まい・りとる・がーる
お兄ちゃん、よそ見しちゃだめだよ? と甘ったるい声で袖を引っ張って来たのは、最近アスタにできたかわいい妹分だ。
かわいい妹分であるラティアスのティアには実の兄がいる。今日はその兄へ贈るプレゼントを選びたいということで、一緒に出掛けにきている。
「何がいいのかなあ。お兄ちゃんなら何が嬉しい?」
「んー、かわいい妹からなら何でも嬉しいよ」
「それじゃ参考にならないよー」
かわいらしい雰囲気の雑貨屋に入る。これが二軒目で、先ほどのお店より小ぢんまりとしている。
「このマグカップかわいい! ね、見てみてお兄ちゃん!」
「かわいいね。お揃いにする?」
「お兄ちゃんと?」
「この間、割っちゃったんだよね。ユキちゃんに怒られた」
うん、とティアは嬉しそうに笑った。論点のズレを指摘するツッコミ役はこの場には存在していない。青のカップと赤のカップ。ちょうど彼らのイメージカラーにぴったりあう。三角形と、ところどころ星がちりばめられた柄で、天体観測好きなアスタにはぴったりと言えるようなものだった。
「他に良さそうなものないし、これだけお会計してくるね」
レジに向かって歩く彼女の手からひょい、とマグカップを取る。アスタは穏やかな笑みを浮かべており、その意図はよく分からない。
「え、お兄ちゃん?」
「買って来るよ。お兄ちゃんだからね」
アスタお得意のお兄ちゃん論法である。意味を聞いたところで分かりやすい解説がもらえるわけでもなく、甘えておくのが正解だろう。
「でも、今日も付き合ってもらってるのに」
「うん。かわいい妹とのデートだからね」
アスタの言葉に深い意味はない。二人で出歩いてる言葉として咄嗟に出てきただけである。
「お兄ちゃん……」
ティアはアスタの背中に抱きついた。
「こらこら、お店の中だよ」
と言いつつ、剥がす気はないようだ。気にせずに歩き続ける。
「またデートしてくれる?」
「もちろん」
「ありがとう」
彼女の喜びに染まった顔をアスタは見られなかった。会計をしながら、店員からかわいい彼女ですね、と言われてにこにこと笑みを浮かべていた。
実の兄へのプレゼントを買い忘れたことに気付いたのは、解散直前のことであり、また一緒に出掛けることになった。
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