最初はね、嫌だ嫌だって思ってたの。 だけど、ここまで何度も見たら段々と慣れてきた。 だってさ、大体は同じパターンじゃない? 変な光、音、声が入ってる。 身体の一部が消えてたり、その反対にありえないものが映ってたり。 それが何よ。 何なのよ。 マフィア…、現実の方がよっぽど怖いっての! いるなら出てきなさいよ! 「ひぃぃ!」 『ぎゃぁぁぁ!』 「ははっ、すっげー、長い髪の女が映ってたのな!」 「うっせーぞ!静かに見てろ!名前!野球馬鹿!」 『うぅ…、ツナだって叫んでたのに何で私と山本君だけ怒るのよ…』 ただ今、私達は獄寺がレンタルしてきた「放送禁止×投稿心霊ファイル!」というDVDをツナ宅で見ている。 投稿で寄せられた話や動画、写真で成り立っているシリーズもので今、見ているもので三巻目。 私はあまりに怖くて自分を落ち着かせるため心の中で強気になってみたけど効果はなし。 怖いものは怖い! 心の中といえど調子にのってすみませんでしたぁぁぁ!と今すぐ幽霊様に土下座したい。 あぁぁ、こんなの見てて本当に出てきたらどうしよう! 今夜は眠れないよ…!! 「おっ、今の見たか?鏡に顔が浮かんでたぜ!」 『や、山本君…』 「どうしたんだよ、名前」 『ど、どうしたんだよって、その……』 ふと考えて見た。 私は今、ツナの隣にいる。 ツナじゃなく山本君の傍なら安心なんじゃないかって。 何て言うか…、こう…、山本君の傍には悪いものは寄って来なさそう、みたいな? 山本君の底抜けの明るさに悪いものが避けて通りそう…!! それに隣で笑ってくれるから気が紛れるかも! 『や、山本君っ!』 「ん?どうした?」 『隣に行ってもいい…!?というか、お願い!隣にいさせて下さい…!!』 「ははっ、いいぜ!もしかして怖いのか?」 『うん、心臓が飛び出た』 「出たのかよ!ははっ、面白いのなー!」 「なっ!名前、何で山本の隣に…!!どこで見たって同じだって!」 『同じじゃない!……多分!!』 「ほら、こっちに来いよ、名前」 『ありがと!山本君!!』 山本君は鞄をどかして隣にスペースを作ってくれる。 急いで移動して山本君の隣に腰を下ろすと今までになく安心できた。 『……!』 何、この謎の安心感! 隣が違うってだけでこうも変わるとは思わなかったよ! だけど、ほっと出来たのは、つかの間、何やら嫌な気配を感じた。 何かに見られているような、もやもやする空気、気持ち悪い。 『……っ』 ま、まさか、ツナの部屋に何かいるとか…? こんなDVDばかりを見てるから寄って来ちゃった!? 恐る恐る辺りを見回す。 すると原因は心霊的なものではなく獄寺の視線だった。 『獄寺?何よ、ジッと見て…』 「……、…何でもねぇ」 『……?』 「集中して見やがれ、アホ名前」 『な…っ!?獄寺にアホって言われたくない!』 「まーまー、続きを見ようぜ!」 「そ、そうだよ、……ほ、本当は見たくないけど」 山本君とツナは今にも喧嘩が始まりそうな私と獄寺を止める。 気乗りしないものの、今度は山本君の隣でテレビに目を向けた。 「ひぃぃーっ!火の玉ー!?」 『……』 「え…、うわぁぁ、な、何であんなに移動してんのー!?」 ちょっと、ツナ。 死ぬ気の炎を額と手に灯すだけでなく、ぶっ放すくせに小さな火の玉で怯えないで。 「十代目、今の声、聞こえましたか!?」 「な、何か、悲鳴みたいなのが…」 「オレとしては今のは風の音かと!いや、奴らは絶対にいると思うんスけどね!」 獄寺、語り出さないで! 無駄に暑苦しいよっ!ツナ、困ってるよ! 獄寺はテレビを見ながら心霊現象について熱く語る。 語ってる間に映像はどんどん進み、情報は全て視聴者から寄せられたという身近に感じる話になった。 N町の夕方の公園に一人佇む血だらけの学生。 K町の複合娯楽施設廃墟にいるミステリアスな眼帯少女。 殺人集団が住んでいるという謎の古城。 パラレルワールドを覗けたBさん、イタリアの貴族に憑依されたというKさん。 『……』 こういう話は特にやだ。 まさか自分の町っ!?あの人かも!?とか思っちゃうんだもん! 再現されたVTRはどれもこれもゴクリと息を飲んで見てしまうものばかり。 なのに私の隣、山本君は違っていた。 「おっ、こっえー、すげぇな、古城だってよ!」 『……』 私ね、本当に怖い時ってね、こっえー!なんて明るく言えないものだと思うんですよ、山本君。 『………』 その証拠に私はさっきから一言も喋れず画面に動きがある度に身体の内側を誰かに拳でドンドンと叩かれてるみたいに心臓が脈を打ってる。 あー、やだやだやだっ! こうなったら私も山本君のように笑い飛ばしてみようかな? …いや、そんなの無理だ! 心霊DVDを見ながら笑い飛ばしている自分の方が異様な光景で怖い!! あぁ、この後、どうしよう…!! ▼違うDVDを見ようと提案する 2ページへ ▼日が暮れる前に帰る 3ページへ |