神様、こんなのってあんまりです。

どうして彼はあんなに素敵なの?

爽やかで明るくて、いつも笑顔で元気。
勉強は少し苦手みたいだけど全然、マイナスってイメージじゃなくて、いつでも皆の中心。

私と言えば、目立たなくて取り得もなくて平凡という言葉がピッタリ。

諦めたくない恋だけど、自分に自信が持てないから私と彼とじゃ釣り合わない、叶わない恋だって思っちゃうんだ。








smile smile



放課後の教室。
私は委員会に出ている友達を待ちながらグラウンドを眺めていた。

私の視線の先には爽やか笑顔の野球部エース、山本武くん。

山本武くんはクラスメイトで私の好きな人。

彼とは何回か話したことがある。
話した時はたった一言二言なのに心臓が飛び跳ねているように騒がしかった。

あの時は奇跡に近かったな。
いつも思うけど、山本くんとは中々、話せないもん。

何故なら山本くんは人気者で、いつも周りに誰かがいるから。



『……』



今もグラウンドのフェンス越しに山本くん目当ての女子がたくさんいて、彼を応援している。

いいなぁ…!!
私も、あんな風に応援が出来たらいいのに。



『……、が、頑張って、ね』



なんて、バッティング練習をしている山本くんに向かって呟いてみる。
どうせ聞こえないから声に出せる。

私は皆のように大声で応援なんて恥ずかしくて出来ない。



『あ……』



今更だけど野球部がこちら側を向いて練習している事に気がついた。
山本くんがこっちを見てる訳ないのに、どきどきして机に伏せる。

もしも、見てるって、ばれたら嫌だもん。



『ふー…』



諦めたくない、頑張りたい。
だけど恋を頑張るって、どう頑張ればいいんだろう。

私の場合、まず普通に話せるようにならなきゃ。
簡単なことなのに、すごく難しいよ。



『……』



今度、思い切って声をかけてみようかな?
机に伏せて考えていると、ふと、この間の出来事を思い出した。

帰りに山本くんを見かけて声をかけてみようと思ったら、沢田君と獄寺君も一緒にいたから諦めた事を。

沢田君はともかく獄寺君が怖い。
すぐに睨んでくるし声が大きくて、沢田君も怯えて話しているのを見た事がある。



『あーぁ…』



山本くんって最近、沢田君と一緒にいることが多いから必然的に獄寺くんも一緒。

この前も密かに山本くんを見てたら獄寺君が気配を察知したみたいで、周りを睨んでいたから急いで目線を逸らした。
そのせいか話せる機会もぐんと減った。

見てるだけでもいいと思っていたのに、今ではそれも叶わない。

あぁ、本当に片思いって…



『うぅ、辛い………』

「苗字、具合、悪いのか?」

『………へ?』

「ん……?」

『え…、えぇっ!?』

「おい、大丈夫か?」



ふいに聞こえた声に驚いてパッと顔を上げると、そこには山本くんが心配そうに私を見ていた。

さっきまでグラウンドにいた彼が何故ここに!?
突然の登場に心の準備が出来ていなくて声が裏返ってしまい、ついグラウンドと目の前の山本くんを交互に見てしまう。

辛いと呟いた独り言を山本くんは具合が悪いのと勘違いしているのか、私のおでこに手を当てた。



『ひゃ…っ』

「……」

『や、山本くん…!?』

「んー…熱はねぇな」

『……っ』

「具合が悪いなら、そろそろ帰った方がいいんじゃね?」

『あ……っ、そ、その…っ』

「苗字?」

『……!だっ、大丈夫!元気!全然、平気!』

「そうか?だったら、いいんだけどな。でも、何で教室に残ってるんだ?」

『あ…っ、と、友達を待ってるの!委員会の集まりがあるみたいで!』

「ふーん、そっか。」



隣の席に座る山本くん。
肘をついて私にニッと笑いかけてくれた。

その笑顔、反則だよ…!!



『…ー…っ』



私、顔、赤くなってないかな?

こんなに長く話せたのって久しぶり。
それに、二人きりなんて初めてで、余計にドキドキしちゃうよ。



『や、山本くんは何で教室に?部活中だよね…!?さっき、バッティング練習を…』

「あぁ、そうだぜ。やっぱ、見ててくれてたのな、サンキュー!」

『う、うん…、いつも頑張ってるよね、すごい、なぁ』

「おぅ!次の試合、レギュラーに入りてぇからな!」

『そ、そっか…』

「んじゃ、もういっちょ頑張ってくっか!」

『あ、う、うん!…部活、頑張って、ね!』

「おぅ!頑張るから、ちゃんと見ててくれよな!」

『……っ』



ニッといつもの笑顔をくれると山本くんは立ち上がり部活に戻っていった。

ドキドキが邪魔して始終、噛みっぱなしで変に思われたかもしれないけど、話せて嬉しい。
委員会だから待ってて!って言ってくれた友達に感謝だよ!



『ちゃんと見ててくれよな、かぁ…』



やっぱり応援があるとスポーツって頑張れるんだよね!
頑張ってね、って言えたし今日はラッキーだなぁ。



『……あれ?』



でも「やっぱ、見ててくれてたのな」って何か、おかしい。
もしかして、私が山本くんを見てたの気づいて、た…?



『……っ』



そういえば山本くん、何でわざわざ教室に来たんだろう。
もしかして、さっき机に伏せて窓から見えなくなったから心配してくれた、とか?

いや、いやいや、勘違いはだめだよ、私!
さすがにそれはないでしょ!



『……』



ふと、窓の外を見ると山本くんがこちらを見ていて目が合った。
すると山本くんは、こちらに向かってピースして笑う。

誰に向かってピースしてるんだろう?
慌ててキョロキョロと周りを見たら、山本くんはきょとんとした顔を見せて、また笑った。



『……!!』



もしかして、今のピース、私に…?

ドキドキしながら小さく手を振ると、もう一度、ニッと笑ってくれて山本くんは手を振り返してくれた。

だけど、顧問の先生に見つかって小突かれていた。
そんな姿でさえ好きだなぁって思ってしまう。



『……山本くん』



何事も、やってみないと分からないよね?
何でもかんでも諦めるのは、もうやめよう!

神様、この恋、全力で頑張ってみます!



だって、彼の事が大好きだから!












頑張ってね、山本くん!
恥ずかしいけれど、教室から応援したら山本くんは笑って手を振ってくれた。



end



加筆修正
2009/5/12

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