雲雀恭弥君との出会いは中学一年生。
並盛中に入学したばかりの春、校内で迷子になっていた私を助けてくれたの。

助けてくれた、っていうより仕方なくって感じだったけどね。

それからというもの朝や帰りに会ったら、おはようとばいばい、また明日!

お昼に会ったら一緒にご飯を食べて話に花を咲かせた、って言っても彼はお喋りじゃないから私が話してばっかり。

だけど、ちゃんと話を聞いてくれるんだ!

最初のうちは毎回毎回、出会い頭に睨まれたりしてたけど、今では優しいの!

時々、見せてくれる笑顔は素敵だし小鳥にも普通に話しかけちゃうから根はいい人なんだと思う!

……なんて、彼のことなら何時間でも語れちゃう。

だって、私の頭の中は彼のことでいっぱいだから。



『……』



そう、私は友達としてじゃなく異性として雲雀君が大好き!

自分の気持ちに気づいたら気になっちゃうのは雲雀君の気持ち。

雲雀君は私のことをどう思ってるのかな?

なんせ彼は群れが大嫌いな人。

でも、せめて私のことは友達くらいには思ってくれてるよね?

ねぇねぇ、雲雀君、雲雀君!

私と雲雀君って友達だよねっ?




「君と友人になった覚えはないよ」

『……』

「勝手に挨拶して傍にきて話してるだけじゃないか」



屋上で雲雀君との昼食中、淡い期待をして聞いてみたら、あっさり砕かれちゃいました。

そんな!ひどいよ!と思ったら既に顔に出ていたらしく雲雀君に「変な顔」とふんっと息を吐かれる。

それでも、めげずに雲雀君の目の前に座り詰め寄るように話し掛けた。



『雲雀君、雲雀君!』

「なんだい」

『私達、今から友達になー…』

「やだ」

『じゃ、じゃあ!私と雲雀君ってなにっ?』

「……?」

『友達だと思ってたの私だけだったなんて…!!』



顔を伏せてしくしくと泣きまねをしてみる。

泣き落としでも、どうにもならない事くらい分かってるけど、これくらいしたって罰は当たらないよね!

こんな私を相手にするのが面倒になって呆れたように諦めて「友人でも何でもいいよ」とか言ってくれないかなっ!?

その一言を聞かせてくれなきゃ死んでも死に切れないよっ!



「……」

『………』



あ、あれ?
何で黙ってるの?

静かになったことが不安になってきて、ちらりと雲雀君を見たら何やら真剣に考えてくれているみたい。

わー、嬉しいな!
そんな真剣に考えてくれるなんて!

私は単純にそう思ったけれど、一分、二分、沈黙が続くと心配になってきて雲雀君の顔色を窺った。



『……』

「………」



……そんなに真剣に考えてまだ何にも答えが出ないの?

本気で涙が出てきちゃいそうだよ!



≪ヒバリッヒバリッ!ナマエッナマエッ≫

「ん……?」

『あっ、ヒバード…』



ずーんと沈みかけていたところにパタパタと飛んできたヒバード。
雲雀君の指に止まると自由気ままに毛繕いをし始める。

その様子を眺めていると雲雀君はヒバードと私を交互に見て短く声を上げた。

何なの、その分かったみたいな声は!



「名前はー…」

『まさかヒバードと同じとか言わないよね?』

「ワォ、よく分かったね」

『友達じゃないとか言われて、ずっと考えた末に出た答えがペットってひどくないっ!?』

「ペットじゃないよ、この子も勝手に傍に来るだけだから」

『……』

「煩くて、僕をよく二回呼ぶ。」

『う……』

「君と似てるよ」

『……』



口を尖らせていたら雲雀君は微笑してヒバードを指先から肩に移した。

私とヒバードが似てるってどこがだろう?
ふと、ヒバードと私の共通点を考えてみる。

雲雀君が言うには勝手に傍に来て煩い。
雲雀君!雲雀君!と続けて二回、呼ぶ事が多い。



『……(それくらいで似てるって言われてもなぁ…)』



逆に私とヒバードの違う所と言えば、雲雀君との距離だ。
ヒバードは肩や頭に乗ったりして雲雀君の一番、傍にいる。
見れば見る程、羨ましい。



『……!』



雲雀君とヒバードを見てピンと閃いた。

私も、もっと傍に行ってもいいかな?

いつもは適度な距離があるけど、ヒバードみたいに「勝手に」雲雀君に寄り添っちゃったりしてもいい?

普段と違うことをしたら、雲雀君が私を意識してくれるかもしれない……よね?



『雲雀君、雲雀君!』

「なに」

『あ、あのね…』

「ん……?」



立ち上がって雲雀君の隣に腰を下ろす。
さすがにピタッと寄り添うのは恥ずかしいから、これが今の精一杯。



「……なに」

『ヒバードのまねっこ!頭や肩に乗れないから隣!』

「この子の、真似…?」

『うん!……だめ?』

「……」

『って、だめでも勝手に傍にいるからね!』

「…ふぅん、面白いことを思いつくね」

『そう?あっ、不満なら並盛校歌、歌うよ!みーどりーたなびーくーっ』

「……」

『なーみもりー…』



の、と歌い続けようとしたら雲雀君は何を思ってか私の肩を抱き寄せ、そのまま後ろに寝転がった。

一瞬の出来事で気づいた時には雲雀君に腕枕をしてもらっている状態になっていて、校歌の続きは声が裏返ってしまった。



『のぉぉぉーっ!?』

「…音程、外れたよ」

『はっ、はず…っ』



外れるに決まってるよ、雲雀君っ!!

そう言葉にしたいけど、至近距離で見つめられたら上手く話せない。

というか何してるの!?
何なの、この状態は!!



≪ヒルネッヒルネッ≫

「君も静かにね」

『……!!』



寝るのっ!?
この状態でっ!?

そんな冗談でしょっ!?



『ひ、ひば…っ』

「おやすみ」

『おやすみ…っ!?』



雲雀君は私とヒバードにおやすみと言うと目を閉じてしまった。

ヒバードもお昼寝タイムなのか雲雀君のすぐ傍に下りてジッとしている。



『…ー…っ』



雲雀君、雲雀君!
まさか私がヒバードの真似とか言ったから同じ扱いをしてるの…っ!?



「……」

『……っ』



ヒバードと同じくらい雲雀君と近い距離にいる。

心臓が破裂してしまいそうなくらい高鳴って、深呼吸しても落ち着かない。



『ひ、雲雀君!』

「……」

『…っ雲雀君!ねぇ、雲雀君ってば!』

「煩いよ。名前も眠りなよ」

『む、無理だよ!』

「眠くないの?」



そういう訳じゃなくて!
あぁ、もう!何て言ったらいいんだろう!

腕枕は正直、嬉しいよ!

だけど、どう考えてもおかしいでしょ!この状態!

お昼寝は一人と一羽でお願いします!!



「眠れないなら静かにしてなよ、名前」

『そ、それも無理!』

「……」

『ねぇ、雲雀君!』

「………」

『ま、まさか、もう話すのが面倒だからこのまま眠っちゃおうとか思ってるっ!?』



本当に眠っちゃった?
タヌキ寝入りでしょっ!?

その後、何度も声をかけても雲雀君は眠っていると主張するように黙ったままだった。



『…〜…っ』



こうなれば、私のしつこさが勝つか雲雀君を襲う睡魔が勝つか勝負だ!

けれど、これ以上、騒ぐと雲雀君に本気で怒られそうな気がしたから、控えめに名前を呼び続けた。



「名前…」

『……!雲雀君……』



目は開けてないけれど、雲雀君は私の名前を口にした。

それはイコール、雲雀君が折れて離してくれるものかと本日二度目の淡い期待をする。

だけど、その淡い期待はやっぱり彼によって打ち砕かれた。



「名前、静かにして」

『……っ!?』



そう一言、囁くと雲雀君は解放する所か私を逃がさないように、ぐっと自分の方に引き寄せた。

ただでさえ近い距離がさらに縮まり一瞬、息も身動きも止まってしまう。



『…ー…っ』

「……いい子」



今までに聞いた事がないくらい優しい声が耳に入ったら、もう何も言えない。

静かになって満足したらしい雲雀君は私の髪を撫でながら、ゆっくりと夢の世界に入っていく。



「……」

『…〜…っ』



私の心臓は相変わらず、忙しい。

なのに雲雀君は落ち着いた様子ですやすやと眠っていた。



あぁ、もう!












ねぇ、名前。

鳥の真似して無防備に傍に来て、君は僕を少しも意識してないだろ?

意識させたくて腕の中に閉じ込めたら、君は声も鼓動も普段より煩くなった。

いつもは少し困るけど、今日は助かったよ。

だって、煩いから、君は僕の心音に少しも気づかない。




end



2011/10/23
お題配布元:確かに恋だった

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