右手に携帯。
左手に映画のチケットを持ち早、数十分。

この映画のチケットは姉貴がリボーンさんと見に行く予定だったが都合が合わずオレに寄こしてきたものだ。

クラスメイトの名前が見たいと言っていた恋愛映画のチケット。
学校で雑誌を見ながら話していたのが記憶に新しい。

オレは隣のページに特集されていたアクション映画の方がまだマシだと言ったら文句を言われたっけか。



「……」



電話帳に登録されている名前の名前を見つめ、もうどれくらいの時間が経っただろう。



「………」



押せば名前に電話がかかる。
そんなの当たり前で簡単な事なのに押せねぇ。

大体、なんて言えばいいんだ?
映画を見に行かねぇ?って言うのか?

つか、何でオレが名前と映画を見に行かなきゃいけねぇんだよ。
しかもラブストーリーの映画を。

つか、オレは興味ねぇしチケットを名前にやればいいのか。

いや、でもチケットをやって他の奴と行かれたら何かムカつく。



「くそっ、どうしちまったんだよ、オレ…」



あー、分かんねぇ。
この気持ちは何なんだ。

晴れない気持ちを払うかのように携帯片手にソファーへ横になる。



「……」



オレが電話かけたら名前はどう思うだろう。

別に深い意味はねぇんだ。
オマケのオマケ、大オマケで「友人」に電話かけるのはおかしくねぇよな…?



「ダチ、か…。…って言うよりも、ただのクラスメイトだろ」



そうだ。
オレと名前はただのクラスメイト。
隣の席で、話すくらいの関係だ。



「………」



名前との関係を考えていたら、また苛々してきたため置いてあった煙草に火をつける。



「……」



決めた。
かけてやる。

電話一つで何でこんなに悩む必要があるんだ。
…なるようにしかならねぇだろ。

そう思ったら気が楽になり煙草を消してボタンを押す。
けれど、二秒、三秒待つがコール音は一向に鳴らなかった。



「あ?なんだ…?」



充電でも切れたのか?
そう思いディスプレイを見ると通話中の文字が表示されていた。

何で通話中になってんだ?
意味が分からねぇ、そう思っていたら電話の向こうで声が聞こえた。



「……あ゛!?」

≪獄寺ー?ねー、聞こえてるー?もしもーし≫

「な、なん……」

≪出るの早くない?びっくりしちゃった≫

「……っ」



かけようとした時、名前がオレに電話してきたっつーことか。
今まさに電話かけようとしてたから、なんて口が裂けても言えねぇ。



≪獄寺ー!聞いてる?≫

「……っ、あ、あぁ、聞いてるぜ」



耳元で聞こえる名前の声に鼓動が早くなったことは気に留めず、平常心を装って話を聞いた。



「……用件はなんだ?」

≪あ!そうそう、えっとね、映画、見に行かない!?≫

「……は!?」

≪獄寺、この間、雑誌に載ってたアクション映画がいいって言ってたじゃん?今日、リボーン君からたまたまチケットを貰ってさー≫

「な、なんでオレとお前が…っ」

≪だって最近、映画、見てないし……、あっ、私と行くのが嫌なら獄寺にチケットをあげようか?ツナと一緒にでもー…≫

「ま、待て」

≪何?≫

「行ってやる」

≪え…?≫

「だから、そこまで言うなら行ってやるって言ってんだよ」

≪いや、別にそこまでは言ってないんだけど…。私はラブストーリーの方が…≫

「…そっちもチケットあるぜ」

≪えっ!?≫

「勘違いするんじゃねぇぞ。オレも、たまたま手に入っただけだからな!別に行きたくなけりゃ…」

≪行く!!≫

「……」



そうかよ、と小さく呟くと電話の向こうではさっそく計画を立て始めた。

さっきまでのイラつきはどこへいったのか、オレは静かに名前の声に耳を傾ける。
面倒と思う反面、こういうのも悪くねぇと思いながら。

映画が楽しみなのか、名前の声は弾んでて気分がいい。
無愛想に相槌をうつ、オレの声は名前にどう聞こえているんだろう。



「……」



夜は、どんどん更けていく。
だけど、オレ達の話は尽きることなく続いた。



≪というか、これってデートみたいだねー≫

「な…っ!?」

≪あ…、照れてる…?≫

「て、照れてねぇ!」



end



2008/12/13

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