねーの?」
「まあとくにシリウスさんについて知りたい事はないです」
「……………」
「(うわあ恐いお顔)」

さっきよりもずうっと不快感を露にしたシリウスにどうしたものかなあ、と思うけどまあいいかと自己完結して再びシリアルを消化してしまう作業に戻る。これ美味しくないというよりちょっと気持ち悪いしなんか食べても食べても全然減ってないような気がする。牛乳を吸ってどんどん膨張してるんじゃないのこれ。

「…………(どうしよう)」
「お前って全然喋らないくせにすぐ顔に出るよな」
「……そう、かなあ?」
「すっげー不味いって顔してるぜ。無理すると腹壊すからもう残しちまえよそれ」

机の上に片肘をついて、その上に顎を乗せてこっちを見てくるシリウスの口元は大きな手に隠れてしまって見えないけれど雰囲気が柔らかいので笑っているんだろうと思う。
シリウスのゆるく細められた灰色の瞳がすごく綺麗でぼんやり見つめていたら、シリウスの手が伸びてきてわたしの口元を親指でなぞる

「アホ面、口開いてるぞ」
「…あ」
「なに名前、俺に見惚れてたの?」

そう言って意地悪く笑うシリウスはやっぱり綺麗で、わたしは彼のこの表情が大嫌いだったはずなのにゆるゆると顔に熱が集まってくるのを感じてどうすることもできなかったのである

もうやだうばわないでほしかった


「ナルシストうざいです」
「………(コイツほんと可愛くないな)」 





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