夏祭りに行かない?とクラスメイトの名前に誘われた。 丁度、暇だったから名前と行くだけ。 あくまで暇だったから、それだけだ。 そう、心の中で何度も呟きながらオレは待ち合わせの場所に向かった。 「………」 『あ!獄寺、来た!よっ!』 「………あ、あぁ。」 「ガハハ!ツナ!ランボさん、あれやるーっ!」 「待ってよ、ランボ!ねぇ、ツナ兄!早くしないとランボを見失っちゃうよ!」 「あぁ!もう!おい、ランボ!待てってば!フゥ太もはぐれるなよ!」 「はひっ!ツナさん、待ってください!京子ちゃん、行きましょうっ!」 「うん、待って、ハルちゃん!」 「ははっ、賑やかなのなー」 「………」 ……おい、こんなの一言も聞いてねぇぞ。 何で野球馬鹿やアホ女達も一緒なんだよ! 十代目はいいとして、野球馬鹿たちもいるなんて一言も言ってなかっただろうが! 「……」 ……まぁ、二人きりとも言ってなかったけどよ。 そもそも付き合ってもねぇのに、個人的にオレを夏祭りに誘うっつーのがおかしいか。 「………何、勘違いしてんだよ、オレ」 『……?獄寺、早くしないとみんな、行っちゃうよ!』 「……」 『ねぇ!獄寺!聞いてるの!?』 「あ゛ぁ?んだよ、名前」 『ぼーっとしちゃってどうしたの?いつもよりも眉間に皺が寄ってるし!』 「……うるせぇよ」 『お腹が空いてるとか?』 「違う」 『じゃあー…私の浴衣姿に見惚れた、とか?』 「……っ!んな訳ねぇだろ!」 『ふふっ、冗談だよ、獄寺』 「……」 『あっ、もしかして図星だったの?』 「うるせぇな、違ぇよ」 『なーんだ、残念』 「な……っ」 名前が無邪気にオレを覗き込んできた。 首を傾げる仕種にドキッとして不自然に視線を逸らす。 少しだけ、本当に少しだけ浴衣姿に見惚れてた。 だけどよ、こんな事は絶対に言えねぇだろ。 『獄寺!ねぇ、獄寺!』 「……っんだよ」 『またぼーっとして!早く行こうよ、ツナ達、先に行っちゃったよ』 「なっ!?十代目が!?」 『だから、ほら!早く行こうよ…って、わ…っ!?」 「……たく、どんくせぇな、お前」 『だ、だって…っ』 名前が人の波に連れ去られる所を引っ張って救出。 掴んだ手首は細くて少しひんやりとしていた。 つい掴んでしまった事が恥ずかしくなり、オレはパッと手を離す。 『ど、どんくさいって何よ!早くしないとツナ達、見失なっちゃう…って、もう見えないし!』 「なっ!十代目にもしもの事があったら、お前のせいだぞ!」 『夏祭りに危険な事なんてないわよ!でも、早く探しに行こっ!』 「おぅ、早く行くぞ!」 『ちょっ、待ってよ…!そんなに急いだら私達もはぐれちゃう!』 「……」 『今度はどうしたの?』 「んじゃ……、ほらよ…」 『何よ、その手…』 「手を出せっつってんだよ!」 『は?なんで?』 名前は差し出したオレの手をジッと見つめている。 つか、分かれよな! 「オレ達まで、はぐれたら馬鹿みたいだろうが!」 『え……』 オレは名前の手を強引に取った。 そのまま背中を向けて歩きだす。 「………」 『ねぇ、獄寺、手…』 「仕方ねぇからだ!」 『で、でも…』 「…んだよ、文句あっかよ。」 『ないけど、さ……こ、恋人繋ぎって言わない?この繋ぎ方…』 「…んなの知らねーよ。しっかり掴んでおかねぇと、さっきみてぇにふらふらどっか行くだろ」 『……っ好きでふらふらしてた訳じゃないもん!』 「へーへー、そういう事にしとくぜ」 『……もう!』 「……」 恋人繋ぎなんて知らねぇって言ったのは嘘だ。本当は知ってた。 だけど、知らねぇふり。 知ってる、なんて言ったら手を繋いでいられねぇ。 「……なぁ」 『なに…?』 「……、…嫌、か?」 『え…?』 「手」 『あ……、い、嫌じゃ、ない…よ…』 「そうかよ…」 『……、…うん』 「………」 繋がっている手から熱が広がっていくように感じる。 ふと振り返り名前を見るとオレと同じように顔を赤くして下を向いていた。 「……」 十代目を探す、なんてもう調子のいい口実だ。 わざと歩きを遅くして遠回り。 露店に目を向けて寄り道する。 楽しそうに笑う名前につられてオレも不器用に笑う。 出店の親父に「彼氏彼女」とちゃちゃを入れられても少しでも、この時間が続くようにと思った。 「………」 『あ……』 「どうした?」 『花火……』 「……」 空を見るとドォンと花火が上がった。 さっきまで、はしゃいでいた名前は静かになって空を見上げてる。 『きれい…』 「…ー…っ」 いつもと少し違う雰囲気に心臓が煩い。 オレは花火よりも、名前の横顔から目が離せなかった。 このまま時間が止まればいいのに そう思うのは何でだ? 自分に問う前に、スッと答えが浮かんだ。 あぁ、そうか。 オレはきっと、お前の事が 「…好き、って事かよ」 『………?何か言った?』 「…何でもねぇ、今は気にすんな」 end 2009/08/20 |