八月。
普通の生徒は夏休みだけれど僕は名前と応接室で風紀委員の仕事をしていた。
今日の仕事が一区切りつくと名前は僕の目の前に来て一枚の紙を見せた。



『ねぇ、恭弥!見てみて!』

「何これ。」

『お祭りのチラシ!今日、並盛神社で夏祭りなんだって!』

「ふぅん」

『打ち上げ花火もあるんだって!』

「知ってるよ、だから?」

『……お祭り、行かない?』

「やだ」

『……っ!!』



応接室で書類を確認しながら簡潔に断ると彼女は予想通り頬を膨らませた。

花火なんて学校の屋上から見えるでしょ。
狩る以外でわざわざ群れの中へ行く奴の気が知れない。

そんな僕の考えなんて伝わるはずなく名前は何か言いたげに見つめている。



「何?まだ何かある訳?」

『たまには一緒にのんびりしたいなぁーなんて思わない?』

「今だって十分、のんびりしてると思うけど」

『……!!』



僕の返答が不満だったのか名前はむっとして詰め寄る。
今度は何を言い出すつもりだろう。

本当に君は飽きないな。



『じゃ、じゃあ!デートしたいって思わない?』

「思わない」

『ひどっ!これでも一応、付き合ってるんじゃないの!?』

「付き合ってるよ、僕がどうでもいい女子と群れるとでも思うかい」

『……それは、群れないと思う、けど』

「だろ。いつも一緒にいるからいいじゃない」

『うー…』

「ほら、さっさと残りの仕事して。」

『……わかったよ!それじゃ、私は校内の見回り行って来る!』



名前は納得してなさそうな口調で乱暴にドアを閉めて見回りに行った。

パタパタと走る音が廊下に響いている。
廊下を走るなんていい度胸してるじゃない。

後でしっかり言っておかないといけないな。
風紀委員なんだから規則はしっかり守ってもらわないと困る。



「………それにしても」



…これって僕が悪い訳?

少しばかり気が強い名前は僕にたいしても臆することなく言いたいこと言う。

それくらいじゃないと面白くない。
自分を曲げず貫く所が気に入っているからいいけれど、こういう時は困る。

どうしたら君の機嫌は直るのかな。



「………仕方ない」



僕は立ち上がると応接室を出て放送室へ向かう。
広い校内を探すのなんて面倒だ。

今は夏休み。
部活で学校に来ていた生徒も日が暮れているから既に帰宅している。
例え聞かれたとしても他の奴なんてどうでもいい。

僕は放送室に入ると学内放送のスイッチをオンにして話した。



≪名前、夏祭りに付き合ってあげる。今すぐ校門に来ないと咬み殺すよ。≫



僕はそれだけ言うと校門へと向かう。
校門で待っていると何分もしないうちに明かりの消えた学校から君がパタパタと走って来るのが見えた。

さっきまで怒ってたのに、もう上機嫌。
本当に単純。

だけど、彼女のその姿を見てホッとする僕も単純に変わりない。

君といてつくづく思う。
随分と僕は甘くなったものだ。



『恭弥ーっ!!』

「……」

『仕事はもういいのっ?』

「良くないよ。仕事はちゃんとこれからするんだから」

『は……?』

「夏祭りで不祥事を起こす草食動物を咬み殺すんだ」

『え………』

「……行くよ」



彼女の手を取って歩き出す。
ひんやりとしている僕の手に名前の温もりが伝わる。



『ねぇ、恭弥……』

「なんだい」

『…これってデート、だよね?』

「デートじゃない。見回りだよ。」

『嘘!見回りの時は手を繋がないもんん!』

「……名前が群れの中ではぐれたら面倒だからだよ」

『な…っ!はぐれないよ!』

「はぐれるよ、絶対にね」

『はぐれないってば!恭弥のばか!』

「……」

『な、なによ』

「忘れてた。」

『……?』

「…さっき、廊下を走った罰」

『え……っ』



立ち止まって煩い名前を引き寄せ唇を奪う。

唇を離すと名前はきょとんとしていた。
けれど、数秒もしないうちにキスされた事を理解したのか頬を染め慌てて話し出す。



『な、なにするの、いきなり!しかも、こんな所で!』

「廊下を走った罰だよ。」

『……っ』

「あぁ、それと……」

『なに、よ?』

「…これは僕をバカって言った罰」

『…ー…っ!?』



そっと髪を撫でて唇を重ねる。
唇を離すと先程よりも顔を赤くしている名前が可愛くて口角が上がった。

そんな僕を見て名前は視線を逸らすと小さく呟いた。



『……ばか』

「もう一度、されたいんだ」

『な………っ』

「…黙りなよ」

『……っ』



三度目のキス。
緊張しているのか繋いでる手に力が入って可愛くて仕方がない。

さて、と。
意地悪はこれくらいにしておこうか。



「…行くよ」

『……っ、…うん』

「………」



神社へと向かう途中、空を見ると花火が打ち上がった。
ふと、花火から君に視線を移すと楽しそうな横顔をしている。



「……」

『わー……』

「………」



柄にもなく、こんな日もいいなと思った。

だけど、やっぱり僕の考えは変わらない。
名前はデートに拘っているみたいだけど僕はデートじゃなくてもいいんだ。












「………本当、僕は君に惚れてるね」

『え?何か言った?』

「…何でもない」



end



加筆修正
2009/08/31

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