きっと君を迎えにいくさ




 アブソルは自然の変化に対して敏感に察知する能力を持つ。ユキも例外ではなく、彼もまた天候の変化を感じ取ることに長けている。このアブソル独特の能力は言葉にしようにも難しいため、ユキは勘で片付けている。空は晴れているが、雨のにおいがする。急に感じ取ったこれはにわか雨として降るだろう。

「……ギンガ、傘持って行ってないな……」

 朝、元気よく遊びに飛び出していった孫……とは言いたくないが年齢差的には孫になってしまう旅の仲間は、炎タイプで雨も苦手なはずなのだが、折り畳み傘を持つ癖もついていない。やれやれ、と傘を二本持ってユキは立ち上がった。手のかかる孫……いや仲間だ。
 宿泊施設を一歩出ると、ぽつりと靴に雨粒が一つ。やはり当たった。勘が当たると嬉しくなる。誰にも指摘されたことはないが、勘が当たると僅かに口角が上がる。ユキ自身も無意識である。ギンガの居場所は大体分かる。これまた勘――こちらは生まれ持った能力ではなく付き合いによって予測できるようになったを頼りに歩き出す。雨が一気に強くなった。これでは、傘を持って行っても意味はないかもしれない。

「あ」

 いた。ギンガだ。公園にある大きな木の下で雨宿りをしている。しかし、その姿は何故か泥まみれである。何があった。目を離した隙に何かやらかす孫……仲間である。今回も何かやらかしたのだろう。はあ、ユキは一人ため息をついた。何故こうも落ち着きがないのか。

「ギンガ」
「あっ! ユキちゃん!!」
「ユキちゃんと呼ぶな!!」

 もはや口癖である。少々かわいらしい名前を持ってしまったが故にちゃん付けされるのは心外なことだ。年より若い見た目も関係しているだろうか。ちゃん付けされるのも年寄り扱いされるのも微妙な気分になる昨今。いや、でも、自分の周りでは自分が最年長だ。でも、まだお爺ちゃんと呼ばれるほどの年でもないはずだ。目の前に孫みたいに若い子がいたとしても。複雑なお年頃を迎えている。しかし、おっさん扱いも遺憾だ。
 ごめん! と毎回謝りはするものの、ギンガは毎回ユキちゃん呼びである。ユキはめげずに訂正し続ける。

「どうした、その格好は」
「木登りしてたら雨降って来て、降りようとしたら滑って落ちた!」

 急激に強くなった雨だ。木の皮が滑りやすくなったのにも時間はかからないだろう。理解はできるが、納得するかと言ったらまた別だ。ユキは呆れ顔になった。

「お前はもう少し年相応の振る舞いをしろ」

 戻って風呂に入れ。そう言いながら、自分がさしていないもう一本の傘をギンガに差し出した。

「サンキューユキちゃん!!」
「だから、ユキちゃんとは呼ぶなと、さっきも言っただろう!!」

 しかも、傘を受け取る時に泥まみれのギンガの手が触れた。ユキが顔をしかめた理由は主にそちらなのだが、ギンガは知る由もない。


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