text | ナノ
レギュラス・ブラックは美人さんである。切れ長の瞳を縁取る睫毛は長くってビューラーなんか使わなくったってしゃんと上を向いている。彼の綺麗な顔の真ん中を通る鼻筋もすらっとしていて唇は薄くて上品で、肌は白くて肌理が細かくて、もう申し分なく美人さんなのである。容姿の面だけで充分人より恵まれているのに、頭脳明晰、そしてお家は永く続く名家ときた完璧に現代を生きる王子さまなのである。ちなみにどうして急にこんなことを言っているのかといえば、その王子さまはわたしの彼氏で、わたしの彼氏なのに周りの女の子が放っておかないのでわたしはいつもやきもきしているのである。
「そう、わたしはやきもきしているのだよ!!」
「そんなこと俺に言われても。てゆーかお前飯食わなくていいのか?俺すっごい腹減ってるんだけど」
「こんなんじゃかぼちゃジュースも喉を通らないよばか!何とかしてよレギュラスのお兄ちゃんでしょ!」
「(もうやだコイツほんとにめんどくさい。)」
わたしだって本当だったらレギュラスといっしょにご飯を食べに行くつもりだったのだけど、レギュラスはわたしと大広間に向かう途中、可愛い女の子に呼び出されてどこかへ行ってしまったのである。可愛い女の子の勝ち誇った顔と言ったら。顔と言ったら!
「い、いくら相手の女の子が可愛いからって彼女を置いて着いて行かないよね普通」
「あー…兄の俺が言うのもなんだけど、あいつ義理がたいっていうか律義だからな……」
「そうなんだよレギュラスって表情が乏しいから勘違いされがちだけどすごく優しいじゃないそれはいいと思うんだよわたしレギュラスのそういうとこも全部ひっくるめてだいすきだしほんとに魅力的だと思うけどだけどやっぱりわたしはレギュラスの、かっ彼女だから、レギュラスの一番になりたいんだけどでもこんなわがまま言って鬱陶しく思われたくないし、でもそれでもやっぱり一番になりたくてぐるぐるしてわたしこのままじゃストレスで死んじゃうかもしれない!」
そう言ってわたしが下を向いていると、シリウスは頭をなでてくれた。やっぱり日頃から周りに女の子を切らさない男はいろいろと分かっているんだなあ
「……お前いま失礼なこと考えてたろ」
「いやぜんぜん」
「全部声に出てたぞ」
「エッ」
「まあ嘘だけど」
シリウスは未だにわたしの頭を撫でながら、「素直にそう言っちまえば良いじゃねえか」と呟いた。そんな簡単な問題じゃないのだよシリウスくん!
「……二人で何してるんですか」
「おっ、レギュラスじゃねーか。モテる男は辛いよなー」
「名前、遅くなってすみません。早くしないとご飯食べ逃しますよ。」
「えっあっうん!レギュラスおかえりなさい!」
「(お兄ちゃんはかなしい)」
シリウスを無視したまま、レギュラスはわたしの腕を引いて静かな廊下を進んで行く。誰も居ない廊下は本当に静かで、わたしはぼんやりレギュラスの後ろ姿だけを見ていた
「…………名前、」
「(レギュラスって後頭部まんまるなんだなあ可愛いなあ)」
「名前、聞いてます?」
「ぎゃっごめんなさいぼーっとしてた!!」
レギュラスは呆れたようにため息を吐いてわたしの手を優しく引いてくれた。紳士だなあカッコイイなあと思っているとちょっと拗ねたような目をしたレギュラスがわたしの顔を覗き込んできた
「僕は名前のこと、大切だし世界で一番可愛いと思ってます」
「う、うん(この人なんで急にこんな恥ずかしいこと言ってるんだろ)」
「でも大切で可愛いからこそ、たまに妬いて欲しくて気が引きたくってどうしようもない意地悪しちゃうんです」
我ながら性格が悪いですよね?なんて言ってレギュラスがあんまり綺麗に笑うので、わたしは言葉の内容に頭が追いつかないままどきどきしてどうしようもなくなってしまうのであった
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