今日はバレンタインデー。 本命のあいつには特別なチョコを用意して友達へのチョコも忘れない。 バッチリ準備をして学校に行くと朝から山本と獄寺が女子に囲まれていた。 それは放課後になった今も続いている。 ツナは一日そわそわしていた。 どうやら好きな子のチョコレートの行方が気になっている様子。 私はといえば朝から騒がしい教室の雰囲気に正直、うんざりしていた。 『もう帰ろうかな……』 獄寺達にチョコレートを渡す子達を見ていると思うことは一つ。 よくそんな普通にチョコレートを渡せるなぁ。 あの集団の中、ミーハーなファン装ってたりして本気で本命のチョコレートを渡す子もいるだろう。 『……』 私の本命はあいつ。 群れが嫌い、風紀を乱されるのが大嫌いな雲雀恭弥。 何で、あんな厄介な人を好きになっちゃったんだろう。 初めて話したのは学校の屋上。 眠るのを邪魔しないでよ、どこか行ってって追い返されそうになり私は負けじと言い返した。 内心、トンファーで殴られないかとビビッていたけど大事になる前にヒバードが間に入ってくれた。 空気を読まずヒバードがポフッと雲雀の頭に乗っかるものだから、ついつい笑っちゃったのを今でも覚えている。 『……』 雲雀、今日も屋上にいるだろうか。 いても渡せるかどうか分からないけど、行くだけ行ってみようかな。 どうも気乗りしないけれど私はチョコを鞄の中に入れて教室を後にした。 だけど、屋上の扉の前に来て、ふと、ある事を思い立ち止まる。 『……もしも、いたらどうしよう』 屋上に行くと大抵、会うからいる確立は高い。 いや…、いたなら渡せるチャンスだよね? だけど、渡せるかなぁ。 『………』 こんなこと、悩んでたって仕方ないか。 だって、渡せるか渡せないかと悩む前に、まずは本当に雲雀がいるか分からないもん。 私は、よし!と意気込み思い切って扉を開けた。 『……』 屋上を見回すと彼の姿はどこにも見当たらなかった。 『うーん、ホッとしたような、残念のような…』 こうなったら雲雀に渡す予定のチョコレート、自分で食べるのもありだよね。 せっかく作ったバレンタインのチョコだけど、捨てるのなんて空しいもん。 それにしても…… 『いつもいるのにいないなんて、やっぱり渡さない方がいいってことかな』 「……、…また君か」 『え……!?』 いきなりの声に驚いて身体がビクッとしてしまう。 この声は私が探していた人物に間違いない。 声の主を見ると想像通り鋭い瞳で睨まれていた。 というか「渡さない方がいいかな」って聞かれた…!? うっかり「雲雀にチョコを」って言わなくて良かった……!! 「扉は静かに開けてくれるかい。煩くて眠れない。」 『……こ、こんな寒いのに外で昼寝してんの?』 「まぁね。でも、日が当たっているここは暖かいから」 『ふぅん…』 雲雀は、ふぁ、とあくびを一つ。 私が来たことで一度、起き上がったけれど、また横になってしまった。 『……』 早く出て行って、とは言われてないから傍に寄っても大丈夫かな。 はしごをゆっくり上り雲雀の傍に行くと相変わらず瞳を瞑ったまま寝ている。 雲雀の学ランの上にはヒバードがちょこんと座って、うつらうつら眠たそうにしていた。 「………何?」 『えっ?』 「何でこっちに来るのかって聞いているんだけど」 『何でって、それは……、今日は出て行けなんて言われてないから』 「出て行けって言っても出て行かないからだよ、君も。この鳥も。」 『随分、懐いてるね、ヒバード』 「……草壁が餌付けしてるからね。図々しい。」 ≪ヒバリッヒバリッ≫ 「煩いよ、黙って。僕は眠りたいんだから」 『疲れてるの?』 「朝から群れてる奴らばかりだからね」 『まさか狩ってたの?せっかくのバレンタインなのに』 「僕には関係ないよ。そもそも菓子類の持込みは校則違反だ」 『校則、違反…』 雲雀はバレンタインデーよりも校則の方が大事らしい。 せっかくだから渡すだけ渡したいのにチョコレートを出したら咬み殺されるかもしれない。 そう思ったら鞄からチョコレートを出そうとした手を止めた。 黙っていると雲雀はため息をついて話し出した。 「……君も、誰かに渡したのかい」 『え……?』 「チョコレート。」 『渡して、ないけど……』 「……そう。校則違反してないならいいよ。」 『……、…してる』 「……?」 『持って来てないなんて言ってないでしょ』 「へぇ…」 私がバレンタインデーなんて行事に参加するイメージがなかったのか意外そうにしている。 悪い?と怒りつつ、しゃがむとヒバードが驚いてしまったようでパタパタと飛んで行ってしまった。 「校則違反だと言ったばかりだよ。なのに風紀委員長の僕に堂々と言うなんて、いい度胸してるね」 『……だったら、没収すればいいじゃん。ほらっ!!』 「……」 『………』 「…誰に渡すつもりだった訳?」 『……、……』 「…黙っているなら、僕が貰うよ」 『え…?』 「……疲れてる時には甘いものがいいっていうからね」 『あぁ、そういう意味ね。…それじゃ、あげる。』 鞄からチョコレートを取り出して雲雀の横にことんと置いた。 あぁ、本命チョコレートとして用意したのに、こんな渡し方にするなんて思わなかったよ…!! 「……ねぇ」 『何…?』 「どういう意味で受け取って欲しかったんだい?」 『は…っ!?』 「屋上で僕以外と群れてる君、見たことないんだけど」 『……!!』 「……さっき、探してた相手って」 『……っ!帰る…!!』 「待ちなよ」 『な、何よ……っ!?』 「五時になったら起こして。」 『………は!?』 「目覚まし時計の代わりが君のせいで飛んでいったからね」 『ヒバードの事……!?って!ちょっ、何で、私が!』 「それじゃ、おやすみ」 『……!?』 どういう顔をしていいか分からず顔を背け立ち上がろうとしたら袖をつんと掴まれてしまった。 放してくれないから仕方なく、また隣に座ると会話がなくなった。 ちらりと横を見ると瞳を閉じている。 『……』 私がチョコを渡したい相手は雲雀だって絶対に感づいている。 「疲れてる時には甘いものがいいっていうでしょ」なんて言ってたけど、分かってて貰ってくれたなら期待しちゃうよ。 優しさなのか、からかっているのか、よく分からないな。 『ねぇ…』 「……」 『もう寝たの…?』 「……、……」 『……本当、マイペースなんだから』 「………」 『はぁ…、何で好きになっちゃったんだろう…』 「……、…そんなの僕に聞かないでよ」 『え……っ!?』 「………」 『ちょっ、起きてたの…!?』 「寝たなんて誰も言ってない」 『……!!』 雲雀は瞳を開けると挑戦的に微笑んでる。 顔が熱くなって、ドキドキが邪魔をして何も言えない私に雲雀はそっと囁いた。 君なら僕の傍にいてもいいよ、って。 『……っ』 君の特別になりたい もっと君を知りたい。 だから、ずっと傍にいさせてね? end 2009/02/14 |