恋人の恭弥に今夜、ハンバーグを作りに来てよとお願いされた。 まさかハンバーグが好きだとは意外だけど私は材料を揃えて、さっそく家に向かう。 家にお邪魔して部屋を覗くと人を呼んでおいて彼はスヤスヤと眠っていた。 『恭弥…?』 声をかけても無反応。 起きないなんて珍しいな。 よっぽど疲れているのかと傍に寄り髪を撫でると気持ち良さそうにしていた。 『……』 本当は起きてるとか、そういう落ちはないよね? 恭弥は物音に敏感だから、起きていても不思議じゃない。 『恭弥……』 もう一度、声をかけても反応なし。 瞳を閉じて定期的な呼吸をしている。 狸寝入りってことはなさそう。 もしかして私に安心してくれてるのかな? そうだとしたら嬉しいな。 『……』 静かにサラサラした黒髪を撫でていると、ある悪戯を思い付く。 ぐっすり眠ってるところ、悪戯を思い付いちゃうなんて私って悪い子? だけど、いつもからかわれているから、たまにはいいよね…? 『ごめん、恭弥!ちょっとだけ!』 小さく呟いて私は日頃の仕返しにいつか恭弥につけてやろうと思って常備していた「ある物」を取り出した。 『じゃーん!黒の猫耳と赤の首輪セットー!』 ……と!少し大きな声を出しちゃったけど恭弥、起きてないかな? そっと恭弥の様子を見ると先程と変わらず静かに眠っていた。 その様子を見たら六道君のようにクフフと怪しい笑みが零れてしまう。 『静かに、そーっと……』 さすがに首輪はつけられないけど黒の猫耳を恭弥の頭に装着することに成功! 恭弥の黒髪と合っていて違和感がなく可愛くて頬が緩んじゃう。 ベストショットな奇跡の一枚を携帯に収めて、にやにやしていると恭弥がぱちっと目を開けた。 『あ……』 「………?」 危ない危ない! もう少し遅かったらばれちゃうところだったよ! …って、よくなーい! 恭弥の頭に猫耳をつけたままだ! 『……っ(どうしよう!)』 「名前…、来てたんだ…」 『う、うん…。恭弥、起きないなんて珍しい、ね…』 「ん……」 ぼーっとしていた恭弥は欠伸をして上半身を起こした。 猫耳をつけて欠伸。 まだ眠たそうな目。 寝癖がついた髪。 あぁ、もう、どうしよう!可愛すぎる…!! ぎゅっとしたい!! 『…〜…!!』 「……?」 当の本人は猫耳に気づいてないみたい。 私はにやにやが顔に出ないように堪えていると彼は怪訝そうな顔をして、こちらを見る。 「……何、笑ってるの」 『え…っ!?わ、笑ってないよ…!?』 「…自分の顔、見てみなよ」 今、自分の顔を見た方がいいのは恭弥の方だよ! ばれたら何をされるか分かったもんじゃないけどね。 「ねぇ…」 『な、なにっ!?』 「手に持ってるのものは何?」 『手…?』 すっかり忘れてたけど、私の手には真っ赤な首輪。 猫耳とセットで持ち歩いていたものだ。 あぁっ!しまい忘れてたーっ!! 「それは首輪…?」 『……当たり』 「犬か猫でも拾って来たのかい」 『………ね、猫かな。大きな黒猫。』 「猫かなって……拾って来たの君だろ?悪いけど僕は飼う気ないよ」 『……怒らない?』 「何が?」 『えーっと、ね…』 これ以上、黙っておくことは出来なくて恭弥の頭を指差した。 それでもまだ分からないらしく彼は私を見つめて疑問符を浮かべている。 「なに?」 『…だから、ね』 「ん…?」 『……、…頭』 「頭…?寝癖でもついて……」 寝癖でもついてる? そう言おうとした恭弥は自分の頭に触れたら、手も言葉も止まった。 「……なにこれ」 『猫耳!』 開き直ってニコニコしながら言うと恭弥はぴくりと眉を動かして低い声で話す。 「………僕が眠ってる間につけたのかい」 『……えへ』 「…もう取るからね。」 『えー!似合ってるよ!せめてハンバーグを作る間くらい…』 「咬み殺すよ」 『う……っ』 黒猫恭弥、すっごく可愛いのにな。 小さく呟いたら恭弥はむっとして猫耳を取ろうと頭に手を伸ばした。 あーあ、本当にもう取っちゃうのかぁ。 残念だけど仕方ない。 しゅんとしていると、恭弥は何を思ったのか動きを止めニヤリと悪い笑みを浮かべた。 『……?ど、どうしたの…!?』 「……ねぇ、名前」 『なに……?』 「………」 『……』 嫌な予感! そういう悪い顔をしている恭弥は絶対に変なことを考えてる!! まさか、仕返しに私に猫耳をつけようとか考えてるの!? ありえそうだから簡単に想像がついてしまい背中に悪寒が走る。 恭弥は猫耳をつけたまま口角を上げて言葉を失ってる私にジリジリと近づいた。 『わ……っ』 不意に手を掴まれ布団に押し倒されると視界は黒猫恭弥。 目を細めて悪戯そうに微笑む彼は黒猫なんて可愛いものではなく、まるで獲物を捕らえた黒豹だ。 『ちょっ、なんで押し倒すのよ…っ!?』 「別にいいじゃない。僕、猫なんだろ?」 『な…っよくないよ!離れて……っ』 「猫だから人間の言葉は分からないな」 『喋ってるじゃん、ばかっ!!』 「……」 恭弥は私に甘えて、じゃれるように首筋に顔を埋める。 そして甘咬みされたと思ったら、耳元に唇を寄せて低音で囁かれた。 「ねぇ、名前…」 『な、なに…!?』 耳元に息がかかり、くすぐったくてぎゅっと目を閉じると恭弥の低音が、よりクリアに耳に届いた。 "この格好をさせたのは君なんだから" 責任を持って飼ってよね 「たっぷり可愛がってあげるよ、名前」 『飼えって言うなら普通は私が可愛がる立場なんじゃないのーっ!?』 end 2011/08/04 |