三月十四日、ホワイトデー。 バレンタインデーには付き合ってる名前からチョコをもらった。 甘いもんなんて得意じゃねぇし日本のバレンタインなんてうざってぇ行事としか考えられなかったが名前は別だ。 「……」 チョコレートの礼にと悩んでやっと買ったのは棒付きのキャンディー。 ホワイトデーフェアだか何だかコーナーが設置されている店に入るだけでも躊躇してしまった。 思い切って店内に入ったはいいが、いざ買うのもどれがいいのか分からなかった。 それでも、何分も悩んで喜びそうなものを購入したつもりだ。 だから目の前で喜んでいる名前を見てほっとした。 『ありがとー!!まさか用意してくれるなんて!』 「まぁ、な。」 『ねぇ、他の女の子には…』 「用意する訳ねぇだろうが。大体、受け取ってねぇ」 『……!』 「見つからねぇようにしとけよ」 『…うん!開けてもいい?』 「あぁ…」 放課後、屋上で二人きり。 プレゼントの包みを開けて目を輝かす名前の隣に腰を下ろす。 口には出さないが中身が気に入るかどうか心配になって落ち着かねぇ。 名前の前で吸うことはしねぇ煙草を一本、取り出して指先で弄る。 『隼人!隼人!』 「んだよ、気に入らなかったのか……って、なっ!?」 気に入らなかったのかよ。 そう言おうとしたら口元に押し付けられたのは棒付きキャンディー。 オレが咥えたのを見届けると、もう一本の封を開け口に含み隣に座る。 『おすそ分け!煙草じゃなくてキャンディーにしなよ、学校なんだから!』 「おすそ分けっつっても、これはオレが…」 『細かい事は気にしないの!可愛いね、このキャンディー!』 「こんなのに可愛いも可愛くないもあるか」 『あるよー、隼人のは猫、私のはうさぎの形してるの!』 可愛いよね、と笑いピンクのうさぎの形をしたものを見せる。 名前が無理矢理、オレの口にいれた甘いキャンディー。 そのキャンディーを名前と同じようにして見ると確かにそれはオレンジ色で猫の形をしていた。 『瓜みたいだね』 「まぁ、猫だからな…」 『隼人も猫みたいだから猫キャンディーをチョイスしてみました!』 「お前なぁ…、オレの事をからかってんだろ」 『からかってないよ?愛情表現!』 「な…っ」 『あっ、顔、真っ赤になった』 「……っ見んじゃねぇよ」 隣で無邪気に笑いオレの顔を覗きこむ名前が可愛くて、だけどこんな格好悪いところは見せたくない。 そうは思っていても顔の熱は、いつまで経っても冷えない。 反撃とばかりに何か言葉にしても、名前には敵わない。 いちいち顔を赤くしてしまうオレを見て名前は無邪気に笑った。 『あはは、隼人ってば可愛い!』 「男に可愛いって言うなよ、…くそっ!!」 『そっぽ向かないでよ、隼人!』 「うるせぇよ、こっち見んな」 『隼人ー、隼人ってば!』 「……っ」 つんつんと袖を引っ張り、明るい声でオレの名前を呼ぶ。 名前に名前を呼ばれる度、どうにかなっちまいそうだ。 耳まで、熱い。 『隼人?』 「…ー…っ」 『……あ、やっとこっちを向いてくれた!』 「……そう何度も呼ばれたら、向くしかねぇだろ」 『まだ顔、赤いね!かわいい!』 「てめっ、また…っ!!」 『ふふ…っ』 そっぽを向いていたけれど、名前を無視できず視線を移す。 目が合うと嬉しそうに、また笑った。 …あぁ、もう、お前の方が可愛いんだよ。 「名前…」 『ん?』 「………」 『…ー…!』 不意にキスをして言葉を遮る。 驚かせちまったみてぇだけど、髪を撫でると名前の身体の力が抜けていくのが分かる。 「……甘ぇ。何だよ、この味は」 『い、苺ミルク味……』 「クッ、名前も顔、赤いじゃねぇか」 『だ、だって……』 「ん?」 『オレンジの味、した』 「は?」 『隼人の、味』 「な………っ」 『…〜…っ』 手の甲で唇を押さえ俯く名前。 その姿を見るとオレの顔は、また熱くなった。 だけど今度は名前が俯いているため、からかわれる事も見られる心配もない。 心配はないけれど、心臓が煩くて気を紛らわせるようにガシガシと自分の頭をかいた。 「へ、変な言い方すんじゃ、ねぇよ」 『だ、だって隼人がいきなり、キスするから』 「そ、それはお前が…っ」 『……っ』 「あー…、…くそっ。」 お互いに赤い顔、妙に甘い雰囲気に鼓動が高まる。 瞳が合うと甘い香りに誘われるように、もう一度、唇を重ねた。 口に移るのは甘い味。 だけど、この味はキャンディじゃねぇな。 甘いのは、お前だ、名前。 『……っ』 「……」 甘いものは苦手だけど、これは悪くねぇ。 重なっていた唇が離れると同時に腕の中に閉じ込める。 耳元で好きだ、と囁くと嬉しそうに名前が微笑んだ。 オレも名前と同じように笑みを零した。 end 2011/03/21 |