祭りって言えば、やっぱりボール当て。
ボール当てをやると今年も祭りに来たーって感じになるんだよな!

それに今年は彼女の名前が隣にいるから余計に張り切っちまう。
二人で浴衣を着て祭りでデートって新鮮なのな!



「……」



ボール当ての屋台のおっちゃんに一回分を支払ってボールを受け取る。
野球で鍛えた肩で思いっきりボールを投げると、でかいクマのぬいぐるみも一発で落ちた。



『すごいっ!武!』

「これくらい楽勝だって!」

『普通はこんな大きいの倒れないよ!』

「鍛え方が違うからな!」

『野球で鍛えてるもんねー!すごいなぁー!』

「ほら、名前」

『えっ?なに?』

「やるよ、ぬいぐるみ」

『いいの!?』

「お前のために取ったんだぜ!次はどれがいい?」

『……!そ、それじゃ、あれがいい!』

「ん?あー、あれな…」

『取れる…?』

「楽勝ー!よ…ー…、とっ!!」

『わ、わ…っ!すごいっすごい!また取れた!』

「楽勝だって言ったろ?」

『うんっ!』



名前が欲しいと言ったのは雲雀の鳥みてぇに黄色いひよこのぬいぐるみ。

こんなぬいぐるみで喜んでくれるんだったら、いくらでも取ってやる。
夢中になって景品を次々に落としていくと袋は一杯、おっちゃん涙目、名前は笑顔で最初に取ったでかいクマのぬいぐるみを抱きしめていた。



「こんなもんか!」

『な、何だかメインの景品ばかり取っちゃったよう、な…?』

「はは、毎年の事だって!わりぃな、おっちゃん!」

『ま、毎年なんだ…』

「ん?そりゃあ、祭りに来たら、これをやらないとな!……と、やべっ、そろそろ花火の時間じゃねぇか?」

『えっ?あ…っ、本当だ…!』



ボールの的当てを切り上げ花火を見るために、名前の手を取り急いで移動する。

去年、見つけた秘密の特等席に行くと、やっぱり人は一人もいなくて二人きり。
やっぱり、この場所って穴場なのな!

息を吐いて足を止めると後ろから名前の声がして振り向くと不機嫌な声で頬を膨らませていた。



『武ってば、早すぎるよ、もう!』

「あ…、わ、わりぃな、…つい。」

『……ここなの?武の言ってた特等席って』

「……!あぁ!すげーよく見れるんだぜ!」

『座ろっか』

「あぁ!」



草むらに腰を下ろして薄暗い中、花火が打ち上がるのを待つこと数分、ふと思った。

去年は名前と知り合ってなかったな、って。

嘘みたいだよなー。
気がついたら、何もかもあっという間だった。

今までは野球ばっかりだった自分が誰かをこんなに好きになるなんて不思議に思う。



「………」

『武、何、ぼーっとしてんの?』

「あ…、いやー…早く花火、上がんねぇかなって…」

『だよねっ!やっぱり夏と言えばお祭りに花火!』



名前は眩しいくらいの笑顔を向ける。

そんな笑顔を見ると改めて好きだーって思って、たまらない気持ちになる。
とことんお前に惚れてるのな、オレ。



『あ…、始まる……』

「お……」



ヒュ〜……ドォン!!と一発目。
身体にドンと響く低音とかすかな火薬の匂いが、あぁ夏だと実感させる。

ふと、名前を見ると花火の光に照らされていて綺麗で夜空の大輪よりも見惚れちまう。

ここはロマンチックに手を握りてぇなと思うけど邪魔するのは、さっき取ったクマのぬいぐるみ。
名前はさっきからずっとクマのぬいぐるみを抱き締めている。



「…なぁ、名前」

『んー?』

「その、ぬいぐるみ…」

『え…?』

「ちょっと貸してくんね?」

『いいけど……、どうしたの?』

「ちょっとな」



名前からひょいっとぬいぐるみを受け取りオレの隣に座らせた。

その行動の意味が分かっていないようで名前は首を傾げオレをじっと見つめている。
オレはニッと笑うと名前の手を握った。

顔を赤くして驚いている名前。
可愛くて少しだけ強く握れば、応えるように握り返してくれる。

嬉しくて、自然に顔が緩んじまう。



「花火、綺麗だな」

『……っうん』

「………」

『……、ね、武』

「ん?」

『……来年も、さ。ここで一緒に花火見よう…?』

「………」



驚いて言葉が詰まると同時にこみ上げてくる嬉しさ。

「来年も」という言葉が嬉しかった。
だって、それは来年も名前の隣にオレがいれるって事だから。



『武…?』

「……!あぁ、もちろん。一緒に見ようぜ。」

『…ー…うんっ!』



ギュッと指を絡めて、約束と願いを込めて名前と口付けた。
来年だけじゃなくて、これからも毎年、名前と花火が見れますように、と。



end



加筆修正
2009/08/07

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