ゆさゆさ、とんとんとん。
おい!名前!いい加減に起きろ!

乱暴な口調で肩を揺すられ軽く叩かれる。
声の主は私の彼氏、獄寺隼人。

目を開けると教室は夕焼けで満ちていた。
どうやら放課後の教室で隼人を待っていた私はいつの間にか机に伏せて眠ってしまったらしい。

教室には私と隼人だけ。
起きたものの強い光が眩しくて目を細めごしごしと擦る。



『んー…隼人だ…。おはよ……』

「おはようじゃねぇ、もう夕方だ」

『……じゃあ、おやすみなさい?』

「な……っ」



そう言い残すと私は再び机に伏せる。
目を閉じる私を見て隼人は慌てて声をかけた。



「おい、また眠るんじゃねぇよ!風邪、ひくだろ!」

『……』

「名前……」

『………』

「マジかよ…、おい、名前、起きろよ」



十代目をお待たせてしてるんだ!と隼人は、また私の肩を軽く揺すぶる。

本当はもう眠たくないけど眠ったふり。
だって、ほんの少しだけ構って欲しいから。

きっと、何だかんだ言っても隼人はちゃんと起こしてくれる。

もう一度、私の名前を呼んで?
そうしたら、今度はちゃんと起きるから。



『……』

「起きろよ」

『………』

「おい……」

『……』

「…マジで眠っちまったのかよ」

『………』

「…仕方ねぇ奴。」



イライラし始めちゃったかな?
そう思って若干、心配になって来たけど返答のない私を見て、ため息を吐き呆れているようだった。



「先に行くぜ」

『……』

「……、後で怒っても知らねぇからな」

『………』



隼人の声だけが教室に響く。
肩に触れていた手が離れるとシーンとして静まり返った。



『……』



物音、一つしない。

あれ…?もしかして隼人、いない…?
本当に私を置いて帰っちゃった?

隼人が構ってくれないんじゃ眠ったふりなんて意味がない。

うぅ、ひどい。
今すぐ起きて隼人を追いかけようかな。

寂しさを感じつつ目を開けようとしたら、髪をさらりと撫でられ頬に柔らかいものが触れた。
一瞬だけの感触だけど、それが隼人の唇だってすぐに分かった。

だって、隼人がいつも吸ってる煙草の匂いがしたから。



『……!?』



驚いて飛び起きると頬にキスをした張本人は目を真ん丸にして夕焼け色に染まっている。



「な、な、なな…っおま…っ」

『は、隼人、今…っ』

「てめ…っまさか、狸寝入りか…!?ふざけんな…!!」

『今、頬に…っ』

「あ、後で怒っても知らねぇからなっつっただろ!」

『置いてくからって言う意味で言ってたんじゃないの!?…っというか!』

「な、何だよ」

『べ、別に怒らないもん、むしろ嬉しい…』

「……っ」

『どうせなら、ちゃんと起きてる時にしてくれればいいのに…』

「な……っ!?」

『あ……』



思わず呟いてしまった言葉にハッとして視線を逸らす。
頬がやたらと熱いのは夕焼けのせいじゃない。

再び静まり返る教室。
数秒して隼人は俯いている私の頬に触れ自分の方へ向かせる。



「あ、後で怒っても知らねぇからな……」

『………怒らないって言ったよ?』

「名前……」



少し掠れた声で私を呼ぶ。
嬉しくて、だけど恥ずかしくて、はにかむような笑顔を見せて瞳を閉じた。












物語のお姫様にはなれないけどね

いつだって、あなたは私の王子様



end



2011/4/30

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