ピピピと一定のリズムの電子音で目が覚める。
陽射しが眩しくて目を擦りながら身体を起こした。
昨日、夜遅くまで本を読んでいたから、まだ眠い。



『学校…サボろうかな…』

「そんなのダメに決まってるでしょ」

『……』

「おはよう、目、覚めてるかい」

『……おはよう、恭兄。分かってる。サボらないから…』

「ならいいけど…。でも、学校に由夜を行かせるのが心配だよ」

『え……?』

「飢えた草食動物が由夜を狙ってるしれない」

『は…?』



パジャマのまま現れたのは私の兄の雲雀恭弥、並盛の風紀委員長だ。

今からでも並盛に転校しなよ、と付け足す恭兄は過保護すぎる。
中学に入学したというのに私はいつまでも子ども扱い。



『…相手にしないから平気。』

「由夜が相手にしなければいいって問題じゃない」

『……?』

「いいかい、由夜。草食動物といえど獣だ。特に男はー…」

『恭兄、そろそろ用意しないと遅れるんじゃない?』

「……そうだね、ゆっくりしてられない」

『本当に大丈夫だから心配しないで……、ね?』

「……あぁ。何かあったらすぐ僕に言うんだよ。」



そいつら全員、咬み殺すからと口角を上げる恭兄。
心配症な所とこういう犯罪的発言がなければ良い兄なのに。

そもそも私が並盛中ではなく黒曜中に進学したのは兄と少し距離をあけたかったためだ。

だけど黒曜中に進学したのは大失敗だった。
恭兄といる時間が大幅に減ったせいか私への執着が増してしまったから。



「それじゃ、由夜、行ってくるよ」

『うん、いってらっしゃい…』

「由夜」

『ん…?』



玄関で送り出す私をじぃっと見つめる恭兄。
サラリと髪を撫でられたかと思ったら頬にキスをされた。



『…何でキスするのよ』

「行ってきます、のキス。」

『………』

「いいでしょ、別に。昔はもっと…」

『それ以上、言うなら咬み殺してあげる』

「…行ってくるよ」



不満そうな拗ねた口調の恭兄。
だけど、時間がなかったからか珍しく素直に並盛中へ向かった。

玄関でポツリと残された私はため息まじりに呟く。



『何で、あんなに独占欲が強いのかな…』



恭兄の私に対する感情は家族愛ではないと思う。
思い過ごしかもしれない、だけど私の感は当たるだろう。

恭兄は私を一人の女として見ている。
だって、頬にされたキスも触れ方、独占欲も妹扱いじゃない。

だけど、私にとって兄は兄だ。



『恭兄の想いには応えられないよ…』



ふと、胸が苦しくなり頬を伝うものに気づいた。
雲雀恭弥は大切。だって家族だから。
兄と妹、いつまでも一緒に居れる訳がない。

それに私だって普通に恋がしたい。
だけど、この願いは今までのように兄と一緒にいたら未来永劫、叶わない。

だから、私は黒曜中へと入学した。
そして私は黒曜中で運命の人、六道骸に出会えた。



『…初めて、こんな気持ち』



さらさらした藍色の髪。
まるで宝石みたいなオッドアイの瞳。
私を呼ぶ優しい声。

いつも素直になれなくて可愛いことも言えないのに、骸は可愛いですよって撫でてくれる。

出会って間もないのに、こんなに好きになってる。



『あ……、私も早く行かなきゃ…』



私に芽生えた恋心、誰にも内緒の想い。

ねぇ、骸。
今日は私、素直になれるかな?



『……おはよう、って言えたらいいな』



おはように込める、私の想い。
私の秘密の恋。












END



「…と、まぁ、こんな感じです」

「こ、こんな感じって何がれすか…?」

「ですから、僕らが朝食をとっている今頃、雲雀家では、このようなやり取り(上参照)が行われてるに違いありません」

「………」

「……」

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