十月があと少しで終わる頃、何気なくカレンダーを見て三十一日の行事を思い出した。



「ハロウィン?」

『うん、ハロウィン!今年はやろうよ!』

「……」



私の突然の提案に眉をしかめたのは恋人の雲雀恭弥。
ハロウィンに馴染みがないのかイマイチ、ピンと来ないらしい。



「ねぇ、ハロウィンってなに?」

『へ?恭弥、知らないの?』

「知ってるけど実際に何をするのか知らない。」

『そういう事ね!外国では仮装して家を訪問してお菓子をもらうの!日本じゃお菓子を持ち寄って仮装してパーティーみたいなものするんじゃないかなぁ』

「興味のかけらもないな」

『……トリック・オア・トリート、お菓子くれなきゃ悪戯するぞーって言うのがお決まりの台詞でね、…あっ、でも、やっぱり中学生にもなってハロウィンはないかぁ』

「ふぅん、悪戯ね…」

『……』



今まで興味なさそうだったのに"悪戯"の言葉に反応するのは何故ですか。
悪い顔をしている彼を見て私は嫌な予感しかしない。

何かを真剣に考えているため、喋らない恭弥。
妙に緊張して口を閉ざした私。

しん、と静まり返った空間にダラダラと冷や汗が出て来たところで恭弥が話し出した。



「ねぇ、名前」

『な、なに…?』

「ハロウィンのイベントをやりたいなら仮装してうちにおいでよ」

『……』

「………」

『…ちゃんとお菓子を用意してくれるの?』

「さぁ、それは楽しみにしておいてよ」

『…遠慮しておく。』

「嘘だよ、ちゃんと用意しておくから。おいで。」



何がいいんだい?と聞かれてお菓子をリクエストすると恭弥ははいはい、と相槌を打ってくれた。

本当に本っ当に!本当?
本当に恭弥は純粋にハロウィンを楽しもうと思ってくれてるの?

恭弥の事だから一瞬、ハロウィンを利用して変なことをするんじゃないかって思っちゃったのは杞憂であって欲しい。


***


そして十月三十一日、ハロウィン当日。
多少の心配はあるものの恭弥に言われた通り仮装をして彼の家へと向かった。

コートの下には魔女の衣装。
フリルがたっぷりあしらわれていて可愛すぎる衣装だけれどハロウィンなんだし、たまにはいいよね。



「やぁ、いらっしゃい。名前」

『恭弥!な、何、その格好!』



黒のハットにマント。
似合うけれど"私服"や"部屋着"とは遠くかけ離れた衣装。
まるで私に合わせたような、そんな感じ。

嫌な予感が的中して言葉を失っていると恭弥はにやりと笑い私に問いかけた。



「何に見える?」

『………吸血鬼?』

「正解。はい、これは君が言ってた菓子……」

『……ありがと。えーっと、はは…。あのーそういう事で、じゃあ、帰るねー』

「待ってよ」

『……』

「………」



獲物を狙う吸血鬼。
鋭くきらりと光る牙を見せて私を追い込むと、まるで味見をするように首筋をぺろりと舐め、耳元に唇を寄せて囁いた。



「Trick or Treat…」

『…ー…っ』



発音が良い言葉が耳から入り脳まで響くと、吸血鬼からは逃れられないという想像を簡単にさせた。



「ねぇ、お菓子をくれないと悪戯するよ」

『……っも、持ってない』

「ハロウィンの夜にお菓子、持ってないなんて無用心だね」

『だ、だって…っ』

「それとも悪戯されたかったのかい…」



三日月のように綺麗に口角が上がる吸血鬼は見惚れる程、綺麗。
ひょいっと抱きかかえられて恭弥の家に招かれた。



「……」

『………っ』



恭弥はハロウィンがどういうものか分かってるのかな?

この間、私が説明したのを、ちゃんと聞いてた?
私はね、ハロウィンって、わいわいがやがや楽しむものだと思うんだ。



『……っ』



ねぇ、恭弥。
今度は私から質問するから、ちゃんと答えて?



『ね、ねぇ、恭弥…っ』

「ん…?」












「君にたっぷり悪戯する日。」

『違うからーっ!』

「静かにしないと吸い殺すよ」

『なっ!?咬み殺すのハロウィンヴァージョン!?』



end



2010/10/31
お題配布元:TOY

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