私は今日もボンゴレファミリーのアジトをあっちこっち移動する。 お昼寝したくなっちゃうほど天気がいい午後だけど、のんびりしていられない。 非戦闘員である私でもボンゴレでする仕事はたくさん。 ボスであり私の恋人であるツナにリボーンさんからの手紙を届ける途中、私は他の守護者からも用事を頼まれてしまった。 早くツナに手紙を届けないといけないけど、頼まれては断るなんて出来ない。 「おい、名前、この書類を芝生頭に渡しておいてくれ」 『了解!』 「あ…、名前、ついでに六道の奴にも資料を渡しておいてくれるか?」 『はーい!』 獄寺君と山本君に頼まれた書類と資料の配達。 まずは笹川先輩の元へ向かう。 笹川先輩は自分の執務室にいて、すぐに見つかったから挨拶もそこそこにして後にした。 次は骸さん。 骸さんに資料を渡しに行くと仕事を一区切りして休憩していた。 私の気配に気がつくと笑って出迎えてくれる。 『お疲れ様です、骸さん!これ、山本君から預かった書類です!』 「おや?ありがとうございます。君も毎日、大変ですね」 『いえいえ!戦えないんですからこれくらい!守護者のみんなのお役に立てるなら嬉しいです!』 「…ならば僕も君に用事を頼んでもよろしいでしょうか?」 『え…?あ!はい!もちろんです!』 「…では、名前、お茶に付き合ってくれませんか?」 『へっ?お茶、ですか?』 「えぇ、一人では味気ないでしょう。」 『ご一緒していいんですか?』 「クフフ、僕が頼んでいるんですよ。とっておきのチョコも出しましょう。」 『あ…、ありがとうございます…っ!!あっ、それじゃ今すぐ、ツナに手紙を渡してきますから、その後、ご一緒させてください!』 「沢田綱吉ならば、さっき部屋に行きましたが不在でしたよ」 『えぇ!?どこに行ったんだろう…』 「渡すという手紙は誰からなんです?」 『リボーンさんからです、今日は屋敷を留守にするから午後になったらツナに渡せって』 「アルコバレーノからですか。……ならば特に重要な事は書かれてないと思いますが」 『そう、ですかね?』 「えぇ、僕の予想では……」 『予想では?』 「…クフフ、内緒です。僕のお茶に付き合ってくれるのならば教えましょう。」 「骸、堂々とサボろうとするな。」 『……!!』 後ろを振り向くと呆れた顔で骸さんを見ているツナがいた。 そんなツナを見て骸さんは微笑して問いかける。 「沢田綱吉こそ、どうしてこんな所へ来たんです?」 「見回りだよ、見回り」 「クフフ、物は言いようですねぇ。ほら、君宛にラブレターですよ」 「はぁ?誰からだよ」 「君の恋人の名前」 「へぇ、ラブレターだなんて随分と古風な事をするな」 「……が君に届けようとしていたアルコバレーノからの手紙です」 「あ、ごめん、いらない」 『でも、ツナ、急ぎの用かもしれないよ』 「……読んでいいよ」 『え……?』 ツナはリボーンさんからの手紙を拒否して受け取らない。 何でそんなに手紙を受け取りたくないのか、不思議に思って封筒の中を見る。 封筒の中には二つ折りにされた便箋が一枚。 ツナが読んでいいと言ったから、便箋を取り出し目を通す。 『……"オレがいねぇからってサボってんじゃねぇぞ、ツナ。"』 「……」 『だってさ、ツナ』 リボーンさんは自分が屋敷を留守にするとツナがサボると予想していたらしく、この手紙を書いたみたい。 その予想通り我等がボスは見回りと称して堂々とサボり、つかの間の自由を満喫している。 リボーンさんが帰って来たら言いつけてやろう。 でも、最近は忙しかったから内緒にしておこうかな? 少しくらい休んでもいいよね…? こう思ってしまう私はツナに、とことん甘い。 『……』 ツナは手紙に目を通すつもりはないらしい。 だから私は仕事関係の事が書いていないか彼の代わりに手紙を読み続けた。 「ほらな、思った通りだ。」 「そう思ったならさっさと仕事に戻りなさい、沢田綱吉。」 「いいじゃん、骸、お茶。」 「君に出すお茶などありません、僕の部屋で勝手に寛がないでくださいよ」 「あ、チョコ発見!うまそうー…、甘いものは疲れにいいって言うよな」 「僕のチョコですよ、勝手に食べないでください」 「んー、美味しい。あ、ホワイトチョコもあるんだな、これ」 「僕の話を聞きなさい、刺されたいんですか。名前も何か言ってください。」 『ツナ!早く仕事に戻るよ!』 「はぁ!?」 『早く早く!』 「ちょっ、引っ張るなって、名前」 リボーンさんの手紙を読み終えた後、私は血の気が引いた。 だって、最後の一行には「ツナを甘やかしたらどうなるか分かってるな?一緒にサボるんじゃねぇぞ、名前」って書いてあったんだもん!! ツナがサボって私を巻き込む事を予想して書いたに違いない。 リボーンさんの読みが鋭いのかツナが分かりやすいのか……って!今はこんな事を考えていられない! 「おい、名前、いきなりどうしたんだよ」 『え…、あ……、その…』 「あぁ、二人きりになりたかった?」 『な…っ』 「最近、二人きりって中々ないもんな」 『ツナ……』 「だから、リボーンがいない今日がチャンスって思ってさ」 『………!!』 そう言ってツナは穏やかに笑ってるけど、背中に悪魔の羽が見えた。 嫌な予感を感じると背筋にゾクリと寒気が走り手紙を落としてしまう。 ツナが拾ってくれたけれど文面を見てより機嫌が悪くなった。 あれっ?何で? 何で、そんな真っ黒い背景を背負ってるの? 怖いよ、ツナ! 『あ、はは……どしたの、ツナ?』 「骸の部屋を急いで後にした理由はこれか」 『…ー…っ』 「"一緒にサボるんじゃねぇぞ、名前"ね……、まったくリボーン、名前まで脅すなよな」 『……(…今のうちに)』 「こら。何、逃げてんだよ。」 『ひゃ……っ』 「恋人を見て悲鳴を上げる奴がどこにいるんだよ、バカ名前」 『だったら恋人を追い詰めるような事はしないでよ…、って、いうのは嘘です、嘘!睨むのやめて!』 「……だったら、行くぞ」 『どこに?』 「オレの部屋」 『仕事をする気になった?』 「…あぁ、うん、まぁ、そんなところ。リボーンが名前に本気で何かしたら心配だし」 『……っ』 「な?」 あぁ、ツナ! いつも俺様だけど私の事をちゃんと考えてくれてるんだね…!! 手をギュッと握ってふんわり笑顔のオプション付きだから余計にきゅんとしてしちゃった。 「だから、オレの部屋で名前と一緒に堂々サボる。」 『堂々とサボる宣言しないで!』 「部屋に居れば大丈夫だろ」 『だめ!ちゃんと仕事をして!』 「……」 一瞬でも感動した私がバカだったよ!! さっきのときめきを返して! 「さっきから少し反抗的だな、名前」 『ツナ程じゃないけどね!!』 「……ふぅん、そんな事、言っていいんだ?」 『な、なに?』 ツナは不敵な笑みを浮かべてジリジリと近づいて来る。 私はツナが近づいた分、離れる。 それを繰り返してたら、とうとう腕を掴まれて壁際に追い込まれてしまった。 今のツナ、すごく生き生きしてる。 あぁ、もう!いかにもな悪人顔やめて! 「これでも一応、マフィアだからな」 『人の心を読まないで!…って、何するのよ!近いよ!』 「お仕置き。何がいい?」 『な、何がいいって……?』 「そうだな…、例えばリボーンに"名前にサボろうって言われたからサボった"って言うとか」 『え……』 「"おーい、ビアンキ、名前がリボーンを誘惑してたぞ"とか"雲雀さーん、名前がヒバードを焼き鳥にしようとしてましたよー"とか?」 『どれも殺されちゃうよ!!いいの!?これでも一応、恋人なんじゃないのーっ!?』 「一応、じゃなくて、ちゃんとオレの恋人だから。」 『だったら変な事をみんなに言わないでよーっ』 「嘘だって」 『か、からかわないで!本気で寿命が縮むー…、……ッ!!』 ほっとしたところで、重なる唇。 いきなりの事で驚いて心臓が飛び跳ねた。 唇が離れるとツナはふっと余裕そうに微笑んで頭を撫でた。 その顔はまるでこれで許してやるよ、って言ってるみたいだ。(というか私、悪いことなんて何もしてないけどね!!) 『……っ』 「……さ、今度こそオレの部屋に行くぞ」 『さ、サボるの!?』 「サボらない。けど名前はオレの傍にいる事。」 『……っ』 「それくらいいいだろ、名前」 笑顔で問いかけられたら自然と頷いてしまう。 断っても頷いても結果は同じ。 傍にいる事には変わらないと思う。 だけど、頷いたらツナは嬉しそうに笑うから素直に頷いちゃう。 好きな人が自分に向けて笑ってくれる事が何よりも嬉しい。 困るよ、なんて、ため息を吐いて呟いてもツナは私が嫌がってない事はお見通し。 二人だけの時間 もっと、もっと君が好きになる end 2010/06/13 雨様へ 三周年フリリク企画 リクエストありがとうございました! |