幼なじみであり片思いの相手、獄寺隼人に休日に誘われて「デート」かと思いきや期待は呆気なく崩れた。

分かってたけど、がっかりして肩を落としちゃう。



「おい、名前、早く行くぞ」

『…はーい、早くツナの家に行かなきゃね』

「さっさとしろっつーの」

『分かってるよ』



昔の隼人はそりゃあもう、可愛かった!

私達は仲良しで、どこに行くのも一緒だった。
ビアンキから逃げてる時、私も付き合っていたっけ。

今の隼人はどうしてこうなってしまったのか、口調は乱暴で誰にたいしても喧嘩を売るような態度。
背は私よりも高くなって声は低くなった。

あげたらきりがないくらい変化したけれど、日本に来てからというもの特に内面が変わっていった。



「名前」

『……』

「おい、名前」

『…ー…っ!?』

「ぼけっとしてオレの話を聞いてなかっただろ」

『ご、ごめん。なに?』

「お前、十代目を馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇよ」

『え?だって、ツナが呼んでいいって言ったもん』

「それでも、だめだ!」

『えー!?』



前の隼人なら、どんな人にも従おうなんてしなかった。
だけど、少し離れていた間に何よりも優先されるのがボンゴレファミリー十代目「沢田綱吉」になっていた。

前は考えて行動してた(と思う)のに今では十代目の危機とあらば火の中、水の中。

誰にも懐かなかった隼人が忠誠を誓うなんて、どんな人かと気になり日本に来てみたら普通の…いや、普通よりダメダメなツナで拍子抜け。



『………』



お互いに成長した今、私の事を少しは「異性」として見てくれるかな、と期待してたんだけど全然、だめ。

やっぱり幼なじみは幼なじみでしかないみたい。

それに、ツナが中心となった今の隼人は右腕を目指すことに一直線で恋愛は二の次と感じる。



『……』



私たちの関係はこれからも変わらないんだろうな。

友達以上恋人未満。
きっと、それが私たちの丁度いい関係なんだ。

だから、変わらない。変われない。

一歩が踏み出せない。



『……イタリア、帰りたくなってきちゃった』

「は?」

『……ん?何?どうしたの?』

「いきなり何を言ってんだ、お前」

『えっ?声に出してた?』

「思いっきり出してただろうが。どういう事だ?」

『んー、そろそろイタリアに戻ろうかなって…』

「だから、何でだよ」

『………なんとなく?』

「…帰るなよ」

『へぇ、止めてくれるんだ?』

「……ったりめーだろ」

『なんで…?』

「理由なんてねぇ」

『ねぇって、そんな無茶苦茶な…』



呆れた視線を送ると隼人は頭をガシガシとかいて視線を逸らした。
そっと覗き込むと真面目な顔で引き止めるように私の手を握った。



『……?』

「……隣に名前がいねぇと、落ち着かねぇんだよ」

『………へ?』

「言わせんなよ、馬鹿」

『そ、それってどういうこと…?』

「…どうもこうも理由なんてねぇっつーの」

『またそう言う…』

「こうとしか言えねぇ、オレの隣にいろ」

『……ずっと?』

「……っあぁ、ずっとオレの隣にいてお前も十代目をお守りしろ!!」

『………』



期待していた答えと違うけど、きっとこれは隼人なりの告白なんじゃないかって思っちゃう。

というか、ずっとオレの隣にいろ、だなんて告白通り越してプロポーズだよ?

ねぇ、隼人、耳まで真っ赤なの気づいてる?



『……ずっと』

「………」

『ずっと、隼人と一緒に?』

「……あぁ。十代目の右腕はオレだけどな!」

『ずっと、隼人と一緒かぁ…、何だか嬉しいなぁ!』

「………」



離れないよ、と言うように隼人の手を強く握ったら、隼人も握り返してくれる。

それがすごく嬉しくて、笑ったら隼人はくしゃりと髪を撫でてくれた。



『ねぇ、隼人!』

「どうした?」

『私、隼人の右腕になる!』

「………はぁ?何でそうなるだよ…」

『理由なんてねぇ!』

「オレの真似すんな、馬鹿!」

『たっ!』



撫でていた手で小さく拳を作った隼人に小突かれちゃった。

むっと拗ねた振りをして隼人を見ると、彼は納得がいかない様子。

私が右腕っていうのが、そんなに不満?



『私じゃ頼りにならない?』

「……」

『じゃあ、山本くんの右腕になっちゃう』

「今よりさらに能天気馬鹿になるからだめだ」

『ちょっ、能天気馬鹿って…』

「……もっと他にねぇのかよ」

『……?他にって?』

「…気づけっての、馬鹿」

『また馬鹿って言った』

「何度でも言ってやる。馬鹿馬鹿、ばーかっ!」

『ひどいっ!そのペースだったら一生で何万回も言われそうな気がするんだけど!』

「はっ、だな。一生のうち何度、言っても言い足りねぇ気がするぜ」

『そんなに私、馬鹿!?』

「あぁ」

『言い切らないでよ、隼人の馬鹿!』

「んだと!言いやがったな…!」

『だって、隼人がいけないだもん!』

「一日、一回は馬鹿って言ってやる、覚悟しとけ、馬鹿」

『隼人の方が馬鹿だもん!』

「てめっ、また言ったな」

『いたたっ、また小突かないでよ!』

「自業自得だ」

『もうー!!』

「………」

『……』



こんなやり取りが妙に楽しくて、私達は顔を見合わせると同時に吹き出して笑った。



『………』



彼は変わった。
気づかないだけで、きっと私も変わった。
お互いに大人になっていく。

だけど、一生、変わらないものが一つだけある。



繋いだ手が、それを教えてくれていた。













遠くない未来、きっと言うから待っててね。
右腕じゃなくて隼人の恋人になりたい、好きだよって!

同じ気持ちだったら、そうしたら、馬鹿って言わないで好きって言って?



小突かないでやさしいキスをちょうだい。



end



2009/01/03

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